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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第195話 エヴァはごくりと咽をならした
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エヴァは片手でバイクのハンドルをつかんだまま、必死でタルディスの体を引きあげようとした。
だが簡単にはあがらない。
それどころかバイクの後方をつかむ怪物たちの力が強まりはじめ、さらにうしろに傾きバイクが立ちあがりはじめる。片手で姿勢制卸するのが精いっぱいのエヴァにはそれをたち切る術がない。
「マリアさん、うしろの怪物を頼みます!」
くるしい体勢からそう叫んだとたん、後方の張力から一気に解き放たれた。
今度はその反動でバイク後方が前につんのめる。が、その勢いの強さがさいわいした。前に思いっきり振られたタルディスが、その勢いで後部座席にふり戻されたのだ。
なにが起きたか理解できず、きょとんとした表情で後部座席に座るタルディス。だが、タルディスはうしろをむいていた。
「タルディスさん、上昇します。つかまっててください」
「つ、つかまるって……、ど、どこをつかめば?」
「どこでもいいからつかんでて下さい」
そう言うなりエヴァは一気にバイクを上昇させた。バイクが上向くと後部座席でタルディスの「わぁああ」という悲鳴があがったが、おかまいなしに怪物たちの勢力圏から抜け出した。
「落ちてないですか!」
エヴァが後部座席にむかって声をかけた。
「あ、えぇ、いえ、あぁ……。だ、だ、だいじょうぶ……です」
うしろがどんな状態でとっちらかっているかは見えなかったが、とりあえず無事だと判断したエヴァは、下にむかって大声をあげた。
「マリアさん。あなたはどうされますかぁぁ」
「バカ野郎。この状況になんか選択肢があるような言い方するンじぇねぇ」
マリアは数体の怪物を斬り伏せながら、声だけをあげた。
「そうですねぇぇ。あとはなんとかしてくださいぃぃぃ」
「さっさとタルディスを連れて逃げとけぇぇぇぇ」
マリアはいちいち煩わしいという口調で返事をかえしてきた。
エヴァは安全地帯がないかと遠くに目をこらした。
その時、競馬場のレーンのゴールライン付近に一人の少女が座っているのに気づいた。どこかで見た風景——。その既視感に、胸騒ぎがつのりはじめる。
エヴァはいそいで方向転換すると、そのレーンの上空を低飛行で近づいた。すぐ真下にふたたび怪物の姿が近づいてくると、タルディスが大声で叫んだ。
「エヴァさん。低すぎますよぉ」
だがエヴァは聞く耳などもたなかった。おびえた表情でたたずむ少女の姿に目を奪われていた。そしてその顔が見えるやいなや、エヴァはごくりと咽をならした。
それは、まぎれもなくセイの妹、ユメミ・サエの姿だった——。
だが簡単にはあがらない。
それどころかバイクの後方をつかむ怪物たちの力が強まりはじめ、さらにうしろに傾きバイクが立ちあがりはじめる。片手で姿勢制卸するのが精いっぱいのエヴァにはそれをたち切る術がない。
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くるしい体勢からそう叫んだとたん、後方の張力から一気に解き放たれた。
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なにが起きたか理解できず、きょとんとした表情で後部座席に座るタルディス。だが、タルディスはうしろをむいていた。
「タルディスさん、上昇します。つかまっててください」
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「落ちてないですか!」
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「あ、えぇ、いえ、あぁ……。だ、だ、だいじょうぶ……です」
うしろがどんな状態でとっちらかっているかは見えなかったが、とりあえず無事だと判断したエヴァは、下にむかって大声をあげた。
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「そうですねぇぇ。あとはなんとかしてくださいぃぃぃ」
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「エヴァさん。低すぎますよぉ」
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