301 / 935
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第189話 あれほどまでにすごいとは……
しおりを挟む
カチンというなにかのスイッチをはね上げる音——。
次の瞬間、ドオォォンという爆発音がレース場に轟き、怪物たちが暴れていた北側の土手の中腹あたりが吹き飛んだ。ピストル・バイクからミサイルが放たれたのだとすぐにわかった。着弾した場所からはもうもうと煙がたちあがっていたが、ウォンとアクセルを吹かす音がしたかと思うと、エヴァたちは煙のなかに一気に飛び込んでいき、バイクはアッという間に見えなくなった。
「あれじゃあ、ピストル・バイクじゃなくて、バズーカ・バイクかキャノン・バイクじゃないのかね」
ゾーイがつくづく感心している様子で呟いた。
「確かに……。それにしてもマリア様もエヴァ様も腕利きのダイバーだとは聞いておりましたが、あれほどまでにすごいとは……」
「お姉さま。残念だけど、あまりにも力量差がありすぎだよ。あたいはミノタウロスに襲われたとき、なんにもできなかったのに、マリアさんはそいつを一撃で倒して、物足りねぇって言ったんだよ。逆立ちしても敵いやしないよ」
「口惜しいですね。わたくしは、ゾーイ、あなたこそ、この世界でもっとも優れたダイバーだと思っていたのですよ……。でも上に上がいるものです」
「世界レベルを思い知らされってとこかねぇ」
「ですが、おまえはこの姉のせいで、幾重にもハンデを背負っているのです。恥じることはありません」
そう言ってゾーイを励ましたが、スピロは自分が悔しくて、情けなくてしかたがなかった。ゾーイに詫びる気持ちばかりが込み上げてくる。スピロはゾーイにその気持ちを伝えなくてはならないと感じた。
「ゾーイ……」
スピロは口を開いた。が、それ以上ことばは続かなかった。
ゾーイのうしろに怪物がいた。それも一体ではない。
おおきな体躯のミノタウロスは鋭い牙を見せつけ、ケンタウロスは涎を垂らしながら、狂気に駆られた目をこちらにむける。そのうしろには、なにとなにが合体したかもわからない、おぞましい姿のキマイラが唸り声をあげていた。それを従えているのは人間の頭が四つ生えている怪物。おそらくケロベロスを模したものだろう。だが、その頭は首元からではなく、頭の上に縦に四連で並んでいた。
あわてて周りを見回すと、いつの間にか何百という怪物たちにスピロたちは取り囲まれていた。ゾーイが無言のまま、ゆっくりと腰から剣をひきぬく。
小さく、ひ弱な剣、一本——。
ミノタウロスが天空にむかって咆哮する。それに呼応するように、ほかの怪物たちが威嚇するようなジェスチャーをしてみせる。
スピロはゾーイの顔を見た。
ゾーイは蒼ざめていたが、勝ち目のない戦いを戦い抜く覚悟しているようだった。
足がすくむ——。
次の瞬間、ドオォォンという爆発音がレース場に轟き、怪物たちが暴れていた北側の土手の中腹あたりが吹き飛んだ。ピストル・バイクからミサイルが放たれたのだとすぐにわかった。着弾した場所からはもうもうと煙がたちあがっていたが、ウォンとアクセルを吹かす音がしたかと思うと、エヴァたちは煙のなかに一気に飛び込んでいき、バイクはアッという間に見えなくなった。
「あれじゃあ、ピストル・バイクじゃなくて、バズーカ・バイクかキャノン・バイクじゃないのかね」
ゾーイがつくづく感心している様子で呟いた。
「確かに……。それにしてもマリア様もエヴァ様も腕利きのダイバーだとは聞いておりましたが、あれほどまでにすごいとは……」
「お姉さま。残念だけど、あまりにも力量差がありすぎだよ。あたいはミノタウロスに襲われたとき、なんにもできなかったのに、マリアさんはそいつを一撃で倒して、物足りねぇって言ったんだよ。逆立ちしても敵いやしないよ」
「口惜しいですね。わたくしは、ゾーイ、あなたこそ、この世界でもっとも優れたダイバーだと思っていたのですよ……。でも上に上がいるものです」
「世界レベルを思い知らされってとこかねぇ」
「ですが、おまえはこの姉のせいで、幾重にもハンデを背負っているのです。恥じることはありません」
そう言ってゾーイを励ましたが、スピロは自分が悔しくて、情けなくてしかたがなかった。ゾーイに詫びる気持ちばかりが込み上げてくる。スピロはゾーイにその気持ちを伝えなくてはならないと感じた。
「ゾーイ……」
スピロは口を開いた。が、それ以上ことばは続かなかった。
ゾーイのうしろに怪物がいた。それも一体ではない。
おおきな体躯のミノタウロスは鋭い牙を見せつけ、ケンタウロスは涎を垂らしながら、狂気に駆られた目をこちらにむける。そのうしろには、なにとなにが合体したかもわからない、おぞましい姿のキマイラが唸り声をあげていた。それを従えているのは人間の頭が四つ生えている怪物。おそらくケロベロスを模したものだろう。だが、その頭は首元からではなく、頭の上に縦に四連で並んでいた。
あわてて周りを見回すと、いつの間にか何百という怪物たちにスピロたちは取り囲まれていた。ゾーイが無言のまま、ゆっくりと腰から剣をひきぬく。
小さく、ひ弱な剣、一本——。
ミノタウロスが天空にむかって咆哮する。それに呼応するように、ほかの怪物たちが威嚇するようなジェスチャーをしてみせる。
スピロはゾーイの顔を見た。
ゾーイは蒼ざめていたが、勝ち目のない戦いを戦い抜く覚悟しているようだった。
足がすくむ——。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる