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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第183話 あわてるな、戦っているのはユメミ・セイだ
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マリアはめんどうくさそうにため息をつくと、「ゾーイとおんなじ心配するんだな」と言いながら、東側の折り返し点のその先にある観客席を指さした。
数本の剣がだれかを囲いこんでいる様子が、遠めにわかった。
「あぁ……。セイさんの技ですね。剣の牢屋っていうか……」
「言うな。ちょいとパクらせてもらった」
「マリア様……。あれでタルディス様を守れるのですか?」
「心配するな。オレが遠隔操作で守ってる。それにもう怪物どもは現れねぇよ。エヴァが観客どもを逃がしちまったからな」
マリアがスピロにウインクしながら、軽口を叩くと、ゾーイがそれを大声で否定した。
「いや。でてきたよぉ」
ゾーイは競馬場のトラックのほうに向けられていた。不安いっぱいの目。エヴァはその視線の先に目をむけた。
それはこちらから一番遠くになる北側のレーンにいた。とんでもなく大きな体躯の巨人だった。ミノタウロスとは比べものにならないほどのおおきさ。それが北側のレーン上に立ちはだかり、走ってくる戦車に攻撃を仕掛けているようだった。
その巨人がふいにからだを折り曲げると、おおきく手をはらう動作をした。とたんに数台の戦車が馬ごと宙を舞っていた。
「サイクロプス——」
スピロがうめくように言った。ゾーイが呆然とした表情で声を荒げる。
「ま、まずいよぉ。今セイさんが奥の折返し点を曲がったよ。あの怪物のいるレーンに突っ込むんじゃないかぃ」
ゾーイのひきっった表情がスピロに伝播したのがわかった。たちまち顔が蒼ざめていく。
さすがにエヴァもあわてた。
エヴァはすぐさま手のひらを下にむけると、地面に呼び出した結界からふたたびロケット・ランチャーを召喚しようとした。
ここから狙ってあの巨体を何とかできるのは、それしか考えつかない——。
銃床がゆっくりとせり上がってくる。だが、そのスピードはあまりにも遅い。これでは間に合わない。焦りがつのる。
エヴァはちらりとマリアを見た。だが、マリアは両手を頭のうしろで組んだまま。二タニタしながら巨人の方を眺めていた。手に武器を持つわけでも、すぐに行動をおこせるように備えるでもなく、ただ傍観しているだけだった。
「マリアさん!。何をしてるんです、この緊急時に!。セイさんを助けないと」
「バーカ、あわてんな、エヴァ。あそこで戦車を駆っているのはセイだ。ユメミ・セイなんだぞ。なにか心配することが一ミリでもあるのか?」
口汚いのは相変わらずだったが、その声は真剣そのものだった。そこに本気でセイを信じているマリアの気持ちがあふれていた。
「そうでしたわねぇ……」
数本の剣がだれかを囲いこんでいる様子が、遠めにわかった。
「あぁ……。セイさんの技ですね。剣の牢屋っていうか……」
「言うな。ちょいとパクらせてもらった」
「マリア様……。あれでタルディス様を守れるのですか?」
「心配するな。オレが遠隔操作で守ってる。それにもう怪物どもは現れねぇよ。エヴァが観客どもを逃がしちまったからな」
マリアがスピロにウインクしながら、軽口を叩くと、ゾーイがそれを大声で否定した。
「いや。でてきたよぉ」
ゾーイは競馬場のトラックのほうに向けられていた。不安いっぱいの目。エヴァはその視線の先に目をむけた。
それはこちらから一番遠くになる北側のレーンにいた。とんでもなく大きな体躯の巨人だった。ミノタウロスとは比べものにならないほどのおおきさ。それが北側のレーン上に立ちはだかり、走ってくる戦車に攻撃を仕掛けているようだった。
その巨人がふいにからだを折り曲げると、おおきく手をはらう動作をした。とたんに数台の戦車が馬ごと宙を舞っていた。
「サイクロプス——」
スピロがうめくように言った。ゾーイが呆然とした表情で声を荒げる。
「ま、まずいよぉ。今セイさんが奥の折返し点を曲がったよ。あの怪物のいるレーンに突っ込むんじゃないかぃ」
ゾーイのひきっった表情がスピロに伝播したのがわかった。たちまち顔が蒼ざめていく。
さすがにエヴァもあわてた。
エヴァはすぐさま手のひらを下にむけると、地面に呼び出した結界からふたたびロケット・ランチャーを召喚しようとした。
ここから狙ってあの巨体を何とかできるのは、それしか考えつかない——。
銃床がゆっくりとせり上がってくる。だが、そのスピードはあまりにも遅い。これでは間に合わない。焦りがつのる。
エヴァはちらりとマリアを見た。だが、マリアは両手を頭のうしろで組んだまま。二タニタしながら巨人の方を眺めていた。手に武器を持つわけでも、すぐに行動をおこせるように備えるでもなく、ただ傍観しているだけだった。
「マリアさん!。何をしてるんです、この緊急時に!。セイさんを助けないと」
「バーカ、あわてんな、エヴァ。あそこで戦車を駆っているのはセイだ。ユメミ・セイなんだぞ。なにか心配することが一ミリでもあるのか?」
口汚いのは相変わらずだったが、その声は真剣そのものだった。そこに本気でセイを信じているマリアの気持ちがあふれていた。
「そうでしたわねぇ……」
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