ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜

第181話 セイ、サイクロプスと戦う

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「でかい!」
 セイは思わず叫んだ。そう叫ばずにはおれないほどサイクロプスは大きかった。人間の数倍というレベルではない、何階建てビル、という形容するほうが早い。おそらく40メートルはあろうかという大きさだ。
 これだけの巨人を相手にどう切り抜けるべきか、セイは頭を巡らした。自分一人ならなんとでもなるが、レースの最中さいちゅうに戦闘は避けたかった。ましては馬たちを危険にさらして、その場でリタイアになることだけは願いさげだった。
 セイは手にした手綱に未練の力リグレットを込めた。やわらかな光が手綱をつたい馬たちの馬銜はみを光らせた。
『ボルト、ガトリン、ゲイ、コールマン、怖がらずに直進してくれるかい。あそこにいる怪獣はぼくが倒すから心配しないで……』
 馬たちにセイのことばが通じたかどうかはわからない。
 だが、ボルトがいなないた。

 セイはサイクロプスを見あげたまま、右手を横に突き出した。その手の先に黒い稲妻がまたたく。一瞬ののちにセイの手にはさやにおさまった日本刀が握られていた。セイはそのままブンと刀をおおきく振り、遠心力で鞘を投げ飛ばした。
 セイが御者台の床を力強く踏み込むと、ドーンと一気にジャンプした。おおきく刀をふりかぶる。だがサイクロプスが太い腕をふりまわしてきて、セイをたたき落とそうとした。
 セイは空中で刀を持ち変えると、そのままサイクロプスの手のひらにむかって剣を突き立てた。すかさず一気に根元まで押し込む。
 だがサイクロプスはそれに動じることはなく、手のひらに刺さった刀につかまっているセイをふり払おうとした。手を一回、二回と横に大きく振る。セイの体がものすごい勢いでスイングされる。
 だが、セイは冷静だった。サイクロプスに振り回されながら下方に目をむけた。おそらく三十メートルはゆうにある高さ。だが、その下をセイの戦車が走ってくるのが見えた。
「いけぇ。ボルト、ガトリン、ゲイ、コールマン!」
 上空からセイが叫ぶ。
 まるでその声援にこたえるように、馬たちはおじけることなくサイクロプスの脚のあいだをすり抜けて行った。
「よし!」
 セイはそう叫ぶなり刀から手を離した。
 落下しながらセイは手を上にあげ、新しい刀をその手に召喚した。
 
 すぐにその刀をふりあげて、今度は落下スピードそのままにサイクロプスの腹に突き立てた。セイの一撃はおおきな化物の急所を貫いにちがいなかった。サイクロプスが痛みに苦しむような悲鳴をあげた。
 その悲鳴が超音波となって耳を刺す。が、セイはそんなことはおかまいなしに、腹に突き立てた刀の上に飛び乗ると、横にむかってジャンプした。今度はサイクロプスの脇腹付近で、次の刀を出現させるとすぐさま突き立てた。
 サイクロプスはまたも金切り声のような悲鳴をあげたが、その時にはセイはその刀を踏み台にして、サイクロプスの背中側にむかってジャンプしていた。
 今度の剣は腰付近に突き刺さった。セイは一瞬だけ前方をみた。
 サイクロプスの脚の間を無事に抜けたセイの戦争は十メートほど先を走っていた。セイは躊躇ちゅうちょすることなく、腰に刺さった刀を足場にして大きく跳躍した。
 後方でサイクロプスのうなるような低い声が聞こえた。
 セイは空中であたらしい刀を召喚し身構えようとした。
 が、左側からものすごい風圧に見舞われた。サイクロプスの手のひらがセイを叩き落とそうと、振り抜かれようとしているのが見えた。
 セイは拳に力をこめた。
 一瞬の閃光——。
 まさにサイクロプスの手がセイのからだに触れそうになった瞬間、サイクロプスの手が空中でとまった。セイは飛び降りたそのままの勢いで、走っている戦車の戦車の御者台に転がりこんだ。床にゴツンとぶつかり、からだをしたたかに打ちつけたが、すぐさまうしろをふりかえり、サイクロプスを見あげた。
 サイクロプスの腕は空中でとまったままだった。その腕に数本もの日本刀が並んで食い込んでいた。その刀がサイクロプスのあとわずかの振幅を食い止めていた。

「斬れ!」
 セイはそう命じると、前にむき直り手綱たづなをとった。
「ボルト、ガトリン、ゲイ、コールマン、ありがとう。よくやった」
 走る馬たちに大きな声でねぎらいのことばをかけたセイの背後で、サイクロプスがゆっくりと崩れおちていっていた。セイの刀たちがサイクロプスの脚を膝から叩き切ったせいだった。
 と、背後でにわかに衝撃音が聞こえた。セイがふりむくと、後続の戦争数台が崩れ落ちたサイクロプスの残骸にまきこまれているのがわかった。

 セイは思わず口笛を吹いてから言った。
「あぶない、あぶない。やっぱ遠隔で倒して正解だ。即効で倒してたら、この戦車もあの巨体の下敷きになってたかもしれない」
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