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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第180話 なにかが競馬場のレーンにいる……
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ならばこちらもなりふり構っているわけにもいかない……。
折り返し点が迫ってくる。
ケンタウロスがセイのムチを引っぱって、セイの折り返しを邪魔しようとしていた。セイはムチを持つ手に力をこめた。パチパチと火花が散ってムチに電流が走る。ムチの先をつかんでいたケンタウロスが、その電気ショックにからだを震わせた。その衝撃にからだの自由がきかなくなったケンタウロスは、ムチをもった手を離したかと思うと、そのまま折り返し点の支柱に真っ正面から激突した。
ゴキンという鈍い音がして、支柱にぶつかったケンタウロスのからだが『く』の字におれまがる。セイはムチを取り返すやいなや、手綱をしっかりと握り直し、戦車を折り返し点でおおきく周回させた。ケンタウロスの邪魔で外側をおおきく回ることになったが、それでもなんとか回しきった。
北側のレーンを戦車が疾走する。
が、セイの前を先行していた三連の戦車が、バラバラにばらけて勝手な方向に走っているのが見えた。一番外側の戦車はレーンからはずれて、観客席のほうに飛び込みそうな勢いで逃げていた。一番内側の戦車も外側に逃げようとしていたが、真ん中の戦車とぶつかり、思うように外側に車体を逃がすことができずにいる。そしてついには分離帯に突っ込んでいって、祭壇や記念碑になぎ倒してどこかに消えた。
一台だけ残った戦車は直進していたが、すぐにドーンというけたたましい音とともにレーンの真ん中にあるなにかに激突した。セイには一瞬そう見えた。
だが、次の瞬間、戦車が四頭の馬ごと真横からなにかにすくい上げられ、空中高くはね飛ばされた。数十メートルも先の北側の観客席の真上に飛んでいく。観客たちから悲鳴があがるが、身動きできないほどの場所では逃げようがなかった。ドスンという鈍い音とともに馬は地面に叩きつけられ、馬車は砕け散った。
数十人がその下敷きになっていた。
なにかがあの馬車をまるごと薙ぎ払った——。
セイは身構えた。
もうもうとした砂煙のむこうのシルエットが徐々に見えてきた。そこには大きな杭が二本突き出していた。いや大きなオベリスクと言っていいだろう。が、セイはすぐに自分が見ているものが実は、なにものかの足であることに気づいた。
セイは空をみあげた。
そこに蒼穹を貫かんばかりにおおしく立つ大男の姿があった。
人間だとぉ——。
だが、男がこちらをゆっくりと振り向くと、セイは自分の第一印象が間違いだったことがすぐにわかった。
その巨人の顔には目がひとつしかついていなかった。
一つ目の巨人 サイクロプス(キュクロプス)だった——。
折り返し点が迫ってくる。
ケンタウロスがセイのムチを引っぱって、セイの折り返しを邪魔しようとしていた。セイはムチを持つ手に力をこめた。パチパチと火花が散ってムチに電流が走る。ムチの先をつかんでいたケンタウロスが、その電気ショックにからだを震わせた。その衝撃にからだの自由がきかなくなったケンタウロスは、ムチをもった手を離したかと思うと、そのまま折り返し点の支柱に真っ正面から激突した。
ゴキンという鈍い音がして、支柱にぶつかったケンタウロスのからだが『く』の字におれまがる。セイはムチを取り返すやいなや、手綱をしっかりと握り直し、戦車を折り返し点でおおきく周回させた。ケンタウロスの邪魔で外側をおおきく回ることになったが、それでもなんとか回しきった。
北側のレーンを戦車が疾走する。
が、セイの前を先行していた三連の戦車が、バラバラにばらけて勝手な方向に走っているのが見えた。一番外側の戦車はレーンからはずれて、観客席のほうに飛び込みそうな勢いで逃げていた。一番内側の戦車も外側に逃げようとしていたが、真ん中の戦車とぶつかり、思うように外側に車体を逃がすことができずにいる。そしてついには分離帯に突っ込んでいって、祭壇や記念碑になぎ倒してどこかに消えた。
一台だけ残った戦車は直進していたが、すぐにドーンというけたたましい音とともにレーンの真ん中にあるなにかに激突した。セイには一瞬そう見えた。
だが、次の瞬間、戦車が四頭の馬ごと真横からなにかにすくい上げられ、空中高くはね飛ばされた。数十メートルも先の北側の観客席の真上に飛んでいく。観客たちから悲鳴があがるが、身動きできないほどの場所では逃げようがなかった。ドスンという鈍い音とともに馬は地面に叩きつけられ、馬車は砕け散った。
数十人がその下敷きになっていた。
なにかがあの馬車をまるごと薙ぎ払った——。
セイは身構えた。
もうもうとした砂煙のむこうのシルエットが徐々に見えてきた。そこには大きな杭が二本突き出していた。いや大きなオベリスクと言っていいだろう。が、セイはすぐに自分が見ているものが実は、なにものかの足であることに気づいた。
セイは空をみあげた。
そこに蒼穹を貫かんばかりにおおしく立つ大男の姿があった。
人間だとぉ——。
だが、男がこちらをゆっくりと振り向くと、セイは自分の第一印象が間違いだったことがすぐにわかった。
その巨人の顔には目がひとつしかついていなかった。
一つ目の巨人 サイクロプス(キュクロプス)だった——。
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