ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜

第176話 これは自分が一番得意なことではないか

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「マリアさんが言うには、わざと見えないようにしてるんじゃないかって……」

「わざと?。そんなことをしてなにになる……」
 エヴァがさらに疑問を募らせると、ゾーイがすこしヒステリックな声をあげた。
「ここにいる観客全員を怪物にするつもりだって言うんですよ。マリアさんは!」
「ゾーイ、そこには4万人ほどいるはずですよ。それを全部怪物に変えるというのですか?」
 今度はスピロがあわてて、ゾーイを問いただす。
「えぇ。一体一体は赤子のように弱いっていうんですが、これ以上増えられたら『面倒くせぇ』ってぇって……」
「たしかに赤子みたいに弱くても、万単位で襲われたら、さすがに手に負えなくなりそうですわね」
 エヴァがぼそりと呟くと、ゾーイはエヴァとスピロを安心させようとして、わざと声をはずませてきた。
「エヴァさん。そりゃあ、心配ないよ。トゥキディデスのヤツの今のペースなら、そんな数の怪物を生み出すのに何日もかかっちまうからね」 
 だが、それを聞くなりスピロが不愉快そうに顔をゆがめた。
「ゾーイ。申し訳ありません。わたしはもう一体の悪魔であるプラトンを取り逃がしました」
「プラトンがぁ?」
 ゾーイの声は驚きのあまり、掠れそうにひっくりかえった。
「ええ……。そちらがボスです。正体はアンドレアルフスという下級悪魔でしたが、なかなかすばしっこくて侮れません」
 そう言ってスピロは黙り込んだ。これからどうすればいいのを必死で考えているのがわかる。ゾーイもそれ以上はなにも言わない。おなじように策を考えているのだろう。

 だが、エヴァはおもわず口元を緩めていた。
 そんなに頭をひねることではないからだった。

 なんということはない。これは自分が一番得意なことではないか——。

「ゾーイさん。つまりは、その競馬場ヒッポドロームから観客を逃がせばいいのですよね」
 エヴァはスピロにもしっかりと聞こえるように大きな声で言った。あまりに造作もないように言っているので、ゾーイはすこし面喰らったのか、ワンテンポ遅れてから答えてきた。
「え……、えぇ……。そいつができりゃあ、怪物にされる数も抑えられるよ。でもどうするつもりだい」
「そうです。エヴァ様、それができれば苦労はないのですよ」
 スピ口がエヴァの顔を見つめて言った

 エヴァは何も言わずに手を天空にむかって突きあげた。
 するとエヴァとスピロの上空の空がにわかにかき曇って、どろどろと汚泥のような暗雲が空から湧きだしはじめた。レオニダイオンから競馬場ヒッポドロームにむかう道に帯状に雲は広がっていく。自分たちの左に見えているゼウス神殿の上にも、右側にある評議会場ブーレウテリオンの上にも重々しい影が落ち始める。
「エヴァ様。もしかして『神の鉄槌』で人々を目覚めさせるおつもりですか?」
 スピロは渾沌としはじめた空を見あげながら言った。
「神?。この時代の神に威光があるのですか?。ギリシア神話に出てくる神は、不倫や争いばかりをしているのですよ」
「ですが、神の怒りを感じさせれば、人々はおののいて逃げだすのでは?」

「そんなことする必要はありません」
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