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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第172話 そこに牛の頭をした巨人がいた
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ゾーイはゾクッと悪寒が走るのを感じた。
自分のまわりをいつのまにか邪気が取り巻いている——。
ゆっくりとうしろを振り向いて慎重にあたりの気配を探る。
ふいに自分の五列後方の男のからだがその場でグシャッと潰れた。なにか巨大な鉄槌がふり降ろされて、叩き潰されたという印象——。
ゾーイがおそるおそる上をみあげた。
そこに牛の頭をした巨人がいた。
それはミノタウロスに間違いなかった。
ミノタウロスは潰した人間を指先でひょいと摘むと、そのおおきな口をひらいて丸飲みした。と、次はその左横の男を叩き潰す。そしてまた丸呑みする。
信じられないことに、誰もそれに気づいてなかった。異形の怪物がまうしろにいて、今まさに隣の人を、いやもしかしたら自分を叩き潰そうとしているのに気づかないのだ。
みな、魔法にかかったように、目の前の戦車競争にこころを奪われていた。その横では仲間が無残に潰されて喰らわれているというのに……。
『どういうことなんだい。まわりの人たちはなんで逃げださないんだよぉ?』
ゾーイは腰からマチェットを引き抜いた。大きく反り返った刃先を見つめる。刃先が震えている。よく見るといつの間にか、手が震えているのに気づいた。
こんな華奢な剣ごときで太刀打ちできるはずがない——。
常識で考えれば、そんなことは火を見るよりあきらかだ。あの大きさではミノタウロスのすねに傷をつけるのが精いっぱいではないか。
ゾーイの心がたちまち弱気に支配されはじめる。
だがやるしかない——。
ゾーイはミノタウロスに向き直った。ミノタウロスはさきほどよりさらに身体が大きくなっていた。ほとんど真上を仰ぎみる高さに、ミノタウロスの顔があった。
ごくりと唾を飲み込む。どうしたらこんな怪物と対峙できるというのか——。
ミノタウロスがゆっくりと下をむいた。上をみあげていたゾーイと目があう。ハッとして目をそらすと、自分のすぐまうしろにいたはずの男が、いつのまにかいなくなっていることに気づいた。
次は自分の番——。
動かなければ、というアラートが頭のなかで鳴り響くが、それが逃げろなのか、戦えなのか、すでに判断できずにいる。ミノタウロスの右腕がぐっと持ち上がった。
ゾーイは剣を目の高さまでもちあげて構えた。
自分のまわりをいつのまにか邪気が取り巻いている——。
ゆっくりとうしろを振り向いて慎重にあたりの気配を探る。
ふいに自分の五列後方の男のからだがその場でグシャッと潰れた。なにか巨大な鉄槌がふり降ろされて、叩き潰されたという印象——。
ゾーイがおそるおそる上をみあげた。
そこに牛の頭をした巨人がいた。
それはミノタウロスに間違いなかった。
ミノタウロスは潰した人間を指先でひょいと摘むと、そのおおきな口をひらいて丸飲みした。と、次はその左横の男を叩き潰す。そしてまた丸呑みする。
信じられないことに、誰もそれに気づいてなかった。異形の怪物がまうしろにいて、今まさに隣の人を、いやもしかしたら自分を叩き潰そうとしているのに気づかないのだ。
みな、魔法にかかったように、目の前の戦車競争にこころを奪われていた。その横では仲間が無残に潰されて喰らわれているというのに……。
『どういうことなんだい。まわりの人たちはなんで逃げださないんだよぉ?』
ゾーイは腰からマチェットを引き抜いた。大きく反り返った刃先を見つめる。刃先が震えている。よく見るといつの間にか、手が震えているのに気づいた。
こんな華奢な剣ごときで太刀打ちできるはずがない——。
常識で考えれば、そんなことは火を見るよりあきらかだ。あの大きさではミノタウロスのすねに傷をつけるのが精いっぱいではないか。
ゾーイの心がたちまち弱気に支配されはじめる。
だがやるしかない——。
ゾーイはミノタウロスに向き直った。ミノタウロスはさきほどよりさらに身体が大きくなっていた。ほとんど真上を仰ぎみる高さに、ミノタウロスの顔があった。
ごくりと唾を飲み込む。どうしたらこんな怪物と対峙できるというのか——。
ミノタウロスがゆっくりと下をむいた。上をみあげていたゾーイと目があう。ハッとして目をそらすと、自分のすぐまうしろにいたはずの男が、いつのまにかいなくなっていることに気づいた。
次は自分の番——。
動かなければ、というアラートが頭のなかで鳴り響くが、それが逃げろなのか、戦えなのか、すでに判断できずにいる。ミノタウロスの右腕がぐっと持ち上がった。
ゾーイは剣を目の高さまでもちあげて構えた。
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