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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第170話 早く首を切断するか、体をバラバラに
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アンドレアルフスは上半身だけになってもまだ生きていた。
両腕を足のように踏ん張って上半身を支え、爆発によって焼けただれた顔をいびつに歪めてこちらを見ていた。
「あら、よく生きのびられましたこと」
エヴァはその不気味な姿に驚きはしなかった。それよりも今の攻撃で粉々に吹き飛んでいなかったことのほうが驚きだった。つい感嘆の声があがる。そこへ背後からスピ口の警戒色を強めた声が投げかけられた。
「エヴァ様。早く首を切断するか、体をバラバラにしませんと」
「そうですね。今のでばらばらになってないのでは、まったく、おのれの力不足を感じますわ」
そう言いながら、長椅子の上で蠢くアンドレアルフスにロケット・ランチャーの照準をあわせた。エヴァが引き鉄に指をかけた瞬間、アンドレアルフスが両方の腕で反動をつけて飛び上がった。
エヴァやスピロの上を飛び越えるような大ジャンプではなかった。が、虚をつかれて照準がはずれた。その間隙をついてアンドレアルフスは両腕で床を這って、エヴァの脇をすり抜けた。
思いがけないほど素早い動きでアンドレアルフスが、アリストパネスにむかって這って行く。エヴァはいそいでロケット・ランチャーをむけて、背後から追い討ちをかけようとした。
が、遅かった——。
アンドレアルフスがアリストパネスの目の前で飛び上がり、腰の位置で両腕をクロスするように一閃した。アリストパネスの顔が一瞬にして凍りつく。
「しくじりましたわ!」
エヴァは後悔の念とともに吐き捨てた。まるでマリアのような。品もへったくれもない剥き出しのことばが口をついて出た。
そのすぐ脇にいたヒポクラテスもソクラテスも何が起きたかわからずにいた。が、アリストパネスのからだが、ドンと派手な音をたてて床に転がると、ふたりは「うわあぁ」と悲鳴をあげてその場にへたり込んだ。
落ちたのはアリストパネスの上半身だけだった——。
アリストパネスの腹から血が噴き出し、正面にいたスピロのほうへ飛び散った。
スピロは手で壁を作って防いだものの、手のひらはあっという間に血塗れになった。アリストパネスの上半身の切断面から流れる血はみるみる血溜まりをつくりはじめていく。
エヴァは奥歯をギリッと噛んで、アリストパネスの下半身に目をやった。
残った下半身は仁王立ちで、まだ床を踏みしめていた。が、次の瞬間、アンドレアルフスの上半身が飛び移り、その下半身を乗っ取った。そのとたん、まるで最初からそうであったかのように、腹の切断面は傷もなくつながり、みるみる一つの個体として再生していった。
それだけではない。
アリストパネスのむきだしになった下半身はアンドレアルフスのものになったとたん獣のものに変っていた。それは不自然に後方に折れ曲った四足動物のような脚。しかもその体表はおびただしい剛毛がおおわれていた。
両腕を足のように踏ん張って上半身を支え、爆発によって焼けただれた顔をいびつに歪めてこちらを見ていた。
「あら、よく生きのびられましたこと」
エヴァはその不気味な姿に驚きはしなかった。それよりも今の攻撃で粉々に吹き飛んでいなかったことのほうが驚きだった。つい感嘆の声があがる。そこへ背後からスピ口の警戒色を強めた声が投げかけられた。
「エヴァ様。早く首を切断するか、体をバラバラにしませんと」
「そうですね。今のでばらばらになってないのでは、まったく、おのれの力不足を感じますわ」
そう言いながら、長椅子の上で蠢くアンドレアルフスにロケット・ランチャーの照準をあわせた。エヴァが引き鉄に指をかけた瞬間、アンドレアルフスが両方の腕で反動をつけて飛び上がった。
エヴァやスピロの上を飛び越えるような大ジャンプではなかった。が、虚をつかれて照準がはずれた。その間隙をついてアンドレアルフスは両腕で床を這って、エヴァの脇をすり抜けた。
思いがけないほど素早い動きでアンドレアルフスが、アリストパネスにむかって這って行く。エヴァはいそいでロケット・ランチャーをむけて、背後から追い討ちをかけようとした。
が、遅かった——。
アンドレアルフスがアリストパネスの目の前で飛び上がり、腰の位置で両腕をクロスするように一閃した。アリストパネスの顔が一瞬にして凍りつく。
「しくじりましたわ!」
エヴァは後悔の念とともに吐き捨てた。まるでマリアのような。品もへったくれもない剥き出しのことばが口をついて出た。
そのすぐ脇にいたヒポクラテスもソクラテスも何が起きたかわからずにいた。が、アリストパネスのからだが、ドンと派手な音をたてて床に転がると、ふたりは「うわあぁ」と悲鳴をあげてその場にへたり込んだ。
落ちたのはアリストパネスの上半身だけだった——。
アリストパネスの腹から血が噴き出し、正面にいたスピロのほうへ飛び散った。
スピロは手で壁を作って防いだものの、手のひらはあっという間に血塗れになった。アリストパネスの上半身の切断面から流れる血はみるみる血溜まりをつくりはじめていく。
エヴァは奥歯をギリッと噛んで、アリストパネスの下半身に目をやった。
残った下半身は仁王立ちで、まだ床を踏みしめていた。が、次の瞬間、アンドレアルフスの上半身が飛び移り、その下半身を乗っ取った。そのとたん、まるで最初からそうであったかのように、腹の切断面は傷もなくつながり、みるみる一つの個体として再生していった。
それだけではない。
アリストパネスのむきだしになった下半身はアンドレアルフスのものになったとたん獣のものに変っていた。それは不自然に後方に折れ曲った四足動物のような脚。しかもその体表はおびただしい剛毛がおおわれていた。
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