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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第166話 引き鉄をひいて頭を吹き飛ばしてください
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エヴァはロケット・ランチャーの銃把を掴むと、すぐさま肩に銃身を担ぎ上げて、ターゲット・スコープをはねあげた。瞬間的にアンドレアルフスに狙いをつける。
だが、アンドレアルフスは壁を力強く蹴とばすと、驚くべき跳躍力で宙を舞った。エヴァやスピロの上を飛び越えていく。すぐさまエヴァはその軌跡を追いながら、弾頭をむけたが、動きがすばやく捕捉できない。
アンドレアルフスは部屋の反対側にある寝室の入り口に降りたった。先ほどまでエヴァが立って、通さないように守っていた場所だ。
「ふ、やはり人間はバカだな」
エヴァはすぐさまロケット・ランチャーをむけたが、アンドレアルフスは余裕の笑みを浮かべた。
「さぁ、撃てるものなら撃ってみるがいい。その代わり、わたしのうしろの寝室で寝ているタルディスも一緒に吹き飛ぶぞ。いいのかな?」
「さすが『悪魔』ですわね。やることがいちいち卑怯ですね」
「おまえたちの目的は、タルディスをオリンピックで優勝させること。だが目的はすでに達成されている。あとは表彰式に参列すれば願いは叶い、この男の未練は晴らされる……」
アンドレアルフスはその口元を大きくゆがめてわらった。すでにこめかみまで口は裂け、その隙間から針のような歯が見えている。もう『プラトン』と声をかけるのが、はばかられるほどに容姿は変貌していた。
「いいのかね。おまえたちのこれまでの努力が、その指ひとつで吹き飛ぶぞ」
アンドレアルフスの背後でひとが動くのが見えた。この騒ぎで目を醒ましたのか、ベッドから起きあがろうとしているようだった。
「エヴァ様、構いません。引き鉄をひいて頭を吹き飛ばしてください。正体が見破られたことで、動作が鈍っている今なら雑作もなく当たるはずです」
スピロが緊張感も決意もなく、あっけらかんと言った。あまりにも淡泊な物言いに、思わずアンドレアルフスが声を荒げた。
「な、なにを言っている。おまえたちはこの世界に現世の魂を引き揚げにきたのではないのか?」
「ですから、吹き飛ばしてくださいと命じているのです」
アンドレアルフスはわけがわからない表情と、スピロのその口調に嘘偽りがない真剣さにあわてて、うしろを振り向いた。背後で男がおおきな欠伸とともに伸びをした。
見たことがない男だった——。
「こ、これは誰だ?」
アンドレアルフスが目を大きく開いて言った。四角い光彩が丸くなっている。
「さぁ、どなたでしょう?」
スピロが興味なさそうに言った。
「テトラ(4)ドラクマ支払って、そこらで適当に雇った人なので……」
「な、卑怯な……」
「卑怯?。ご存知でしょう。人間は悪魔ほど慈悲深くないのですよ」
スピロが首をクイッと横に倒して、エヴァへ合図してきた。
もちろん、エヴァも慈悲深くはない。
エヴァはためらいも微塵もなく、ロケット・ランチャーの引き鉄をひいた——。
だが、アンドレアルフスは壁を力強く蹴とばすと、驚くべき跳躍力で宙を舞った。エヴァやスピロの上を飛び越えていく。すぐさまエヴァはその軌跡を追いながら、弾頭をむけたが、動きがすばやく捕捉できない。
アンドレアルフスは部屋の反対側にある寝室の入り口に降りたった。先ほどまでエヴァが立って、通さないように守っていた場所だ。
「ふ、やはり人間はバカだな」
エヴァはすぐさまロケット・ランチャーをむけたが、アンドレアルフスは余裕の笑みを浮かべた。
「さぁ、撃てるものなら撃ってみるがいい。その代わり、わたしのうしろの寝室で寝ているタルディスも一緒に吹き飛ぶぞ。いいのかな?」
「さすが『悪魔』ですわね。やることがいちいち卑怯ですね」
「おまえたちの目的は、タルディスをオリンピックで優勝させること。だが目的はすでに達成されている。あとは表彰式に参列すれば願いは叶い、この男の未練は晴らされる……」
アンドレアルフスはその口元を大きくゆがめてわらった。すでにこめかみまで口は裂け、その隙間から針のような歯が見えている。もう『プラトン』と声をかけるのが、はばかられるほどに容姿は変貌していた。
「いいのかね。おまえたちのこれまでの努力が、その指ひとつで吹き飛ぶぞ」
アンドレアルフスの背後でひとが動くのが見えた。この騒ぎで目を醒ましたのか、ベッドから起きあがろうとしているようだった。
「エヴァ様、構いません。引き鉄をひいて頭を吹き飛ばしてください。正体が見破られたことで、動作が鈍っている今なら雑作もなく当たるはずです」
スピロが緊張感も決意もなく、あっけらかんと言った。あまりにも淡泊な物言いに、思わずアンドレアルフスが声を荒げた。
「な、なにを言っている。おまえたちはこの世界に現世の魂を引き揚げにきたのではないのか?」
「ですから、吹き飛ばしてくださいと命じているのです」
アンドレアルフスはわけがわからない表情と、スピロのその口調に嘘偽りがない真剣さにあわてて、うしろを振り向いた。背後で男がおおきな欠伸とともに伸びをした。
見たことがない男だった——。
「こ、これは誰だ?」
アンドレアルフスが目を大きく開いて言った。四角い光彩が丸くなっている。
「さぁ、どなたでしょう?」
スピロが興味なさそうに言った。
「テトラ(4)ドラクマ支払って、そこらで適当に雇った人なので……」
「な、卑怯な……」
「卑怯?。ご存知でしょう。人間は悪魔ほど慈悲深くないのですよ」
スピロが首をクイッと横に倒して、エヴァへ合図してきた。
もちろん、エヴァも慈悲深くはない。
エヴァはためらいも微塵もなく、ロケット・ランチャーの引き鉄をひいた——。
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