ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

文字の大きさ
上 下
265 / 935
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜

第153話 トゥキディデスの弁明1

しおりを挟む
「それが未来でのわたしの作品の評価なのかネ」
 スピロに自分の将来を切って棄てられたアリストパネスは食い下がった。
 エヴァはスピロのあまりに歯に衣着せぬ物言いに、すこしアリストパネスが気の毒になった。

「いえ、あなたの作品には価値がありますよ。市井の世相や風俗がかいま見れる点で、歴史的価値は見逃せません。ただ、文学的に価値があるかというと……」
 それだけ聞くとアリストパネスはその場にがっくりというなだれた。あまりの憔悴っぷりにエヴァは、そのまま死んでしまうのではと思い、思わずかけよりそうになったが、スピロがそれを制するように声をかけてきた。

「エヴァ様。わたくしは本当に自分が腹立たしくて仕方がありません。わたくしたちはこの世界に降りたったときから、騙され続けていたのですから。思い返せば、誰かが叫んだ『第94回オリンピックへようこそ』ということばからして、最初の『レッド・ヘリング』……つまり偽の手がかりだったのです」
 エヴァは目をぱちくりとさせて、スピロを見ていた。
「それを迂闊にも掴んでしまったばかりに、四年もの時をいつわるという壮大なトリック、いえ、壮大な仕掛けにまんまと引っかかってしまった。痛恨の極みです」
 エヴァは賢人たちの顔色を伺うようにみまわすと、おずおずとスピロに言ってきた。
「スピロさん、ごめんなさい。賢人の方々はわかってらっしゃるのでしょうが、わたしにはあなたが、なにを言っているのかわかりませんわ」
 本気で困り果てた顔をしたエヴァを見て、ソクラテスが気づかうように言った。
「お嬢さん、ご心配なされるな。わしらにもスピロどのの言っている意味がちっともわかとりゃせんよ」

「さきほどまで、今がいつなのか確信を持てずにいました。ですが、『第94回オリンピック』と耳にして、ここがわたしたちの世界での『紀元前404年』であると判断しました——」
 スピロがトゥキディデスのほうに目をむけてから続けた。
「そして、トゥキディデス様。あなたが『新作』である『戦史』をこのオリュンピアで喧伝されているのをみて、それが間違いないと確信したのです」
「紀元前404年……。はじめてきく年号だな」
 トゥキディデスがその数字を舌のうえで転がすように反芻した。
「当然です。この時代から400年後に制定された暦です。そしてこの暦での紀元前404年にアルキビアデスは暗殺されるのですが、まだこのオリンピックの時点では生きていてもおかしくない。そう合点した……いや、させられた」

「これこそがアリバイ、まさにアルキビアデスの『存在証明』になったのです」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

処理中です...