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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜

第119話 戦車競争が今はじまった

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 ふいにセイの戦車の右側から風が巻き起こった。
 今度は見なくてもわかった。自分の横で新たなゲートが開いたのだ。大地を蹴り上げる馬の足音が右からも加わり、セイを威圧する。
 その重々しい響きは戦車が数メートル進むごとに、多層的にどんどん重なっていく。
 右側に目をはせると、ついに左側とおなじほどの、馬の列が怒濤どとうのスピードで走っていた。
 横一列になった馬群がついに『アフェシススタート装置』の先端に到達すると、今度は観衆席からの歓声が上から石つぶてのように降り注いできた。と同時に、全部の戦車がほぼ横並びで『アフェシス』から飛び出した。
 百メートル超を順番に走り出す時点で、すでに遅れている戦車もあったが、それでもまだ列は横一線といっていい。
 そしてその並びのまま、全車が一斉にトラックのほうへ飛び込んでいく。

 競争路トラックに入るまでの約三百メートルの走路は、どう走らせるか戦術的な位置取りを迫られた。もちろんできるだけ内側にはいれれば有利だが、密集のあまり速度がゆるむのを避けて大外から展開しようとする老獪ろうかいな御者もいる。
 だが多くの御者は、とくに外側のほうに配置された戦車は、すこしでも内側に寄せようと、馬を斜めに走らせようとした。
 セイもおなじように内側に馬をむけるが、セイより外側を走る戦車はそんな悠揚ゆうような動きではない。まるで斜めに切り込むように。無理やりに馬の進行方向を変えようとする。
 戦車と戦車のあいだが詰まっていく。戦車と戦車が小競り合いしてぶつかる音が、そこかしこから聞こえ始めた。だが、戦車は密集したかたまりのまま疾走し続ける。御者は馬群から抜け出そうと必死で戦車を操る。
 セイは横の戦車が接触してこないかに神経を尖らせた。だが、そこをついて、一台の戦車がセイの前に割り込んできた。前に出た戦車の車輪が馬のよだれをはじき飛ばし、その飛沫の残滓ざんしがセイの顔にかかる。

 馬群がすこしほぐれはじめた。横列がわずかにでこぼこと不揃いになりはじめる。

 目の前にトラックの入り口になる標柱が見えてくる。
 うぉーっという興奮にまみれた歓声の大波が、競技場のなかに打ち寄せてきた刹那せつな、先頭を抜け出した数台の戦車が、トラックのなかに飛び込んでいった。
 

 約1・2kmのトラックを12周する『戦車競争』が今はじまった。
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