ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜

第108話 とてつもない違和感

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「アルキビアデスさん。とりあえず準備は整いましたよ。ルキアノスさんの特訓を受けましたけど、うまく操れるかどうかは自信はありませんけどね」

「いいのだよ、セイ。わたしはいとしきソクラテスの歓心がかえるだけで充分だよ」
「あ、いえ。そう……。そ、それだけではだめなんです。ぼくはタルディスさんの願いを叶えるために、勝たなきゃいけないんです」
「ふ、セイ。きみはずいぶん欲張りなのだね。嫌いじゃないよ」
 そう言いながら、アルキビアデスがなめ回すような視線をセイにむけた。色恋沙汰に疎いゾーイでもそれが、とてもエロチックな目つきだとすぐにわかった。

 ゾーイはスピロに言われていたことを思い出し、セイとアルキビアデスのあいだに割り込むようにして前に進みでた。アルキビアデスはセイへの視線をさえぎられてすこし戸惑っているようだった。だが、不快であるという表情はあらわにしなかった。
 こんなときに、こういうこまやかな振舞いを自然に演じられるところが、この男が『男であれ女であれ誰をも魅了する』ゆえんなのだと、ゾーイも感じいった。
「やあ、お嬢さん。きみは……」
「あたいはゾーイ。セイさんの仲間で、今はあんたの馬の世話をさせてもらっているよ」
 それを聞くなりアルキビアデスの顔がほころんだ。
「そうか、ぼくの馬たちがずいぶんご機嫌だと思ったら、こんなに美しいレディに世話をしてもらっていたのか」
 アルキビアデスがこころの底から嬉しそうな顔をして、ゾーイの手を握りしめた。

 その瞬間だった。
 ゾーイは握られている手に、とてつもない違和感を覚えた。スライム状のものが絡みついているような気持ち悪さ、有刺鉄線でも巻き付けられたような痛み、氷でも押しつけられたような冷たさ——。
「ゾーイ。ぜひきみの力でセイを勝たせてほしい」
 アルキビアデスはそう言いながらねぎらったが、ゾーイの耳にはそれは届いてこない。今まで感じたことがない、いや、現実世界でなんどか感じたことがある『嫌な』感触。
 ゾーイはその正体に気づいて、おもわず手をひっこめた。
 その仕草にアルキビアデスは怪訝そうな顔をしたが、やがてにっこりと笑うと、ほかの戦車オーナーたちのほうへ向かっていった。はたから見ればずいぶん失礼な態度だったが、セイはそこにただならぬ様子を感じ取ってくれたようだった。心配そうに声をかけてきた。
「ゾーイ。なにかおかしなことでも?」
 ゾーイは自分の腕をみた。鳥肌がたっていた。
 おそらく現実世界の自分のからだもおなじように鳥肌が立っているに違いない。
 ゾーイはおそるおそるセイに言った。
「セイさん、セイさんはお姉さまから、あたいが現実世界でもちょっとした能力を持っているって聞いてるかい?」
「あ、あぁ……、うん。聞いてる」
「あたいはね、昔から人のこころが読めたり、小さなものを動かすことができたんだけどね。実は……、いわゆる霊感も強いんだよ」
「霊感もかい?。すごいな」
「いやな能力さ。見たくもないものが見えちまうからねぇ。今みたいに……」
「いま……みたい……に?」


「あぁ、そうさ。あのアルキビアデスという男……、とっくに死んでるよ」
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