ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜

第103話 妹のゾーイに馬の調教を任せてください

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 そのとき、馬のいななきが甲高く響いた。

 スピロとルキアノスが競馬場のほうをみると、なんとか手綱を手にしたセイが四頭の馬をなんとかなだめようと格闘しているところだった。
「まずは、あやつらにセイどのを気に入ってもらうところからだな」
 ルキアノスが競馬場のほうへ歩き出そうとしたが、スピロがそれをとどめた。
「ルキアノス様、お待ちください」
 スピロはかたわらでじっと黙したままで待機していたゾーイに視線を送った。
「一度、わたしの妹のゾーイに、馬の調教を試させてくださいますか?」
「調教を……?。馬を扱ったことがあるのかね?」
 ゾーイがルキアノスのほうを見て、肩をすくめてみせた。
「いいえ。ルキアノスのだんな。触ったこともありゃしません。でもお姉さまの命令となりゃあ、なんとかしてみせるしかないねぇ」
 ゾーイはそれだけ言うと、ルキアノスの反論も待たずに馬のほうへ走っていった。
「スピロさん。ずいぶん妹さんに無理難題をふっかけてるんじゃないかね」
「いいえ。無茶ではありませんわ。あの子は心が優しい子です」
「やさしい……?。そんなもの馬とはなんの関係もな……」
 ルキアノスの述べることばはそこでとまった。
 
 ゾーイが白馬に近づいていくと、あれほど興奮していた馬たちが急に動きをとめた。ゾーイはセイから手綱を受け取ると、まず右側二頭の馬の首に手をまわして抱きしめた。首元に手をはわせて、ていねいに撫でると、馬はうれしそうに首をくねらせてゾーイにじゃれてくる。
「よーし、いいコだよ」
 そう言って馬の頬をかるく叩くと、今度は左側の二頭のあいだにからだを滑り込ませて、おなじように馬たちをなではじめた。さきほどまでのあからさまな警戒心はなんだったのかと目を疑いたくなるほどに馬たちはゾーイを歓迎した。

「ど、どういうことだ……?」
 ルキアノスが顔色をうしなったまま、スピロに呟くように訊いた。
「なるほど、良い馬たちのようですね」
「あ、いや……。だが、気性が荒い馬だ。簡単に人間を近づけやしない」
「そうですか?。近づけないどころか、ゾーイを受け入れているようですけど……」
「そ、それが信じられないのだ。なにをしたのだ?」
「わたしの妹、ゾーイにはすばらしい才能があるのです。だれの心のなかにも潜り込めるという才能がね」
「だれでもって、あれは……」
「えぇ。ときにはそれが馬であってもね。『テレパシー』という力を使うことができるのです……」
 ルキアノスは口元を緩めた。彼の視線の先には、セイがゾーイに導かれて馬たちと戯れている様子があった。遠めにみても、馬たちがセイにも心を許しているのがみててとれる。
「ふむ、なにがなんだか、わからんが、わたしが力添えしなくても大丈夫そうではないかね」
「なにをおっしゃいます。馬たちを手なずけることはできても、戦車の操縦まではできません。ぜひルキアノス様にご教授願いたいところです」

「いくらゾーイでも、戦車のこころまでは読めませんわ」
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