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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第98話 なんだ、戦車競争は裸じゃねぇのか
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タルディスはまだ目が醒めていなかったが、イアトレイアから運びだされることになった。この日は、ボクシング(ビュクス)に続いて、レスリングとパンクラチオンと格闘技が、続けざまに開催されていたからだった。
医療従事者たちが言うには、これから大量の怪我人が運び込まれるから、ベッドをあけてほしいとのこと。特にコンタクト・スポーツのなかで一番人気の総合格闘技の『パンクラチオン』は怪我人がおおかった。
『パンクラチオン』はボクシングの打撃技と、レスリングの組技を組み合わせた致死格闘技で、眼球への攻撃・噛みつき以外は、急所を蹴ることも許されたほどなんでもありのルールであったため、勝った選手も負けた選手も無傷ではすまなかった。
賢人たちとは医療施設で別れたが、今ごろ、あの場所の医者はてんてこ舞いになっているのは想像に難くなかった。
タルディスを運んだのはゾーイだった。
ゾーイがおんぶをして、レオニダイオンの宿舎まで運んでいった。賢人たちも手伝おうとしたが、アリストパネスがあの女は怪力だから大丈夫だ、と余計な口を挟んできたおかげで、セイたちだけで運ぶはめになったからだ。
タルディスは依然目を醒まさなかったが、まだからだの傷がうずいているようで、ときおり呻き声を発していた。
セイもからだの節々に痛みがあったが、それでも今後のことを話し合わねばならなかった。セイはアルキビアデスから届けられた御者の着る『キスティス』と呼ばれる衣を身に着けていた。これは、くるぶしまでの長さのワンピース・ドレスのような服装で、ウエストの高い位置に革紐のベルトをするものであった。このベルトは背中の上部で交差されており、レース中に風をはらんでふくらむのを防ぐ役割があった。
「なんだ。戦車競争は裸じゃねぇのか」
マリアがセイの服装を上から下まで見回して言った。
「あたりまえでしょう。馬や戦車が巻きあげる粉塵や事故から身を守るためですから」
タルディスがマリアの意地悪なコメントを素っ気なくいなした。
「つまらねぇな」
マリアがそう言ってセイの背中をかるくパンとはたいた。だがなぜかセイのからだの節々にズキッと疼痛が走った。
「マリア、痛いよ」
「おい、おい。セイ、どういうことだ?。オマエはほとんど殴られてねぇだろ」
「わからない。なんでか身体中に痛みが……」
「当然でしょう。セイさん」
エヴァがセイの顔を心配そうに見つめて言った。
「わたしたちは今、精神体です。精神が疲弊すれば、肉体への疲労として現れるのです。セイさんは今までそんな経験はないのですか?」
「いや、特に……。そんな経験はないような……」
マリアが詮索するような目つきで言った。
「おい、セイ。まさか男どもに色目を使われて、精神が疲弊したとかじゃねぇだろうな」
かなり穿ったマリアの意見に、おもわずセイは言い返そうとしたが、それをスピロのことばが遮った。
「マリア様。その意見……正解かもしれません」
「だろ?」
いつの間にやらスピロとマリアがあうんの呼吸で会話を交わしている様子に、セイは驚きを隠せなかった。
医療従事者たちが言うには、これから大量の怪我人が運び込まれるから、ベッドをあけてほしいとのこと。特にコンタクト・スポーツのなかで一番人気の総合格闘技の『パンクラチオン』は怪我人がおおかった。
『パンクラチオン』はボクシングの打撃技と、レスリングの組技を組み合わせた致死格闘技で、眼球への攻撃・噛みつき以外は、急所を蹴ることも許されたほどなんでもありのルールであったため、勝った選手も負けた選手も無傷ではすまなかった。
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タルディスは依然目を醒まさなかったが、まだからだの傷がうずいているようで、ときおり呻き声を発していた。
セイもからだの節々に痛みがあったが、それでも今後のことを話し合わねばならなかった。セイはアルキビアデスから届けられた御者の着る『キスティス』と呼ばれる衣を身に着けていた。これは、くるぶしまでの長さのワンピース・ドレスのような服装で、ウエストの高い位置に革紐のベルトをするものであった。このベルトは背中の上部で交差されており、レース中に風をはらんでふくらむのを防ぐ役割があった。
「なんだ。戦車競争は裸じゃねぇのか」
マリアがセイの服装を上から下まで見回して言った。
「あたりまえでしょう。馬や戦車が巻きあげる粉塵や事故から身を守るためですから」
タルディスがマリアの意地悪なコメントを素っ気なくいなした。
「つまらねぇな」
マリアがそう言ってセイの背中をかるくパンとはたいた。だがなぜかセイのからだの節々にズキッと疼痛が走った。
「マリア、痛いよ」
「おい、おい。セイ、どういうことだ?。オマエはほとんど殴られてねぇだろ」
「わからない。なんでか身体中に痛みが……」
「当然でしょう。セイさん」
エヴァがセイの顔を心配そうに見つめて言った。
「わたしたちは今、精神体です。精神が疲弊すれば、肉体への疲労として現れるのです。セイさんは今までそんな経験はないのですか?」
「いや、特に……。そんな経験はないような……」
マリアが詮索するような目つきで言った。
「おい、セイ。まさか男どもに色目を使われて、精神が疲弊したとかじゃねぇだろうな」
かなり穿ったマリアの意見に、おもわずセイは言い返そうとしたが、それをスピロのことばが遮った。
「マリア様。その意見……正解かもしれません」
「だろ?」
いつの間にやらスピロとマリアがあうんの呼吸で会話を交わしている様子に、セイは驚きを隠せなかった。
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