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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第93話 いつ刷り込みされた?
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いつ刷り込みされたのか——?。
イアトレイアにむかう途中に、ゾーイから報告を受けたスピロはずっと自問自答し続けた。タルディスが新しい未練を口にした事実は、スピロを呆然とさせるのに充分だった。これですべてが終わると思った矢先に、またしても先を越されたことが腹立たしくてしかたがなかった。
「セイさんを戦車競争させることが望みだって……」
ゾーイは申し訳なさそうにスピロにことの次第を伝えてきた。
「タルディス様はどうされています?」
「それが、さっきのひと言を言ったかと思うと、そのまま寝ちまって……」
タルディスがタルディスが寝ていると思われる奥のベッドのほうに目をやった。そこでは心配そうにタルディスを囲んでいる五賢人の姿があった。トゥキディデスとアリストパネスはタルディスの顔の近くで様子を見守っていたが、スピロたちと一緒にあとから駆けつけたソクラテスとプラトンは立ったまま、ヒポクラテスから怪我の程度を聞いていた。
何者かがセイに戦車競争の御者として出場させようとしている——。
だが、今度ばかりは簡単に叶えられない望みだ——。
戦車競争に出場するすべなど、とうてい思いつかない——。
だが、なぜ叶いもしない未練をあらたにタルディスの頭にすり込んだのだ——。
それにそれまではタルディス自身の未練だったものが、今回はまったく部外者、しかも直前にここに訪れたセイをターゲットに定められている。あまりにも不自然。
悪魔らはなにをしようと、しているのだろうか。叶わない未練をすり込むなら、ほかにもいくらでもあるはず。
なぜ、セイを巻き込んできた——?。
スピロはタルディスが倒されたときのことを時系列で思い返してみた。
強烈な一撃で殴りとばされた時、スピロが容疑者としていた4人の中で一番最初にタルディスに駆けよったのはソクラテスだった。
タルディスを助けるために俊敏に行動をおこしたというより、すぐ目の前に吹っ飛ばされてきたから、というところだ。実際にスピロ自身もほぼ遅れずに飛び出したし、プラトンもあとに続いた。ただ、マリアを担いでいた分、ほんのすこし動きが遅れたにすぎない。
それでも——。
あのソクラテスがそのようなことをするのは、実に『らしくない』。
アテナイ代表としてペンタスロンで優勝を飾った英雄を庇った、ともとれなくはないが、老体にむち打つほどだろうか。実際にエウクレスに試合中止を提言したが、結局、ソクラテスの老体では果たせなかった。
助けようとしているふりをして、実はタルディスにあたらしい『未練』を刷り込んだ、という可能性は捨てきれない。
だがそのソクラテスのすぐそばにいたのは、スピロ自身だった。挙動不審なことがないかと、みずから神経を尖ぎすませて見張っていたのだ。あの時すこしでもあやしげな動きをしていれば見逃すはずはない。
イアトレイアにむかう途中に、ゾーイから報告を受けたスピロはずっと自問自答し続けた。タルディスが新しい未練を口にした事実は、スピロを呆然とさせるのに充分だった。これですべてが終わると思った矢先に、またしても先を越されたことが腹立たしくてしかたがなかった。
「セイさんを戦車競争させることが望みだって……」
ゾーイは申し訳なさそうにスピロにことの次第を伝えてきた。
「タルディス様はどうされています?」
「それが、さっきのひと言を言ったかと思うと、そのまま寝ちまって……」
タルディスがタルディスが寝ていると思われる奥のベッドのほうに目をやった。そこでは心配そうにタルディスを囲んでいる五賢人の姿があった。トゥキディデスとアリストパネスはタルディスの顔の近くで様子を見守っていたが、スピロたちと一緒にあとから駆けつけたソクラテスとプラトンは立ったまま、ヒポクラテスから怪我の程度を聞いていた。
何者かがセイに戦車競争の御者として出場させようとしている——。
だが、今度ばかりは簡単に叶えられない望みだ——。
戦車競争に出場するすべなど、とうてい思いつかない——。
だが、なぜ叶いもしない未練をあらたにタルディスの頭にすり込んだのだ——。
それにそれまではタルディス自身の未練だったものが、今回はまったく部外者、しかも直前にここに訪れたセイをターゲットに定められている。あまりにも不自然。
悪魔らはなにをしようと、しているのだろうか。叶わない未練をすり込むなら、ほかにもいくらでもあるはず。
なぜ、セイを巻き込んできた——?。
スピロはタルディスが倒されたときのことを時系列で思い返してみた。
強烈な一撃で殴りとばされた時、スピロが容疑者としていた4人の中で一番最初にタルディスに駆けよったのはソクラテスだった。
タルディスを助けるために俊敏に行動をおこしたというより、すぐ目の前に吹っ飛ばされてきたから、というところだ。実際にスピロ自身もほぼ遅れずに飛び出したし、プラトンもあとに続いた。ただ、マリアを担いでいた分、ほんのすこし動きが遅れたにすぎない。
それでも——。
あのソクラテスがそのようなことをするのは、実に『らしくない』。
アテナイ代表としてペンタスロンで優勝を飾った英雄を庇った、ともとれなくはないが、老体にむち打つほどだろうか。実際にエウクレスに試合中止を提言したが、結局、ソクラテスの老体では果たせなかった。
助けようとしているふりをして、実はタルディスにあたらしい『未練』を刷り込んだ、という可能性は捨てきれない。
だがそのソクラテスのすぐそばにいたのは、スピロ自身だった。挙動不審なことがないかと、みずから神経を尖ぎすませて見張っていたのだ。あの時すこしでもあやしげな動きをしていれば見逃すはずはない。
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