197 / 935
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第85話 だから、あいつは強い!
しおりを挟む
「テクニックはかなりのもののようですね」
スピロもセイの動きから目が離せないようだった。
「あぁ、テクニックだけはな。どうやら、トップ・プロボクサーの真似だけはうまいらしい。だからボクシングジムのコーチによく怒られていたよ。強いわけじゃないが、勘がいいんだろうな」
「強くない……のですか?。そうは見えません」
「真剣に練習したらアマチュアボクシングなら、まぁいいとこまでいくと言われたらしい。だけどヤツはボクシングだけじゃなく、剣道や古武術のような武道も習ってるからな」
「なぜ、そんなにいろんなものを?」
スピロが怪訝そうな顔をしたので、マリアはスピロのほうを見てから言った。
「双子の妹、夢見・冴を救うためだよ」
マリアはあのネロのドムス・アウレアで、ほんのひととき会った夢見・冴の姿を思い出しながら続けた。
「あいつは、この世界に囚われの身になっている妹を救うために、現実世界で並々ならぬ努力をしている……」
「セイ様がボクシングや武道をやってるっているのは……」
「この世界で誰にも負けないためだ。やつは現実世界で鍛えた体と精神、身に付いたテクニックが、こちらの世界で大きな力になると信じてる……。そしていつか妹を助け出せる『自分』を信じている……」
「だから、あいつは強い!」
エウクレスが右、左と続けざまにフックを振り回して、セイに迫ってくる。そのパンチの威力は風切り音がするほどのパワーだったが、いいように振り回されて、なかばムキになって繰り出しているように見えた。
「いけぇ。エウクレス!」
「一発あたれば、その小僧の頭は吹き飛ぶぞぉぉ」
「殺せぇぇぇぇ」
狂気じみた声援に押されてエウクレスのパンチはスピードを増してきた。だがそのパンチはセイにかわされて、ことごとく空を切る。
エウクレスは次第に肩で息をするほどに疲れはじめてきた。
「エウクレス、なにやってやがる!!」
その檄が飛んだ瞬間セイがしかけたのがマリアにはわかった。
セイがドンと足を前に踏み出して、からだを突っ込ませる。エウクレスにとっては、待ってましたというタイミング。おおきくセイにむかって腕を振り抜く。
それがセイの狙いだった。
フェイント——。
この時代のボクシングにはないテクニックだった。
一気にセイが体をうしろにひく。が、セイの動きにつり出されたエウクレスは、パンチを止められない。からだのバランスが崩れたエウクレスのパンチの下から、セイはカウンターでレバー(肝臓)打ちをねじ込んだ。しかも立て続けに二発——。
「スイングブローはカウンターをもらいやすい!」
スピロが興奮のあまり、思わず声をあげた。
エウクレスが悶絶して、前のめりになる。そこを逃さず、右腕で打ち下ろしのストレート、そしてすぐさま左腕のアッパーでエウクレスの頭を貫く。左右のコンビネーションが決まった。
その瞬間、エウクレスのラッシュが突然とまった。
突然電源がオフになったように、すべてのモーションがストップした——。
スピロもセイの動きから目が離せないようだった。
「あぁ、テクニックだけはな。どうやら、トップ・プロボクサーの真似だけはうまいらしい。だからボクシングジムのコーチによく怒られていたよ。強いわけじゃないが、勘がいいんだろうな」
「強くない……のですか?。そうは見えません」
「真剣に練習したらアマチュアボクシングなら、まぁいいとこまでいくと言われたらしい。だけどヤツはボクシングだけじゃなく、剣道や古武術のような武道も習ってるからな」
「なぜ、そんなにいろんなものを?」
スピロが怪訝そうな顔をしたので、マリアはスピロのほうを見てから言った。
「双子の妹、夢見・冴を救うためだよ」
マリアはあのネロのドムス・アウレアで、ほんのひととき会った夢見・冴の姿を思い出しながら続けた。
「あいつは、この世界に囚われの身になっている妹を救うために、現実世界で並々ならぬ努力をしている……」
「セイ様がボクシングや武道をやってるっているのは……」
「この世界で誰にも負けないためだ。やつは現実世界で鍛えた体と精神、身に付いたテクニックが、こちらの世界で大きな力になると信じてる……。そしていつか妹を助け出せる『自分』を信じている……」
「だから、あいつは強い!」
エウクレスが右、左と続けざまにフックを振り回して、セイに迫ってくる。そのパンチの威力は風切り音がするほどのパワーだったが、いいように振り回されて、なかばムキになって繰り出しているように見えた。
「いけぇ。エウクレス!」
「一発あたれば、その小僧の頭は吹き飛ぶぞぉぉ」
「殺せぇぇぇぇ」
狂気じみた声援に押されてエウクレスのパンチはスピードを増してきた。だがそのパンチはセイにかわされて、ことごとく空を切る。
エウクレスは次第に肩で息をするほどに疲れはじめてきた。
「エウクレス、なにやってやがる!!」
その檄が飛んだ瞬間セイがしかけたのがマリアにはわかった。
セイがドンと足を前に踏み出して、からだを突っ込ませる。エウクレスにとっては、待ってましたというタイミング。おおきくセイにむかって腕を振り抜く。
それがセイの狙いだった。
フェイント——。
この時代のボクシングにはないテクニックだった。
一気にセイが体をうしろにひく。が、セイの動きにつり出されたエウクレスは、パンチを止められない。からだのバランスが崩れたエウクレスのパンチの下から、セイはカウンターでレバー(肝臓)打ちをねじ込んだ。しかも立て続けに二発——。
「スイングブローはカウンターをもらいやすい!」
スピロが興奮のあまり、思わず声をあげた。
エウクレスが悶絶して、前のめりになる。そこを逃さず、右腕で打ち下ろしのストレート、そしてすぐさま左腕のアッパーでエウクレスの頭を貫く。左右のコンビネーションが決まった。
その瞬間、エウクレスのラッシュが突然とまった。
突然電源がオフになったように、すべてのモーションがストップした——。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる