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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第78話 元銀行員の男が生み出した歴史を変えるボクシング
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「さきほどスピロが言った数式を思い返してください」
セイはプラトンのもくろみを砕くように、数式の話を蒸し返した。そのことばを聞いて、さらにプラトンがそわそわしはじめるのがスピロにはわかった。
「運動エネルギーは『質量×速さ×速さ÷2』。つまりパンチのスピードが速ければ、破壊力は同等以上になる」
「たしかにその通りです。おそらく1・2倍速くパンチを打てれば互角になります」
スピロはすばやく暗算をして答えを導き出すと、そのことばに首肯してセイが続けた。
「それにぼくには今ここにない、未来のボクシングの技術がある」
「未来のボクシング……。それはどんなものなのです?」
プラトンがセイのことばに反応した。
「それは19世紀末……、いえ、今から2300年後、元銀行員の男が生み出した歴史を変えるボクシングです。負けなしの伝説的な世界チャンピオンと無差別級の試合に臨んだ彼は、今のぼくとおなじように圧倒的な体格差がありながら、まったく新しい戦い方で、チャンピオンをKOしてしまったんです」
「まさか、そんな戦い方があるのかね?」
今度はソクラテスが前のめりで尋ねてきた。自分が知らないことを聞かされて、興味をそそられずにいられなかったらしい。
「ええ、ソクラテスさん。それは、ぼくらの世界では当たり前になっている戦い方……、『アウト・ボックス』です」
「アウト・ボックス?。それはどんなものかね」
ソクラテスはさらに訊いてきたが、セイは「まぁ、見ていてください」とだけ答えた。スピロはセイの自信がどこからきているのか理解できたので、簡単な注意を与えるだけにした。
「セイ様。『アウト・ボクシング』に自信がおありのようなのは良いですが、エウクレスは頑丈なからだをしています。簡単には倒せませんよ」
そう言いながら、スピロは最後の結び目をぎゅっと結んだ。
「覚悟の上だよ」
革ひもが巻き上がると、セイは手を閉じたり開いたりして感触をためしてみた。
「どうですか?」
「スピロ、ありがとう。ボクシングのグローブとはちがうけど、なんとかやれそうだ」
「そのグラブは近代ボクシングのように、相手のからだに外傷を与えない役割はありません。ただただ、おのれのこぶしを守る役割のみです」
「でも、それなら、ボクのパンチの衝撃はダイレクトに伝えられるっていうことだね」
「それは相手も同じです」
「でも、ぼくは絶対に勝ってみせるさ……」
セイはパンと拳を手のひらに叩きつけ、自分に気合を入れる仕草をして言った。
「アマチュア・ボクサーの端くれだとしてもね」
「セイ様、くれぐれもわたしたちのボクシングとちがうことをお忘れなく。この当時は、拳だけでなく肘や腕での攻撃も許されていますから」
その時、マリアがにやにやとした、不適な笑みを思いきり浮べながらセイへ進言を申し出てきた。
「で、セイ。パンツはいつ脱ぐ?」
「手伝ってやってもいいぜ」
セイはプラトンのもくろみを砕くように、数式の話を蒸し返した。そのことばを聞いて、さらにプラトンがそわそわしはじめるのがスピロにはわかった。
「運動エネルギーは『質量×速さ×速さ÷2』。つまりパンチのスピードが速ければ、破壊力は同等以上になる」
「たしかにその通りです。おそらく1・2倍速くパンチを打てれば互角になります」
スピロはすばやく暗算をして答えを導き出すと、そのことばに首肯してセイが続けた。
「それにぼくには今ここにない、未来のボクシングの技術がある」
「未来のボクシング……。それはどんなものなのです?」
プラトンがセイのことばに反応した。
「それは19世紀末……、いえ、今から2300年後、元銀行員の男が生み出した歴史を変えるボクシングです。負けなしの伝説的な世界チャンピオンと無差別級の試合に臨んだ彼は、今のぼくとおなじように圧倒的な体格差がありながら、まったく新しい戦い方で、チャンピオンをKOしてしまったんです」
「まさか、そんな戦い方があるのかね?」
今度はソクラテスが前のめりで尋ねてきた。自分が知らないことを聞かされて、興味をそそられずにいられなかったらしい。
「ええ、ソクラテスさん。それは、ぼくらの世界では当たり前になっている戦い方……、『アウト・ボックス』です」
「アウト・ボックス?。それはどんなものかね」
ソクラテスはさらに訊いてきたが、セイは「まぁ、見ていてください」とだけ答えた。スピロはセイの自信がどこからきているのか理解できたので、簡単な注意を与えるだけにした。
「セイ様。『アウト・ボクシング』に自信がおありのようなのは良いですが、エウクレスは頑丈なからだをしています。簡単には倒せませんよ」
そう言いながら、スピロは最後の結び目をぎゅっと結んだ。
「覚悟の上だよ」
革ひもが巻き上がると、セイは手を閉じたり開いたりして感触をためしてみた。
「どうですか?」
「スピロ、ありがとう。ボクシングのグローブとはちがうけど、なんとかやれそうだ」
「そのグラブは近代ボクシングのように、相手のからだに外傷を与えない役割はありません。ただただ、おのれのこぶしを守る役割のみです」
「でも、それなら、ボクのパンチの衝撃はダイレクトに伝えられるっていうことだね」
「それは相手も同じです」
「でも、ぼくは絶対に勝ってみせるさ……」
セイはパンと拳を手のひらに叩きつけ、自分に気合を入れる仕草をして言った。
「アマチュア・ボクサーの端くれだとしてもね」
「セイ様、くれぐれもわたしたちのボクシングとちがうことをお忘れなく。この当時は、拳だけでなく肘や腕での攻撃も許されていますから」
その時、マリアがにやにやとした、不適な笑みを思いきり浮べながらセイへ進言を申し出てきた。
「で、セイ。パンツはいつ脱ぐ?」
「手伝ってやってもいいぜ」
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