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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第70話 ディアゴラスの孫、エウクレス
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スピロはあきらかにタルディスに不利になるような展開にすこし不安を抱いていた。
タルディスは強いとはいえ、相応の疲れやダメージを蓄積している。だが、エウクレスはまったく無傷の状態で決勝まで勝ち上がってきたのだ。
「さすがディアゴラスの孫、エウクレスですね。無傷で勝ち上がってきました」
プラトンが感心しきりという顔で言った。
「おい、プラトン。アテナイ代表のタルディスが対戦するンだぞ。相手を褒めてどうする?」
マリアがピシャリとプラトンの額を叩いてから言ったが、プラトンはそれについて一家言あるらしく、不満そうな口ぶりで反論した。
「マリアさん。そうはいいましてもね。彼はあのディアゴラスの孫なのですよ。クロトンのミロンと並び称される伝説的な英雄のね。期待するなというのが無理ですよ。それに……」
「ちょっと待て、プラトン。オレにはそのディアなんとかも、ミロンとかいうヤツも知らねぇ。すごさがちっともわからねぇぞ」
マリアが口を挟んだ。
スピロはこのあとの展開に集中したかったので、マリアへの説明をかってでた。
「マリア様。ディアゴラスは前にもお話したことがありますし、ミロンはよくご存知だと思いますよ」
「前に話した?。覚えていねぇし、ミロンなんてヤツも知らねぇぞ」
「ディアゴラスはギリシアのロードス・ディアゴラス国際空港やプロサッカーチームのディアゴラスFCにその名を残すほどの英雄です。オリンピックで6回優勝を飾ったレスリング選手のミロンは雄牛を背負ったという伝説があり、その人間離れした力から、あなたもご存知の飲み物のネーミングの由来にもなっていますわ」
「ミロンという飲み物……。『ミロ』かぁ」
「えぇ。そうです。二人とも、2500年後にまで親しまれている伝説の選手なのです」
「そうなのですか?。彼らは未来にまで名を残しているのですね」
プラトンが声を弾ませた。
「ミロンという男は我々哲学者にとっても、とてもなじみ深い人物なんですよ。なにせ崩落した屋根を怪力で支えて、ピタゴラスの命を救ったのですからね。それを感謝したピタゴラスは娘のミラをミロンに嫁がせたんです。つまり彼の義父はピタゴラスと……」
つい興奮して舌を滑らかにしていたプラトンは、ふいに口を噤んだ。自分の隣にいるソクラテスから尋常ならざる視線を感じたからにほかならない。
さきほどスピロが『プラトン哲学』はピタゴラスの直系である、という指摘をして、ソクラテスとの間がかなり気まずいことになったというのに、プラトンはピタゴラスの名前を連呼してしまっていた。若さゆえというべきだろうか、つい口が過ぎてしまったようだった。
「おい、プラトン、続きはどうなった?」
今の話のどこかに、ふたりの仲違いの原因があるのだと、マリアは本能的な嗅覚で嗅ぎ取ったらしい。わかったうえで蒸し返そうとした。スピロが注意をする。
「マリア様。それ以上はもう……」
マリアは頭をさげて、プラトンのばつの悪そうな顔を覗き込んで、チッとかるく舌打ちした。
「なんだ、つまンねぇな。ここでもパンチの応酬が見られると思ったんだがな……」
タルディスは強いとはいえ、相応の疲れやダメージを蓄積している。だが、エウクレスはまったく無傷の状態で決勝まで勝ち上がってきたのだ。
「さすがディアゴラスの孫、エウクレスですね。無傷で勝ち上がってきました」
プラトンが感心しきりという顔で言った。
「おい、プラトン。アテナイ代表のタルディスが対戦するンだぞ。相手を褒めてどうする?」
マリアがピシャリとプラトンの額を叩いてから言ったが、プラトンはそれについて一家言あるらしく、不満そうな口ぶりで反論した。
「マリアさん。そうはいいましてもね。彼はあのディアゴラスの孫なのですよ。クロトンのミロンと並び称される伝説的な英雄のね。期待するなというのが無理ですよ。それに……」
「ちょっと待て、プラトン。オレにはそのディアなんとかも、ミロンとかいうヤツも知らねぇ。すごさがちっともわからねぇぞ」
マリアが口を挟んだ。
スピロはこのあとの展開に集中したかったので、マリアへの説明をかってでた。
「マリア様。ディアゴラスは前にもお話したことがありますし、ミロンはよくご存知だと思いますよ」
「前に話した?。覚えていねぇし、ミロンなんてヤツも知らねぇぞ」
「ディアゴラスはギリシアのロードス・ディアゴラス国際空港やプロサッカーチームのディアゴラスFCにその名を残すほどの英雄です。オリンピックで6回優勝を飾ったレスリング選手のミロンは雄牛を背負ったという伝説があり、その人間離れした力から、あなたもご存知の飲み物のネーミングの由来にもなっていますわ」
「ミロンという飲み物……。『ミロ』かぁ」
「えぇ。そうです。二人とも、2500年後にまで親しまれている伝説の選手なのです」
「そうなのですか?。彼らは未来にまで名を残しているのですね」
プラトンが声を弾ませた。
「ミロンという男は我々哲学者にとっても、とてもなじみ深い人物なんですよ。なにせ崩落した屋根を怪力で支えて、ピタゴラスの命を救ったのですからね。それを感謝したピタゴラスは娘のミラをミロンに嫁がせたんです。つまり彼の義父はピタゴラスと……」
つい興奮して舌を滑らかにしていたプラトンは、ふいに口を噤んだ。自分の隣にいるソクラテスから尋常ならざる視線を感じたからにほかならない。
さきほどスピロが『プラトン哲学』はピタゴラスの直系である、という指摘をして、ソクラテスとの間がかなり気まずいことになったというのに、プラトンはピタゴラスの名前を連呼してしまっていた。若さゆえというべきだろうか、つい口が過ぎてしまったようだった。
「おい、プラトン、続きはどうなった?」
今の話のどこかに、ふたりの仲違いの原因があるのだと、マリアは本能的な嗅覚で嗅ぎ取ったらしい。わかったうえで蒸し返そうとした。スピロが注意をする。
「マリア様。それ以上はもう……」
マリアは頭をさげて、プラトンのばつの悪そうな顔を覗き込んで、チッとかるく舌打ちした。
「なんだ、つまンねぇな。ここでもパンチの応酬が見られると思ったんだがな……」
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