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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第56話 ヒポクラテスとの対話3
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「いいえ……?」
セイの思いがけない返事に、ヒポクラテスが目をむいた。
「役に……たたなかった……?」
「医療には、です。ただ、おおくの未来の女性たちを輝かせてくれました」
「女性たちを輝かせる?」
「えぇ。あなたの『ハーブ』の治療方法は、『ハーブ・ティー』や『アロマ・テラピー』と呼ばれています。海水を使った入浴は『タラソ・セラピー』、泥を使った療法は『クレイ・セラピー』、そして『胎盤』を使った治療方法は『プラセンタ療法』と言われていて、多くの女性の美容と若返りに、しっかりと受け継がれています」
ヒポクラテスは面喰らった様子で、目をぱちくりさせた。
「美容と若返り……だとぉ」
「えぇ。世の女性たちは、これがあなたの功績と知らずにその恩恵に浴していますよ」
「医療ではなく、美容と若返りなのかね……」
「でも、これはすごいことなんですよ。クレオパトラ、マリー・アントワネット……といってもわからないでしょうが、そのあとの歴史を変える力をもった多くの女性も、あなたの療法の虜になったのですから」
「そうか……」
ヒポクラテスはすこし脱力したように嘆息した。
「400種ものハーブを使った療法を考案したのだけどな……」
そう漏らしたヒポクラテスの顔はなぜか晴々としてみえた。
自分が成したことを未来からきたという人物に、面とむかって語られれば誰だって驚くはずだ。だが、どういう形であれ、未来に受け継がれ続けていると聞かされれば、なにかしら思うところはあるだろう。
それがどんな気持ちなのかはセイにはわからなかった。自分の成した業績に対する誇りや達成感なのかもしれないし、無意識のうちに自分を縛りつけていた足かせがはずれた解放感なのかもしれない。
「でも、ハーブの一部は今も薬の原料として使われています。ちゃんと医療にも使われていますよ」
セイが遅ればせながら、付け加えた。
「だが、きみらの世界では、いながらにして遠くの患者を手術したり、からだの中身を透視したりできるのだろう。おそらく薬も、おそろしく進化しているに違いない。それにわたしは、どの病気にはどのような薬が効くかを知ることができたが、それが『なぜ』きくのかがわからなかった。きみらの世界では、それもわかっているのだろう」
「えぇ。そうですね。科学的根拠がなければ、薬として承認されませんから」
「興味深い……」
ヒポクラテスが真摯な顔つきで、セイのほうに向き直った。
「セイどの。わたしの護衛などと堅苦しいことはなしにしてくれないか」
「いえ、でも……」
「きみの知っているかぎりでいい……
もっと未来の医学の話を聞かせてくれないかな」
セイの思いがけない返事に、ヒポクラテスが目をむいた。
「役に……たたなかった……?」
「医療には、です。ただ、おおくの未来の女性たちを輝かせてくれました」
「女性たちを輝かせる?」
「えぇ。あなたの『ハーブ』の治療方法は、『ハーブ・ティー』や『アロマ・テラピー』と呼ばれています。海水を使った入浴は『タラソ・セラピー』、泥を使った療法は『クレイ・セラピー』、そして『胎盤』を使った治療方法は『プラセンタ療法』と言われていて、多くの女性の美容と若返りに、しっかりと受け継がれています」
ヒポクラテスは面喰らった様子で、目をぱちくりさせた。
「美容と若返り……だとぉ」
「えぇ。世の女性たちは、これがあなたの功績と知らずにその恩恵に浴していますよ」
「医療ではなく、美容と若返りなのかね……」
「でも、これはすごいことなんですよ。クレオパトラ、マリー・アントワネット……といってもわからないでしょうが、そのあとの歴史を変える力をもった多くの女性も、あなたの療法の虜になったのですから」
「そうか……」
ヒポクラテスはすこし脱力したように嘆息した。
「400種ものハーブを使った療法を考案したのだけどな……」
そう漏らしたヒポクラテスの顔はなぜか晴々としてみえた。
自分が成したことを未来からきたという人物に、面とむかって語られれば誰だって驚くはずだ。だが、どういう形であれ、未来に受け継がれ続けていると聞かされれば、なにかしら思うところはあるだろう。
それがどんな気持ちなのかはセイにはわからなかった。自分の成した業績に対する誇りや達成感なのかもしれないし、無意識のうちに自分を縛りつけていた足かせがはずれた解放感なのかもしれない。
「でも、ハーブの一部は今も薬の原料として使われています。ちゃんと医療にも使われていますよ」
セイが遅ればせながら、付け加えた。
「だが、きみらの世界では、いながらにして遠くの患者を手術したり、からだの中身を透視したりできるのだろう。おそらく薬も、おそろしく進化しているに違いない。それにわたしは、どの病気にはどのような薬が効くかを知ることができたが、それが『なぜ』きくのかがわからなかった。きみらの世界では、それもわかっているのだろう」
「えぇ。そうですね。科学的根拠がなければ、薬として承認されませんから」
「興味深い……」
ヒポクラテスが真摯な顔つきで、セイのほうに向き直った。
「セイどの。わたしの護衛などと堅苦しいことはなしにしてくれないか」
「いえ、でも……」
「きみの知っているかぎりでいい……
もっと未来の医学の話を聞かせてくれないかな」
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