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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第51話 圧倒的な信頼感はどうしたということだ
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スピロはセイが気分を害してないかと心配したが、セイはそんなのはどこふく風とばかりにその先を催促してきた。
「で、スピ口。君の正攻法とはどういうことなんだい」
「悪魔が内包する一種の矛盾をついてやるのです。それだけで取るに足らない悪魔は消えうせますし、能力の弱い悪魔は正体が割れます。正体を現わした悪魔は人の邪心を利用できず、力をうしないますので、そこを武器で叩くのは造作もないことです」
セイはそこまで聞いて、解せないという顔で言った。
「スピロ、ぼくが出会った悪魔は、ほとんど自分から正体をさらけ出してきたけど……」
「は、セイ。それはおまえンとこに集まってくる輩が、中級や上級悪魔ばかりだからだよ。そいつらはみずから名乗り出ても、屁とも力が弱まらねえ、嫌ンなるほど強いヤツばかりだ」
マリアがうんざりとした様子で説明をかました。スピロはマリアの横槍が当を得ていると思ったが、あまりに気配りのない言い方に、セイが緊張したり怖じ気づいたりしてないか気になった。
「なんだ。そういうこと?」
セイがあっけらかんとして言った。
「ああ、そういう巡り合せなんだよ。セイ」
マリアがそう念をおすと、セイは満面の笑みを浮べて言った。
「よかった。強い敵なら、たぶん、冴を助けるのに近道じゃないか」
「まあ、そういう考え方もありですわね。セイさん」
エヴァが屈託もなく、それを肯定した。
スピ口はすこし動揺した。沈着冷静であることを『一丁目一番地』とする自分にとってあってはならないことだった。だが、セイとマリア、エヴァの尋常ならざる余裕と、圧倒的な信頼感はどうしたということだ。
自分の知っているマリアは力で何でもごり押しするタイプで、自分とは真逆のダイバーだったはずだ。一度、ひと言ふた言かわしただけだったが、それだけで絶対にお互い相入れない相手だとわかった。
己の腕だけを盲信して、人を信用しない野卑な女——。
自分がもっとも苦手できらいな種族だった。
それにエヴァも自分が以前会った時とは雰囲気がちがっている。
資産家の娘ならではの一種の近寄りがたさと不愉快さを、フレグランスのようにその身にまとわせている鼻持ちならない女、というのがスピロの第一印象だった。さらに加えて、目的のためなら手段を選ばない冷淡さを、会話の端々で感じ取った記憶もある。どちらにしてもポジティブな感情はもてなかった。
だが、今回、一緒に行動してみて、やや自分本位で空回りするところがあったが、彼女は実に協力的だった。『使命』ではなく『職務』としてダイブしているのは知っていたので、どこかしらドライに割り切ってはいるとは思っているが、ここまでのところ、実に『コ・オペレィティブ』な態度で、自分なりの役割をきっちりと果たしている。
そこまで考察してスピロははたと気づいた。セイをじっと見つめる。
この男なのか——。
「で、スピ口。君の正攻法とはどういうことなんだい」
「悪魔が内包する一種の矛盾をついてやるのです。それだけで取るに足らない悪魔は消えうせますし、能力の弱い悪魔は正体が割れます。正体を現わした悪魔は人の邪心を利用できず、力をうしないますので、そこを武器で叩くのは造作もないことです」
セイはそこまで聞いて、解せないという顔で言った。
「スピロ、ぼくが出会った悪魔は、ほとんど自分から正体をさらけ出してきたけど……」
「は、セイ。それはおまえンとこに集まってくる輩が、中級や上級悪魔ばかりだからだよ。そいつらはみずから名乗り出ても、屁とも力が弱まらねえ、嫌ンなるほど強いヤツばかりだ」
マリアがうんざりとした様子で説明をかました。スピロはマリアの横槍が当を得ていると思ったが、あまりに気配りのない言い方に、セイが緊張したり怖じ気づいたりしてないか気になった。
「なんだ。そういうこと?」
セイがあっけらかんとして言った。
「ああ、そういう巡り合せなんだよ。セイ」
マリアがそう念をおすと、セイは満面の笑みを浮べて言った。
「よかった。強い敵なら、たぶん、冴を助けるのに近道じゃないか」
「まあ、そういう考え方もありですわね。セイさん」
エヴァが屈託もなく、それを肯定した。
スピ口はすこし動揺した。沈着冷静であることを『一丁目一番地』とする自分にとってあってはならないことだった。だが、セイとマリア、エヴァの尋常ならざる余裕と、圧倒的な信頼感はどうしたということだ。
自分の知っているマリアは力で何でもごり押しするタイプで、自分とは真逆のダイバーだったはずだ。一度、ひと言ふた言かわしただけだったが、それだけで絶対にお互い相入れない相手だとわかった。
己の腕だけを盲信して、人を信用しない野卑な女——。
自分がもっとも苦手できらいな種族だった。
それにエヴァも自分が以前会った時とは雰囲気がちがっている。
資産家の娘ならではの一種の近寄りがたさと不愉快さを、フレグランスのようにその身にまとわせている鼻持ちならない女、というのがスピロの第一印象だった。さらに加えて、目的のためなら手段を選ばない冷淡さを、会話の端々で感じ取った記憶もある。どちらにしてもポジティブな感情はもてなかった。
だが、今回、一緒に行動してみて、やや自分本位で空回りするところがあったが、彼女は実に協力的だった。『使命』ではなく『職務』としてダイブしているのは知っていたので、どこかしらドライに割り切ってはいるとは思っているが、ここまでのところ、実に『コ・オペレィティブ』な態度で、自分なりの役割をきっちりと果たしている。
そこまで考察してスピロははたと気づいた。セイをじっと見つめる。
この男なのか——。
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