158 / 935
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第46話 エヴァの悔恨
しおりを挟む
いつのタイミングだろうか——。いつやられたのか——。
エヴァ・ガードナーは、自分自身に腹が立って仕方がなかった。
いつもの自分なら悪魔が巡らせてくる深謀遠慮に備えて、なにかしらの手を打っていたはずだ。それがスピロの活躍にかまけて、すっかり後手後手に回ってしまっていた。
エヴァは自分自身に猛省を促した。
せめて『コーマ・ディジーズ財団』が受け取った代金分の仕事はしなくてはならない。
エヴァは奥の部屋で眠りについたタルディスのほうに一度目をくれてから、円卓を囲んで座っている面々に向き直った。まずセイに質問した。
「セイさん。あなたがタルディスさんに憑依しているとき、誰かが、いえ、なにか異常を感じましたか?。たとえばわたしたち以外でなにかを耳元で囁くようなこと……」
「いや、特には。でももしその時なにかを吹きこまれたとしたら、ボクは気づけたはずだと思う」
「セイさんのおっしゃる通りだよ。あたいがタルディスさんの眠っている意識にたどり着いた時、感じたのは『優勝したい』という単純な思いだったよ。載冠を受けてぇ、なんていう、もって回ったような感情じゃなかった」
ゾーイがその意図を察して、セイの証言をフォローした。
「うん、そうだね。ぼくが憑依しているとき、誰かがもし囁いたとしても、ぼくに語りかけてるのだから、ぼくを通してみんなも気づいたんじゃないかな」
「ってことは、悪魔の囁きはそのあとってことだな」
マリアが先回りして断定してきたので、エヴァはそれを注意した。
「マリアさん、勝手に決めつけないでください。考察に先入観が生じます」
エヴァは少々強い口調でマリアを牽制すると、もう一度セイに尋ねた。
「セイさん。あなたが競った相手のヒッポステネス、あの男はなにか言ってきませんでしたか?」
「うん。彼とは結局、直接組み合うことにならなかったけど、ぼくが言われたのは、たんなる脅しや煽りの類いの捨て台詞だけだったと思う。それに近くで見ている限りじゃあ、悪魔的な力も振舞いも感じられなかった……」
「は、エヴァ。もしあいつが悪魔か悪魔の手先なら競技中に直接手をかけているだろうよ」
マリアがエヴァに言い放った。
「マリアさん、わかっています。その可能性を捨て去るために訊いているのです!」
「お、おう……、そんならいいぜ」
マリアがエヴァの並々ならない気迫がこもった返事に口ごもった。
「では、セイさんの魂が抜け出て、タルディス本人が決勝戦を戦っている最中に、ヒッポステネスから『囁き』があった可能性はない、と仮定します」
エヴァはまず可能性の一部を否定すると、すぐさまスピロのほうへ質問をむけた。
「スピロさん、この仮説で問題ないでしょうか?」
だが、スピロはその質問にはすぐに答えようとしなかった。
「エヴァ様。失礼ですが、それを尋ねてなにをされようと?」
この場を自分が仕切っていることがスピロは気に入らないのだと、エヴァはすぐに感じ取った。今回のダイブではすでに二回のトライアルのアドバンテージがあることもあって、このような作戦はスピロが仕切っていた。それを突然、思い出したようにしゃしゃりでてきたのだ。まぁ抵抗されて当然というものだ。
だが、ここは引くわけにはいかない——。
こちらは、この依頼を、米国政府直々の依頼を、失敗させるという選択肢は持ち合わせていないのだ。
エヴァ・ガードナーは、自分自身に腹が立って仕方がなかった。
いつもの自分なら悪魔が巡らせてくる深謀遠慮に備えて、なにかしらの手を打っていたはずだ。それがスピロの活躍にかまけて、すっかり後手後手に回ってしまっていた。
エヴァは自分自身に猛省を促した。
せめて『コーマ・ディジーズ財団』が受け取った代金分の仕事はしなくてはならない。
エヴァは奥の部屋で眠りについたタルディスのほうに一度目をくれてから、円卓を囲んで座っている面々に向き直った。まずセイに質問した。
「セイさん。あなたがタルディスさんに憑依しているとき、誰かが、いえ、なにか異常を感じましたか?。たとえばわたしたち以外でなにかを耳元で囁くようなこと……」
「いや、特には。でももしその時なにかを吹きこまれたとしたら、ボクは気づけたはずだと思う」
「セイさんのおっしゃる通りだよ。あたいがタルディスさんの眠っている意識にたどり着いた時、感じたのは『優勝したい』という単純な思いだったよ。載冠を受けてぇ、なんていう、もって回ったような感情じゃなかった」
ゾーイがその意図を察して、セイの証言をフォローした。
「うん、そうだね。ぼくが憑依しているとき、誰かがもし囁いたとしても、ぼくに語りかけてるのだから、ぼくを通してみんなも気づいたんじゃないかな」
「ってことは、悪魔の囁きはそのあとってことだな」
マリアが先回りして断定してきたので、エヴァはそれを注意した。
「マリアさん、勝手に決めつけないでください。考察に先入観が生じます」
エヴァは少々強い口調でマリアを牽制すると、もう一度セイに尋ねた。
「セイさん。あなたが競った相手のヒッポステネス、あの男はなにか言ってきませんでしたか?」
「うん。彼とは結局、直接組み合うことにならなかったけど、ぼくが言われたのは、たんなる脅しや煽りの類いの捨て台詞だけだったと思う。それに近くで見ている限りじゃあ、悪魔的な力も振舞いも感じられなかった……」
「は、エヴァ。もしあいつが悪魔か悪魔の手先なら競技中に直接手をかけているだろうよ」
マリアがエヴァに言い放った。
「マリアさん、わかっています。その可能性を捨て去るために訊いているのです!」
「お、おう……、そんならいいぜ」
マリアがエヴァの並々ならない気迫がこもった返事に口ごもった。
「では、セイさんの魂が抜け出て、タルディス本人が決勝戦を戦っている最中に、ヒッポステネスから『囁き』があった可能性はない、と仮定します」
エヴァはまず可能性の一部を否定すると、すぐさまスピロのほうへ質問をむけた。
「スピロさん、この仮説で問題ないでしょうか?」
だが、スピロはその質問にはすぐに答えようとしなかった。
「エヴァ様。失礼ですが、それを尋ねてなにをされようと?」
この場を自分が仕切っていることがスピロは気に入らないのだと、エヴァはすぐに感じ取った。今回のダイブではすでに二回のトライアルのアドバンテージがあることもあって、このような作戦はスピロが仕切っていた。それを突然、思い出したようにしゃしゃりでてきたのだ。まぁ抵抗されて当然というものだ。
だが、ここは引くわけにはいかない——。
こちらは、この依頼を、米国政府直々の依頼を、失敗させるという選択肢は持ち合わせていないのだ。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる