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ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第45話 だれかが……囁いた……
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「ジョー・デレク?。魂をリリース?。なんのことだい」
キョトンとした様子のタルディスに今度はゾーイが喰ってかかった。
「タルディスのだんな。殺生ですぜ。自分の『優勝』を認めてくんねぇかい」
「明日のボクシングでまた勝てたら、『優勝した』と自分で納得できるかもね」
みんなを手玉にとるような物言いに、マリアが怒りを爆発させた。
「セイ。こいつ、この場で斬り捨てていいか。無理やり切断しても、いまなら現世の魂も浮かばれるだろう」
マリアはセイに許可を求めたが、スピロが反射的に叱責してきた。
「マリア様、戯れ言がすぎます。魂は強制排出することはできません」
「いや、戯れ言ではねぇんだがな」
マリアが小声でささやかな抵抗を試みたが黙殺された。
「セイ様、タルディス様相手では埒が明きません。ジョー・デレク様の魂を呼びだして事情を開いてみましょう。何か知っているかもしれません」
スピロにそう言われて、セイはタルディスの頭の上に手をかぶせて、ぐっと空間をつかむまねをした。そしてそのまま乱暴にずるっとひき出すジェスチャーをすると、ジョー・デレクの顔がタルディスの頭上に出現した。すぐさまスピロが問いかける。
「ジョー・デレク様。何かおかしなことが起きています。何があったか教えて下さい」
だが頭上に浮き出たジョー・デレクは、目はうつろで口元がだらしなく開いていた。
「ジョーさん、ど、どうされたんでぃ?」
まっさきに声をあげたのはゾーイだった。すぐにスピロもエヴァも異変に気づいて、ジョー・デレクに刮目した。
ジョー・デレクの魂は、人間の顔の原形が崩れかかっていた。精気をしめす輝きは、おぼろげな灯火となって今にも消え入りそうだ。そこにはセイやマリアたちを子供だ、とバカにしたり、スピロたちの失敗を声高に罵っていた高圧的な姿はなかった。スピロ、ゾーイ、エヴァ、そしてマリアまでもが、その変わり果てた姿に、唖然として、だれもことばを発せずにいた。
「なにがあった?」
セイは詰問しているよう聞こえないよう、できる限り冷静を装って訊いた。
だが、ジョー・デレクはうろんな目だけをセイにむけると、弱々しくひと言だけ言った。
「なぁ……、戻れる……んじゃなかった……のか?」
セイはそのあとのことばを待った。だが、頭上に浮かんだジョー・デレクはなにも言わなかった。ゆっくりとセンテンスを切って、セイがことばを発した。
「デレクさん。それはぼくたちが訊きたいことです。なぜ、あなたは、現世に戻れないんですか?」
「おい、なにがタルディスに起きた?」
マリアが横から強い口調で問いただした。セイはすぐさま手をあげて、マリアを制した。マリアが口を噤む。
セイはじっとジョー・デレクを見つめた。無理強いできる状態ではない、と感じた。今の彼の精気だけで、なんとか答えられるレベルの返事で我慢するしかない。
「だれかが……囁いた……」
ジョー・デレクが呻くように声を絞り出した。途端に誰かがその先を尋ねようと、口を開きかけたのがわかった。が、セイは背後に手をやってその気配を制した。
ジョー・デレクが口をあわあわと震わせた。まるでなにかの抵抗にあっていて、それを必死で振り切ろうとしているかのように見える。信じられないほどもどかしい時間だったが、全員がそれを我慢して無言のままじっと注視するにとどめた。セイの制止の意味をみな理解しているようだった。
やがて彼の必死の喘ぎが音になって漏れでた。たったひと言だった。
「未練が……書換えられた……」
キョトンとした様子のタルディスに今度はゾーイが喰ってかかった。
「タルディスのだんな。殺生ですぜ。自分の『優勝』を認めてくんねぇかい」
「明日のボクシングでまた勝てたら、『優勝した』と自分で納得できるかもね」
みんなを手玉にとるような物言いに、マリアが怒りを爆発させた。
「セイ。こいつ、この場で斬り捨てていいか。無理やり切断しても、いまなら現世の魂も浮かばれるだろう」
マリアはセイに許可を求めたが、スピロが反射的に叱責してきた。
「マリア様、戯れ言がすぎます。魂は強制排出することはできません」
「いや、戯れ言ではねぇんだがな」
マリアが小声でささやかな抵抗を試みたが黙殺された。
「セイ様、タルディス様相手では埒が明きません。ジョー・デレク様の魂を呼びだして事情を開いてみましょう。何か知っているかもしれません」
スピロにそう言われて、セイはタルディスの頭の上に手をかぶせて、ぐっと空間をつかむまねをした。そしてそのまま乱暴にずるっとひき出すジェスチャーをすると、ジョー・デレクの顔がタルディスの頭上に出現した。すぐさまスピロが問いかける。
「ジョー・デレク様。何かおかしなことが起きています。何があったか教えて下さい」
だが頭上に浮き出たジョー・デレクは、目はうつろで口元がだらしなく開いていた。
「ジョーさん、ど、どうされたんでぃ?」
まっさきに声をあげたのはゾーイだった。すぐにスピロもエヴァも異変に気づいて、ジョー・デレクに刮目した。
ジョー・デレクの魂は、人間の顔の原形が崩れかかっていた。精気をしめす輝きは、おぼろげな灯火となって今にも消え入りそうだ。そこにはセイやマリアたちを子供だ、とバカにしたり、スピロたちの失敗を声高に罵っていた高圧的な姿はなかった。スピロ、ゾーイ、エヴァ、そしてマリアまでもが、その変わり果てた姿に、唖然として、だれもことばを発せずにいた。
「なにがあった?」
セイは詰問しているよう聞こえないよう、できる限り冷静を装って訊いた。
だが、ジョー・デレクはうろんな目だけをセイにむけると、弱々しくひと言だけ言った。
「なぁ……、戻れる……んじゃなかった……のか?」
セイはそのあとのことばを待った。だが、頭上に浮かんだジョー・デレクはなにも言わなかった。ゆっくりとセンテンスを切って、セイがことばを発した。
「デレクさん。それはぼくたちが訊きたいことです。なぜ、あなたは、現世に戻れないんですか?」
「おい、なにがタルディスに起きた?」
マリアが横から強い口調で問いただした。セイはすぐさま手をあげて、マリアを制した。マリアが口を噤む。
セイはじっとジョー・デレクを見つめた。無理強いできる状態ではない、と感じた。今の彼の精気だけで、なんとか答えられるレベルの返事で我慢するしかない。
「だれかが……囁いた……」
ジョー・デレクが呻くように声を絞り出した。途端に誰かがその先を尋ねようと、口を開きかけたのがわかった。が、セイは背後に手をやってその気配を制した。
ジョー・デレクが口をあわあわと震わせた。まるでなにかの抵抗にあっていて、それを必死で振り切ろうとしているかのように見える。信じられないほどもどかしい時間だったが、全員がそれを我慢して無言のままじっと注視するにとどめた。セイの制止の意味をみな理解しているようだった。
やがて彼の必死の喘ぎが音になって漏れでた。たったひと言だった。
「未練が……書換えられた……」
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