121 / 935
ダイブ4 古代オリンピックの巻 〜 ソクラテス・プラトン 編 〜
第9話 処女のあなたには刺激が強すぎる
しおりを挟む
オリュンピアのギムナシオンは聖域の西側に位置し、両側に19の列柱をもったドーリス様式の回廊が45メートル四方の中庭を囲むような形状で、それぞれの柱廊のうしろには部屋がたくさんあった。
北側にはエルディオテシオンとコニステリオン、選手たちの休憩室が、東側にはボクシングの練習場、南側には跳躍競技用の長い部屋が、西側にはレスリングやパンクラチオンの練習場があった。西と東側の部屋にはどこもベンチがめぐらされていて、観客が選手の練習の様子を見ることができるようになっている。
ギムナシオンの入り口の前に立つと、両側にヘルメスとアポロンの像が出迎えた。入り口のほうへ進もうとしたところで、プラトンがエヴァをみつめて言った。
「エヴァさん。あなたはこの中に入らないほうがいい。処女のあなたには刺激が強すぎる」
セクハラじみたことを面とむかって言われて、エヴァの顔がたちまち赤らんだ。あまりにふいをつかれて、怒っていいのか、恥ずかしがっていいのかわからないようだ。
「おい、プラトン。なんで、こいつが処女だって知っている?」
まともに反応できずにいるエヴァに代わって、マリアがいきりたって言った。
「なにを怒っているんです。だって聖地に入れる女性は、未婚者と子供だけですよ。既婚者はアルフェイオス川の南側で待機しなくてはなりません」
あっけらかんと語るプラトンの説明に納得したのか、マリアが首肯した。いや、しかけた。
「おい、ちょっと待て。プラトン。なんでオレにはエヴァとおなじ括りになってねぇんだ。おまえ、オレを子供扱いしてンじゃねぇだろうな」
そう言うなり、手のひらを上にむけて手の中に黒い雲を呼び出そうとした。手の上で黒い闇が飛び跳ね、稲妻がバチバチと閃く。
だが、その手のひらのうえに、セイが自分の手のひらを重ねて、放出されそうになったパワーを無理やり押し込めると、耳元で囁くように戒めた。
「マリア、騒ぎを起こさないで。オリンピックが中止になったら、元もこもない」
「セイ、一発くらい殴らせろ」
「だめだよ。今、ここは平和の祭典の真っ最中だからね」
「じゃあ、わかった……よ」
セイの説得でマリアはすぐにしおらしくなった。
セイはそれを聞くなり、プラトンににっこりと笑いかけて訊いた。
「さあ、プラトンさん。行きましょう」
と、プラトンがふいに恥じらうように顔を伏せた。
「あ、いや、セイ。オリンピュアのギムナシオンはもしかしたら、女人禁制かもしれない。係員に聞いてくるので、ここで待っていただけないだろうか?」
それだけ言うと、セイの返事も待たずに、そそくさとプラトンはギムナシオンの中へ小走りで入っていった。あまりに突発的な行動で、おいてけぼりをくらった形になったセイたちは、ぽかんとしてプラトンの背中を見送った。
「まぁ、もしかしてマリアさんが怖いことを言うから、逃げられたのかしら……」
エヴァが言った。先ほど『処女』だと指摘されて、顔を赤らめていたのが嘘のようにけろっとしている。マリアがエヴァの変わり身に呆れながら続けた。
「バカ言え。たぶん、セクハラめいたこと言ったのを恥じて逃げたんだよ」
「マリア、エヴァ。失礼だよ。たぶんこの国の人間は入場するのに、特別なルールがあるんじゃないかな。プラトンさんはそれを確認しにいったんだと思うよ」
「は、そうは見えなかったぞ。オレはまるで恋する乙女のような恥じらいを感じたぞ」
「そうですね。さっきの私みたいに、顔が赤らんでましたもの……」
==========================================
ギムナシオンの場所
https://32300.mitemin.net/i456643/
ギムナシオンの見取り図(すべての部屋の役割はわからないようです)
https://32300.mitemin.net/i456642/
北側にはエルディオテシオンとコニステリオン、選手たちの休憩室が、東側にはボクシングの練習場、南側には跳躍競技用の長い部屋が、西側にはレスリングやパンクラチオンの練習場があった。西と東側の部屋にはどこもベンチがめぐらされていて、観客が選手の練習の様子を見ることができるようになっている。
ギムナシオンの入り口の前に立つと、両側にヘルメスとアポロンの像が出迎えた。入り口のほうへ進もうとしたところで、プラトンがエヴァをみつめて言った。
「エヴァさん。あなたはこの中に入らないほうがいい。処女のあなたには刺激が強すぎる」
セクハラじみたことを面とむかって言われて、エヴァの顔がたちまち赤らんだ。あまりにふいをつかれて、怒っていいのか、恥ずかしがっていいのかわからないようだ。
「おい、プラトン。なんで、こいつが処女だって知っている?」
まともに反応できずにいるエヴァに代わって、マリアがいきりたって言った。
「なにを怒っているんです。だって聖地に入れる女性は、未婚者と子供だけですよ。既婚者はアルフェイオス川の南側で待機しなくてはなりません」
あっけらかんと語るプラトンの説明に納得したのか、マリアが首肯した。いや、しかけた。
「おい、ちょっと待て。プラトン。なんでオレにはエヴァとおなじ括りになってねぇんだ。おまえ、オレを子供扱いしてンじゃねぇだろうな」
そう言うなり、手のひらを上にむけて手の中に黒い雲を呼び出そうとした。手の上で黒い闇が飛び跳ね、稲妻がバチバチと閃く。
だが、その手のひらのうえに、セイが自分の手のひらを重ねて、放出されそうになったパワーを無理やり押し込めると、耳元で囁くように戒めた。
「マリア、騒ぎを起こさないで。オリンピックが中止になったら、元もこもない」
「セイ、一発くらい殴らせろ」
「だめだよ。今、ここは平和の祭典の真っ最中だからね」
「じゃあ、わかった……よ」
セイの説得でマリアはすぐにしおらしくなった。
セイはそれを聞くなり、プラトンににっこりと笑いかけて訊いた。
「さあ、プラトンさん。行きましょう」
と、プラトンがふいに恥じらうように顔を伏せた。
「あ、いや、セイ。オリンピュアのギムナシオンはもしかしたら、女人禁制かもしれない。係員に聞いてくるので、ここで待っていただけないだろうか?」
それだけ言うと、セイの返事も待たずに、そそくさとプラトンはギムナシオンの中へ小走りで入っていった。あまりに突発的な行動で、おいてけぼりをくらった形になったセイたちは、ぽかんとしてプラトンの背中を見送った。
「まぁ、もしかしてマリアさんが怖いことを言うから、逃げられたのかしら……」
エヴァが言った。先ほど『処女』だと指摘されて、顔を赤らめていたのが嘘のようにけろっとしている。マリアがエヴァの変わり身に呆れながら続けた。
「バカ言え。たぶん、セクハラめいたこと言ったのを恥じて逃げたんだよ」
「マリア、エヴァ。失礼だよ。たぶんこの国の人間は入場するのに、特別なルールがあるんじゃないかな。プラトンさんはそれを確認しにいったんだと思うよ」
「は、そうは見えなかったぞ。オレはまるで恋する乙女のような恥じらいを感じたぞ」
「そうですね。さっきの私みたいに、顔が赤らんでましたもの……」
==========================================
ギムナシオンの場所
https://32300.mitemin.net/i456643/
ギムナシオンの見取り図(すべての部屋の役割はわからないようです)
https://32300.mitemin.net/i456642/
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。


セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる