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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第72話 始動! -暴君ネロ編- 完結
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まったくもって、ありがちの展開——。
二日後、夢見・聖は朝のホームルームの騒めきに包まれた教室で、おおきくため息をついた。
「突然だが転校生を紹介する」
そう、担任に紹介されて壇上に立ったのが、どう見ても小学生くらいにしか見えない顔立ちと背丈の女の子で、しかもドイツ人だと言われれば、騒つかないほうがおかしい。
「オレはマリア=フォン=トラップだ。よろしく!」
しかも言葉づかいが、乱暴ならなおさらだった。
「ちょっとお、聖ちゃんどういうことの?」
隣の席からかがりが囁き声で、しかしたっぷりと怒気を含んだ口調で訊いてきた。
「ぼくも知らないよ」
聖はマリアに見つからないように、顔を前の席の生徒の背中に隠れるように、首を引っ込めた姿勢で答えた。
「輝雄おじさんの方が知ってるんじゃあ」
「昨晩、ご飯一緒に食べたけど、そんな様子おくびにもださなかったわ。お父さんがもし知ってたとしたら、ぜったいそわそわしてるはず」
かがりの指摘はもっともだと思った。叔父の輝雄は娘と食事をしながら、こんなサプライズを隠しおおせるような器用な人間ではない。
「ということは、組織か……」
かがりもその名称が出てきて、合点がいったようだった。
「あの時みたいに、組織の力でねじ込んできたってこと?」
「そう、組織だ。かがり!」
壇上からマリアが大声で宣言した。ザワッと空気が揺れ、教室の耳目がすべてかがりの方へ向けられた。
かがりはことさら大きなため息をつくと、ゆっくりと立ちあがった。
「マリア、どーーいうこと?」
「いやね。聖のことが気に入ってな」
今度は衆目が一斉に聖の方に移る。
「ど、どういうことよ」
クラスメイトが驚くほど、かがりは動揺していた。沈着で、何ごとも段取りよくこなす学報委員のふだんの姿からは、想像できないほどの狼狽えっぷりだった。
マリアは思うところをたっぷり含んだような笑みをかがりにむけた。
「うちの組織がな、聖の能力が気に入ったらしい……」
「あ、あぁ……、そ、そうなの。あなたの組織が……なのね……」
マリアとかがりのやりとりがとぎれると、待っていたように担任が口をはさんだ。
「マリアくん、きみは広瀬さんや夢見くんと知り合いなのかね?」
マリアはくるりと向き直ると、担任を下から見あげたまま口元を歪めてみせた。
「先生、あまり詮索しない方がいい。なにせ組織がからんでるからな」
その顔つきや口ぶりが恐喝じみて聞こえた担任の教師は、可愛そうに絶句したまま固まってしまった。聖はマリアの悪ふざけだとすぐにわかったが、そのまま無関係の者にはちょっと刺激が強すぎるのでしぶしぶ立ちあがった。
「マリア、先生を脅かさないでやってくれるかい」
今度は教室中の耳目が一斉に聖に集まる。
「組織って言ったって、キリスト教協会みたいなヤツだろ。そんな言い方じゃあ、勘違いする」
マリアは聖の姿を認めると、手を挙げて勢一杯背伸びして嬉しそうに笑った。
「おーー。聖、きさまもこのクラスだったか?」
「まぁ、マリア、しらじらしいわね。知っててこのクラスに編入してきたくせに。どうせ、エヴァも別のクラスに一緒に編入してきてるンでしょ」
「かがり、残念だ。あいつは本物のお嬢様だからね。こんなしょっぱい公立高校には、編入させてもらえなかった。あいつは隣町の私立のお嬢様学校送りだ!」
「しょっぱい公立高校ってーー」
クラスの中の誰かが呟くなり、教室内がザワついた。
あちらの世界でも、こちらの世界でも常に揉め事を起こしたがるマリアの態度に、聖は、頭を抱える思いだった。ため息が漏れる。
やれやれ、マリアのやつ……。
「マリア、きみはバチカンの神学校でトップの成績だって聞いた。こんなしょっぱい公立高校で申し訳ないけど、みんなで歓迎するよ」
「おう、歓迎されてやるぜ」
「もう、ほんとうに図々しいわね」
かがりがあきれ返えって言った。
「あぁ、図々しいついでに、おまえンとこのラボの近くに住むことになった。そうすりゃ聖と片時に離れずに済むからな」
「ちょっとぉ、それどういうこと?」
「上からの命令だよ。おまえンとこの親父さんにも話をつけてる。エヴァの財団の方からも話も金もいってる。まぁ、『ペタンコ同盟』の仲間同士、これからも仲良くたのむわ」
またもやクラスの連中がザワついた。というより、どよめいたという感じだった。聖が見る限り、それに反応したのは、ほとんどが男子だった。
自分に向けられている視線を感じて、かがりが胸元を両手で隠しながら、大声でクレームをマリアにぶつける。
「ち、ちょっとぉ、な、なに言いだすのよ」
かがりとマリアのやりとりをはたで聞きながら、なんて平和なんだろう、と聖は思った。あちらの世界で、歴史の転換点というべき激動の瞬間に立ち会ってばかりだと、こんなどうでもいい時間が、むしろいとおしく感じる。
その時、SNSの着信音がかばんのなかから聞こえた。
それを取り出そうと手を伸ばしかけたところで、マリアの勝ち誇ったような声が壇上から飛んできた。
「聖、緊急ダイブの要請、エヴァからだ」
そういうなり、手にしたスマートフォンを前に掲げてみせると、画面をこちらにむけた。テレビ電話の画面にはエヴァ・ガードナーの顔が映し出されていた。音声を『拡声』にしたのだろう、エヴァの声が教室中に聞こえ出す。
「『コーマ・ディジーズ財団』からの緊急要請です。要引揚者はアメリカ人、68才、男性……」
エヴァがもったいぶって、ひと呼吸おいてから言った。
「政府要人だそうです」
教室内が本日一番のどよめきをみせた。
「静かにしろ!」
担任がみんなを落ち着かせようと声をあげかけたが、実際に大声でみんなを黙らせたのは、マリアだった。突然、静まり返った教室の様子に、むしろ担任は声がでなくなっていた。
「先生……」
マリアが声をかけると、担任はいくぶんかビクッとからだを震わせた。
「というわけで、悪いが、今日は早退させてもらう」
「いや、しかしトラップくん。まだ5分ほどしか……」
マリアが下から担任を睨みつけた。
「それと、聖も一緒に早退だ」
「ちょっとぉ、マリア、勝手なこと言わないで!」
かがりが学級委員らしく、マリアを諌めようとしたが、マリアがそんな常識的なことを聞くはずもなかった。
「文句なら『昏睡病』で眠りこけている、アメリカ政府要人と、要請してきたアメリカ政府に掛け合え」
「あ、アメリカ……?」
あまりに突拍子もない切り返しに、かがりが戸惑っている隙に、マリアが聖のほうに顔をむけて声をあげた。
「さぁ、聖。おまえも来い。出番だ」
「マリア、ぼくは行かないよ。授業がある」
「そんなの放っておけ。人命優先だ。それに『サイコ・ダイバーズ(PSY・CO DIVERS)』のリーダーに、参加しねぇという選択肢はねぇ」
その名称に教室の生徒たちが一斉に聖のほうへ目をむけた。今度はどよめきどころか、咳払いひとつなかった。へたに騒ぐとマリアにまた一喝されるからだった。
「『サイコ・ダイバーズ(PSY・CO DIVERS)』……、ちょ、なんでぼくがそれに組み入れられてるんだ、マリア」
「当然だろ。なぜ、オレやエヴァが、ここに来たと思う?」
聖はハッとして、鞄のなかからスマートフォンを取り出した。スマートフォンの画面にはSNSで、輝雄・叔父さんからのSNSメッセージが表示されていた。
よくわからないヘタウマのキャラクタが、平身低頭で土下座するアニメーションが繰り返し、表示されている。
それ以外になにもなかったが、聖にはそれだけでなんとなく察しがついた。聖はかがりのほうに、その画面をむけた。とたんにかがりが額に手をやって、天を仰いで見せた。
聖は鞄をとりあげると、ガタンと音をたてて立ちあがった。こちらが観念したことがわかったのか、マリアが舌なめずりするような口調で言ってきた。
「さぁて、聖、今度はどこへ行けるのかな……」
「マリア、それはちがうよ……」
「『どこ』じゃない。『いつ』だ、だ」
マリアの口元が期待に歪んだ。
「いいねぇ。その切り返し……」
そのとき、マリアの持っているスマートフォンの画面のむこうから、エヴァがはつらつとした笑顔で宣言してきた。
「聖さん、マリアさん……」
「『サイコ・ダイバーズ(PSY・CO DIVERS)』、出動です!」
------------------------- サイコ・ダイバーズ 暴君ネロ篇 完 ---------------------------
■■■■■■■■ 作者より ■■■■■■■■■
ここまで読んでいただきありがとうございました。
当初考えていたよりも、長い作品になってしまいました。
楽しんでいただけたなら大変うれしいです。
感想や意見等がないのがとても寂しいので、もしご意見等がよせていただけるととってもうれしいです。
今回の話はローマ時代を舞台にしてみたいな、という思いつきで、じゃあ、いつの時代だ、と考えた時、『暴君ネロ』というのが頭に浮かんだのでそこを舞台にすることにしました。
その中で新キャラクターを登場させたかったので、マリアとエヴァというキャラクターを構築しました。
実はここまで数エピソードを作っていたのですが(そのなかのひとつがルイス・キャロル編)、そこまではセイひとりの戦いを描いていて、マリアもエヴァもでていない話でした。
さらに、敵の正体が1000年前に本当にいた、2つの宗教に通じていた教皇シルヴェステルの契約というベースになる原因を知らされるという衝撃の真相を盛り込むことにしました。
この作品は下記にしめす参考文献等で肉付けして、不明な点は Wikipediaをはじめ、おおくのWebページを参考にして執筆させていただきました。
そのなかで、塩野七生先生の「ローマ人の物語(20)悪名高き皇帝たち(4)」は、他の参考文献で語られている「暴君」ではない部分を知ることができ、自分のなかのネロ像をいい意味で裏切ってくれました。大変参考になりましたし、そのなかの表現や記載をそのまま引用させていただいた部分があります。
特に感謝させていただきたいと思います。
映画や参考文献、Webページを子細に読み込んで、作品に反映しましたが、作者の勘違いや思い違い等によって、ミスが生じた可能性はあります。もちろんフィクションですので史実とちがう部分が多々ありますが、もしミスがありましたら、それらはすべて作者の責任となりますが、どうかご了承ください。
------------------- 参考文献 -------------------------
「ローマ人の物語(20)悪名高き皇帝たち(4)」
塩野七生著 新潮文庫刊
「ネロ」
フィリップ・ファンデンベルグ著
平井吉夫訳河出書房新社刊
「ネロ 暴君誕生の条件」
秀村欣二著中公新書刊
「世界史・世紀の悪党たち」
桐生操著にちぶん文庫刊
「あぶない世界史1 創世記~古代ローマ篇」
桐生操著福武文庫刊
「ローマ帝国をきずいた人々」
アシェット版
福井芳男・木村尚三郎監訳東京書籍刊
「ビジュアル博物館・服装」
L・ローランド・ワーン著
㈱リリーフ・システムズ訳同朋社出版刊
「新約聖書を知っていますか」
阿刀田高著新潮文庫刊
「図解近代魔術」
羽仁礼著 新紀元社
------------------- 映画 -------------------------
「クォ・ヴァディス」
マービン・ルロイ作品1951年 アメリカ
「サテリコン」
フェデリコ・フェリーニ作品1970年 イタリア
------------------- Webページ -------------------------
Wikipedia
ギャラリー アル・スィラージュホームページ
http://orientlampnet/about
二日後、夢見・聖は朝のホームルームの騒めきに包まれた教室で、おおきくため息をついた。
「突然だが転校生を紹介する」
そう、担任に紹介されて壇上に立ったのが、どう見ても小学生くらいにしか見えない顔立ちと背丈の女の子で、しかもドイツ人だと言われれば、騒つかないほうがおかしい。
「オレはマリア=フォン=トラップだ。よろしく!」
しかも言葉づかいが、乱暴ならなおさらだった。
「ちょっとお、聖ちゃんどういうことの?」
隣の席からかがりが囁き声で、しかしたっぷりと怒気を含んだ口調で訊いてきた。
「ぼくも知らないよ」
聖はマリアに見つからないように、顔を前の席の生徒の背中に隠れるように、首を引っ込めた姿勢で答えた。
「輝雄おじさんの方が知ってるんじゃあ」
「昨晩、ご飯一緒に食べたけど、そんな様子おくびにもださなかったわ。お父さんがもし知ってたとしたら、ぜったいそわそわしてるはず」
かがりの指摘はもっともだと思った。叔父の輝雄は娘と食事をしながら、こんなサプライズを隠しおおせるような器用な人間ではない。
「ということは、組織か……」
かがりもその名称が出てきて、合点がいったようだった。
「あの時みたいに、組織の力でねじ込んできたってこと?」
「そう、組織だ。かがり!」
壇上からマリアが大声で宣言した。ザワッと空気が揺れ、教室の耳目がすべてかがりの方へ向けられた。
かがりはことさら大きなため息をつくと、ゆっくりと立ちあがった。
「マリア、どーーいうこと?」
「いやね。聖のことが気に入ってな」
今度は衆目が一斉に聖の方に移る。
「ど、どういうことよ」
クラスメイトが驚くほど、かがりは動揺していた。沈着で、何ごとも段取りよくこなす学報委員のふだんの姿からは、想像できないほどの狼狽えっぷりだった。
マリアは思うところをたっぷり含んだような笑みをかがりにむけた。
「うちの組織がな、聖の能力が気に入ったらしい……」
「あ、あぁ……、そ、そうなの。あなたの組織が……なのね……」
マリアとかがりのやりとりがとぎれると、待っていたように担任が口をはさんだ。
「マリアくん、きみは広瀬さんや夢見くんと知り合いなのかね?」
マリアはくるりと向き直ると、担任を下から見あげたまま口元を歪めてみせた。
「先生、あまり詮索しない方がいい。なにせ組織がからんでるからな」
その顔つきや口ぶりが恐喝じみて聞こえた担任の教師は、可愛そうに絶句したまま固まってしまった。聖はマリアの悪ふざけだとすぐにわかったが、そのまま無関係の者にはちょっと刺激が強すぎるのでしぶしぶ立ちあがった。
「マリア、先生を脅かさないでやってくれるかい」
今度は教室中の耳目が一斉に聖に集まる。
「組織って言ったって、キリスト教協会みたいなヤツだろ。そんな言い方じゃあ、勘違いする」
マリアは聖の姿を認めると、手を挙げて勢一杯背伸びして嬉しそうに笑った。
「おーー。聖、きさまもこのクラスだったか?」
「まぁ、マリア、しらじらしいわね。知っててこのクラスに編入してきたくせに。どうせ、エヴァも別のクラスに一緒に編入してきてるンでしょ」
「かがり、残念だ。あいつは本物のお嬢様だからね。こんなしょっぱい公立高校には、編入させてもらえなかった。あいつは隣町の私立のお嬢様学校送りだ!」
「しょっぱい公立高校ってーー」
クラスの中の誰かが呟くなり、教室内がザワついた。
あちらの世界でも、こちらの世界でも常に揉め事を起こしたがるマリアの態度に、聖は、頭を抱える思いだった。ため息が漏れる。
やれやれ、マリアのやつ……。
「マリア、きみはバチカンの神学校でトップの成績だって聞いた。こんなしょっぱい公立高校で申し訳ないけど、みんなで歓迎するよ」
「おう、歓迎されてやるぜ」
「もう、ほんとうに図々しいわね」
かがりがあきれ返えって言った。
「あぁ、図々しいついでに、おまえンとこのラボの近くに住むことになった。そうすりゃ聖と片時に離れずに済むからな」
「ちょっとぉ、それどういうこと?」
「上からの命令だよ。おまえンとこの親父さんにも話をつけてる。エヴァの財団の方からも話も金もいってる。まぁ、『ペタンコ同盟』の仲間同士、これからも仲良くたのむわ」
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その時、SNSの着信音がかばんのなかから聞こえた。
それを取り出そうと手を伸ばしかけたところで、マリアの勝ち誇ったような声が壇上から飛んできた。
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「『コーマ・ディジーズ財団』からの緊急要請です。要引揚者はアメリカ人、68才、男性……」
エヴァがもったいぶって、ひと呼吸おいてから言った。
「政府要人だそうです」
教室内が本日一番のどよめきをみせた。
「静かにしろ!」
担任がみんなを落ち着かせようと声をあげかけたが、実際に大声でみんなを黙らせたのは、マリアだった。突然、静まり返った教室の様子に、むしろ担任は声がでなくなっていた。
「先生……」
マリアが声をかけると、担任はいくぶんかビクッとからだを震わせた。
「というわけで、悪いが、今日は早退させてもらう」
「いや、しかしトラップくん。まだ5分ほどしか……」
マリアが下から担任を睨みつけた。
「それと、聖も一緒に早退だ」
「ちょっとぉ、マリア、勝手なこと言わないで!」
かがりが学級委員らしく、マリアを諌めようとしたが、マリアがそんな常識的なことを聞くはずもなかった。
「文句なら『昏睡病』で眠りこけている、アメリカ政府要人と、要請してきたアメリカ政府に掛け合え」
「あ、アメリカ……?」
あまりに突拍子もない切り返しに、かがりが戸惑っている隙に、マリアが聖のほうに顔をむけて声をあげた。
「さぁ、聖。おまえも来い。出番だ」
「マリア、ぼくは行かないよ。授業がある」
「そんなの放っておけ。人命優先だ。それに『サイコ・ダイバーズ(PSY・CO DIVERS)』のリーダーに、参加しねぇという選択肢はねぇ」
その名称に教室の生徒たちが一斉に聖のほうへ目をむけた。今度はどよめきどころか、咳払いひとつなかった。へたに騒ぐとマリアにまた一喝されるからだった。
「『サイコ・ダイバーズ(PSY・CO DIVERS)』……、ちょ、なんでぼくがそれに組み入れられてるんだ、マリア」
「当然だろ。なぜ、オレやエヴァが、ここに来たと思う?」
聖はハッとして、鞄のなかからスマートフォンを取り出した。スマートフォンの画面にはSNSで、輝雄・叔父さんからのSNSメッセージが表示されていた。
よくわからないヘタウマのキャラクタが、平身低頭で土下座するアニメーションが繰り返し、表示されている。
それ以外になにもなかったが、聖にはそれだけでなんとなく察しがついた。聖はかがりのほうに、その画面をむけた。とたんにかがりが額に手をやって、天を仰いで見せた。
聖は鞄をとりあげると、ガタンと音をたてて立ちあがった。こちらが観念したことがわかったのか、マリアが舌なめずりするような口調で言ってきた。
「さぁて、聖、今度はどこへ行けるのかな……」
「マリア、それはちがうよ……」
「『どこ』じゃない。『いつ』だ、だ」
マリアの口元が期待に歪んだ。
「いいねぇ。その切り返し……」
そのとき、マリアの持っているスマートフォンの画面のむこうから、エヴァがはつらつとした笑顔で宣言してきた。
「聖さん、マリアさん……」
「『サイコ・ダイバーズ(PSY・CO DIVERS)』、出動です!」
------------------------- サイコ・ダイバーズ 暴君ネロ篇 完 ---------------------------
■■■■■■■■ 作者より ■■■■■■■■■
ここまで読んでいただきありがとうございました。
当初考えていたよりも、長い作品になってしまいました。
楽しんでいただけたなら大変うれしいです。
感想や意見等がないのがとても寂しいので、もしご意見等がよせていただけるととってもうれしいです。
今回の話はローマ時代を舞台にしてみたいな、という思いつきで、じゃあ、いつの時代だ、と考えた時、『暴君ネロ』というのが頭に浮かんだのでそこを舞台にすることにしました。
その中で新キャラクターを登場させたかったので、マリアとエヴァというキャラクターを構築しました。
実はここまで数エピソードを作っていたのですが(そのなかのひとつがルイス・キャロル編)、そこまではセイひとりの戦いを描いていて、マリアもエヴァもでていない話でした。
さらに、敵の正体が1000年前に本当にいた、2つの宗教に通じていた教皇シルヴェステルの契約というベースになる原因を知らされるという衝撃の真相を盛り込むことにしました。
この作品は下記にしめす参考文献等で肉付けして、不明な点は Wikipediaをはじめ、おおくのWebページを参考にして執筆させていただきました。
そのなかで、塩野七生先生の「ローマ人の物語(20)悪名高き皇帝たち(4)」は、他の参考文献で語られている「暴君」ではない部分を知ることができ、自分のなかのネロ像をいい意味で裏切ってくれました。大変参考になりましたし、そのなかの表現や記載をそのまま引用させていただいた部分があります。
特に感謝させていただきたいと思います。
映画や参考文献、Webページを子細に読み込んで、作品に反映しましたが、作者の勘違いや思い違い等によって、ミスが生じた可能性はあります。もちろんフィクションですので史実とちがう部分が多々ありますが、もしミスがありましたら、それらはすべて作者の責任となりますが、どうかご了承ください。
------------------- 参考文献 -------------------------
「ローマ人の物語(20)悪名高き皇帝たち(4)」
塩野七生著 新潮文庫刊
「ネロ」
フィリップ・ファンデンベルグ著
平井吉夫訳河出書房新社刊
「ネロ 暴君誕生の条件」
秀村欣二著中公新書刊
「世界史・世紀の悪党たち」
桐生操著にちぶん文庫刊
「あぶない世界史1 創世記~古代ローマ篇」
桐生操著福武文庫刊
「ローマ帝国をきずいた人々」
アシェット版
福井芳男・木村尚三郎監訳東京書籍刊
「ビジュアル博物館・服装」
L・ローランド・ワーン著
㈱リリーフ・システムズ訳同朋社出版刊
「新約聖書を知っていますか」
阿刀田高著新潮文庫刊
「図解近代魔術」
羽仁礼著 新紀元社
------------------- 映画 -------------------------
「クォ・ヴァディス」
マービン・ルロイ作品1951年 アメリカ
「サテリコン」
フェデリコ・フェリーニ作品1970年 イタリア
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