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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第66話 トラウマ。おまえを浄化する!!
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「おい、本当にこれが『切り札』なのか?」
マリアが怒りとも戸惑いともつかない不満の声をあげた。マリアの気持ちももっともだと、セイは思った。セイが切り札として、空中から召喚したのは『背負子』だった。そして、今、マリアは背負子を担いだセイの背中に座っていた。
「これで、こちらから打って出る!」
「どうやってだ」
「刀の要塞で攻め込む」
そう言うと、セイは精神を集中させた。
まわりをとり囲んでいた何百という刀剣が動き出すと、ガチャガチャと鋼がぶつかる音をさせて、セイたちのうえに大きな円弧を形作りはじめた。
あたりに目をくばる。
ウェルキエルの四方八方に伸びた指が、空中で静止したままあらゆる角度からこちらを狙っていた。銃弾の形をしている指先が、広間の空間を埋めつくしている様は、古くさい特撮映画でも見ているようだった。
まるで安物の悪夢——。
膨大な数の刀剣が刃を外側にむけて大きな半円を形づくっていた。その直経は一メートルちょっと。大人ひとりが頭を屈めれば通れるほどの空間があった。奥行きは刀身五~六本分、五メートル少々といったところだろうか。マリアは自分たちの上の、刀剣の天井部分を見あげていた。剣の刃が外側をむいているので、こちら側は剣の峰の部分でびっしりと埋め尽くされている。
「おい、セイ。こんなものでなにができる?」
「このなかを通り抜ける」
「ちょっと待て。こんな短いトンネルをか。すぐに指弾の餌食に……」
「このトンネルはぼくについてくる。正面からの攻撃はぼくが防ぐ。だからマリア、きみにぼくの背中を守って欲しい」
「ふははは、この後におよんで、そんな筒のなかに隠れるとはな。なんとまぁ、人間とは浅はかな生き物か」
ウェルキエルが嘲笑まじりに、なじってきた。
「往生際がわるいのが人間のいいところさ」
「ほう、では、その往生際とやらを、すぐに終わらせてやろう」
「粘ってみせる!」
そう叫ぶなりセイは大理石の床を蹴り、いきなりトップスピードで飛び出した。背中にマリアを背負っていることなどお構いなしの猛スピードで突進していく。
その動きを見て取って、ウェルキエルの指の弾丸が一斉に放たれた。セイたちのまわりをすっぽり覆った、剣の防壁が銃弾をはじき返していく。と、同時に大きく口を開けた正面と背後からも弾丸がとびこんでくる。セイは全力で走りながら、正面から飛込んでくる弾丸をことごとく切り捨てていく。背後からも弾丸は飛込んできたが、セイの背中に背負われたマリアが、座ったまま剣をふるって弾いていく。
刀のトンネルはセイが走る方向にむかって変化していった。セイが走りぬけるやいなや、後方にある刀はバラバラとバラけると、一番突端部分のほうへ移動し、すぐさま前方部分にあらたなトンネルの筒を作りはじめていた。
後方から送り出された刀がどんどんと最前列に接がれ、ウェルキエルの方向へ直進する、刀のトンネル。それは遠くからみると、長く大きな鉄片が、磁石のちからで前に蠕動運動しながら、進んでいるようにみえた。
正面の開口部分から、ウェルキエルの姿が見えてくる。近づくにつれ、正面から撃ち込んでこられる指弾が増えていく。
「マリア、大丈夫か」
「こっちは刃がデカいからな。防御だけなら、なんとかなる」
「もうすぐウェルキエルの喉元だ」
「させんぞ。人間!」
トンネルの外からウェルキエルの叫び声が聞こえたかと思うと、突然攻撃のパターンが切り替わった。セイたちを狙っていた弾丸が、トンネルの外壁の一点に集中して撃ち込まれはじめてくる。
一点集中されて撃ち込まれる弾丸は、爆弾が炸裂していると思わされるような衝激をトンネルに与えていった。
「セイ、進行方向が曲げられてる!」
刀の軋む音で耳が聾されるなかで、マリアが大声を張りあげた。
ウェルキエルの正面めがけて直進していたはずのトンネルは、すぐ手前で角度を変えさせられていた。ふと気づくと、トンネルの進行方向を左側に曲げられて、ウェルキエルのすぐ脇をすり抜けさせられていた。
「くそぅ」
セイはすぐさま、ぐるりと回り込むように走り出した。ウェルキエルの左側でトンネルは大きく円弧を描いて、もう一度ウェルキエルの正面に向かう軌道へ修正した。ウェルキエルの正面に到達できる道筋を走り出す。
だが、ウェルキエルはその軌道修正を許さなかった。ふたたび一点への集中攻撃をしかけてきた。何十本もの指弾をまるでミサイルのような形で、セイたちの刀のトンネルにぶち当ててきた。爆発のような強烈な衝撃に、刀の防壁の一部が弾けとび、刀身が何本もへし折られ、その場に落ちて行く。
「まずいぞ、セイ。刀の壁が薄くなった」
「わかってる!」
さらにもう一撃、指のミサイル攻撃が浴びせられた、トンネルの行き先が大きくずらされ、トンネルを構成する刀を薙ぎ払われて、セイは進行方向を見うしないそうになった。
「セイ、そっちじゃない!」
耳元でマリアが叫ぶ。背負子のうえでからだを捻って、前をみているようだった。
「マリア、こっちはいい。うしろを……」
そう言った瞬間、背後の開口部分から飛込んできた弾丸が、セイの左耳を撃ち抜いていった。耳たぶがちぎれて血が飛び散る。
「くっ。すまん、セイ。防ぎそこねた!」
怪我をしてもセイは足をとめなかった。
トンネルは両側から、指のミサイル攻撃に、立て続けに揺さぶられ、ぐにゃぐにゃと曲がりくねって進んでいた。だが、どんなに進路を変えられようとも、ウェルキエルにむかうコースへと、セイは必死で戻して進んでいた。
「本当に、往生際がわるいな。こいつは!」
ウェルキエルは目の前にガチャガチャと金属音を奏でながら、おそろしいスピードで伸びてくるトンネルを睨みつけた。
「人間よ。これで終わりにしてやる」
ウェルキエルの攻撃がトンネルの両側から同時に放たれた。束になってミサイルのような攻撃力をみせる指弾を、トンネルの両側から同時に着弾させた。今までにないほどの激烈な衝撃に、トンネルはまんなかからちぎれて、うしろ半分の刀は砕け散った。ついにセイを追いかけてきていたトンネルは前半分だけの短いものになった。
そのトンネルから、勢いよく走っていたセイが飛び出した。援護していたうしろ半分の刀をロストしてしまったことで、ついにセイを囲いきれなくなったのだった。
防御する壁をうしなって、セイがウェルキエルの前に踊りでる。
ウェルキエルが満足そうににたりと笑った。
が、セイは剣をまえに突き出すようなポーズをして身構えていた。
「ひと突きだ!」
セイがそう言ったとたん、手にした刀の剣先がぎゅんと伸びた。ウェルキエルはそれを防卸することができなかった。防御するにはあまりにも、セイを近づけさせすぎていた。そしてトンネルを破壊するために、ほとんどの指を弾丸に変化させていたせいで、セイの太刀を受けられる剣も、強固な防護柵も出すことができなかった。
セイの剣がウェルキエルの腹を貫いた。その剣はそこから十メートルほどまでに伸びていた。ウェルキエルの腹を突き抜け、数メートル上にある玉座の背もたれまでも突き破っていた。
ウェルキエルは自分の腹を貫いたセイの剣を見つめた。
「よくオレの体を貫いた……。そう、私が褒めることばを聞きたいかね。人間」
「いいや。ぼくはあんたの断末魔の声を聞きたくてならない」
セイは貫いた剣をぐっと押し込みながら言った。
「この程度でおごるな。人間!。悪魔が腹を斬られたくらいで死ぬとでも思ったか!」
「知ってる。悪魔は首と胴体を切り離すか、バラバラにでもしないと死なない」
「そうだ。こんな攻撃は無駄なのだ」
セイは余裕の表情を浮かべているウェルキエルを睨みつけて言った。
「トラウマ。おまえを浄化する」
セイの持つ刀に光が走る。刀の刃渡りの横幅がおおきく広がり、肉厚になっていく。
ウェルキエルの腹を貫いていただけの剣先は、腹全体を切り裂くような大きさにまでに達した。セイが横に剣をふる。ウェルキエルの腹から剣が飛び出し、血飛沫とともに内臓が吹き出した。
その勢いのある切っ先のスピードに、ウェルキエルが思わずうしろにたたらを踏んだが、すぐさま体勢を戻すと、にやりと笑って叫んだ。
「バカめ。そんなことでは悪魔は死なぬのだよ」
先ほど切り裂いたはずの腹はみるみると傷口がちいさくなって修復されていく。ウェルキエルはセイに襲いかかろうと前のめりになった。
そのウェルキエルの目の前になにかちいさなものが浮遊していた。
それは白い服だった——。
ウェルキエルは、それが何者か、すぐに認識したようだった。
「だまし討ちなど、片腹痛いわ!」
次の瞬間、戻ってきたウェルキエルの指弾が、あらゆる角度から一気にその物体を貫いていた。
それを目の当たりにしたセイは驚愕の表情を浮かべた。その呆然としている様に、ウェルキエルが満足そうな顔つきを浮かべる。
「人間ごときが……」
が、ウェルキエルは、さらにその上から降ってくる別の物体に気づいた。ウェルキエルの四角い瞳孔は、その正体をとらえようと、一気にぎゅぎゅっと収縮する。
そこに真っ裸の幼子の姿があった。
「天使……?」
悪魔であるはずのウェルキエルが、思わず『忌み詞』を口にした。
だが、それは上空から舞い降りてくるマリア・トラップの姿だった——。
マリアは一糸もまとわない生れたままの姿で空中を舞っていた。そのからだの周りに、先ほど引き裂かれた服の破片がまとわりついて……
確かに天使のように見えた。
ウェルキエルが、こちらこそがマリア本人だと認識した時にはもう手遅れだった。
その視角の外から大きく振られてきていた刃に、最後までフォーカスは合わずじまいだった。
マリアが振り抜いた大剣が、ウェルキエルの首を刎ね飛ばした。
マリアが怒りとも戸惑いともつかない不満の声をあげた。マリアの気持ちももっともだと、セイは思った。セイが切り札として、空中から召喚したのは『背負子』だった。そして、今、マリアは背負子を担いだセイの背中に座っていた。
「これで、こちらから打って出る!」
「どうやってだ」
「刀の要塞で攻め込む」
そう言うと、セイは精神を集中させた。
まわりをとり囲んでいた何百という刀剣が動き出すと、ガチャガチャと鋼がぶつかる音をさせて、セイたちのうえに大きな円弧を形作りはじめた。
あたりに目をくばる。
ウェルキエルの四方八方に伸びた指が、空中で静止したままあらゆる角度からこちらを狙っていた。銃弾の形をしている指先が、広間の空間を埋めつくしている様は、古くさい特撮映画でも見ているようだった。
まるで安物の悪夢——。
膨大な数の刀剣が刃を外側にむけて大きな半円を形づくっていた。その直経は一メートルちょっと。大人ひとりが頭を屈めれば通れるほどの空間があった。奥行きは刀身五~六本分、五メートル少々といったところだろうか。マリアは自分たちの上の、刀剣の天井部分を見あげていた。剣の刃が外側をむいているので、こちら側は剣の峰の部分でびっしりと埋め尽くされている。
「おい、セイ。こんなものでなにができる?」
「このなかを通り抜ける」
「ちょっと待て。こんな短いトンネルをか。すぐに指弾の餌食に……」
「このトンネルはぼくについてくる。正面からの攻撃はぼくが防ぐ。だからマリア、きみにぼくの背中を守って欲しい」
「ふははは、この後におよんで、そんな筒のなかに隠れるとはな。なんとまぁ、人間とは浅はかな生き物か」
ウェルキエルが嘲笑まじりに、なじってきた。
「往生際がわるいのが人間のいいところさ」
「ほう、では、その往生際とやらを、すぐに終わらせてやろう」
「粘ってみせる!」
そう叫ぶなりセイは大理石の床を蹴り、いきなりトップスピードで飛び出した。背中にマリアを背負っていることなどお構いなしの猛スピードで突進していく。
その動きを見て取って、ウェルキエルの指の弾丸が一斉に放たれた。セイたちのまわりをすっぽり覆った、剣の防壁が銃弾をはじき返していく。と、同時に大きく口を開けた正面と背後からも弾丸がとびこんでくる。セイは全力で走りながら、正面から飛込んでくる弾丸をことごとく切り捨てていく。背後からも弾丸は飛込んできたが、セイの背中に背負われたマリアが、座ったまま剣をふるって弾いていく。
刀のトンネルはセイが走る方向にむかって変化していった。セイが走りぬけるやいなや、後方にある刀はバラバラとバラけると、一番突端部分のほうへ移動し、すぐさま前方部分にあらたなトンネルの筒を作りはじめていた。
後方から送り出された刀がどんどんと最前列に接がれ、ウェルキエルの方向へ直進する、刀のトンネル。それは遠くからみると、長く大きな鉄片が、磁石のちからで前に蠕動運動しながら、進んでいるようにみえた。
正面の開口部分から、ウェルキエルの姿が見えてくる。近づくにつれ、正面から撃ち込んでこられる指弾が増えていく。
「マリア、大丈夫か」
「こっちは刃がデカいからな。防御だけなら、なんとかなる」
「もうすぐウェルキエルの喉元だ」
「させんぞ。人間!」
トンネルの外からウェルキエルの叫び声が聞こえたかと思うと、突然攻撃のパターンが切り替わった。セイたちを狙っていた弾丸が、トンネルの外壁の一点に集中して撃ち込まれはじめてくる。
一点集中されて撃ち込まれる弾丸は、爆弾が炸裂していると思わされるような衝激をトンネルに与えていった。
「セイ、進行方向が曲げられてる!」
刀の軋む音で耳が聾されるなかで、マリアが大声を張りあげた。
ウェルキエルの正面めがけて直進していたはずのトンネルは、すぐ手前で角度を変えさせられていた。ふと気づくと、トンネルの進行方向を左側に曲げられて、ウェルキエルのすぐ脇をすり抜けさせられていた。
「くそぅ」
セイはすぐさま、ぐるりと回り込むように走り出した。ウェルキエルの左側でトンネルは大きく円弧を描いて、もう一度ウェルキエルの正面に向かう軌道へ修正した。ウェルキエルの正面に到達できる道筋を走り出す。
だが、ウェルキエルはその軌道修正を許さなかった。ふたたび一点への集中攻撃をしかけてきた。何十本もの指弾をまるでミサイルのような形で、セイたちの刀のトンネルにぶち当ててきた。爆発のような強烈な衝撃に、刀の防壁の一部が弾けとび、刀身が何本もへし折られ、その場に落ちて行く。
「まずいぞ、セイ。刀の壁が薄くなった」
「わかってる!」
さらにもう一撃、指のミサイル攻撃が浴びせられた、トンネルの行き先が大きくずらされ、トンネルを構成する刀を薙ぎ払われて、セイは進行方向を見うしないそうになった。
「セイ、そっちじゃない!」
耳元でマリアが叫ぶ。背負子のうえでからだを捻って、前をみているようだった。
「マリア、こっちはいい。うしろを……」
そう言った瞬間、背後の開口部分から飛込んできた弾丸が、セイの左耳を撃ち抜いていった。耳たぶがちぎれて血が飛び散る。
「くっ。すまん、セイ。防ぎそこねた!」
怪我をしてもセイは足をとめなかった。
トンネルは両側から、指のミサイル攻撃に、立て続けに揺さぶられ、ぐにゃぐにゃと曲がりくねって進んでいた。だが、どんなに進路を変えられようとも、ウェルキエルにむかうコースへと、セイは必死で戻して進んでいた。
「本当に、往生際がわるいな。こいつは!」
ウェルキエルは目の前にガチャガチャと金属音を奏でながら、おそろしいスピードで伸びてくるトンネルを睨みつけた。
「人間よ。これで終わりにしてやる」
ウェルキエルの攻撃がトンネルの両側から同時に放たれた。束になってミサイルのような攻撃力をみせる指弾を、トンネルの両側から同時に着弾させた。今までにないほどの激烈な衝撃に、トンネルはまんなかからちぎれて、うしろ半分の刀は砕け散った。ついにセイを追いかけてきていたトンネルは前半分だけの短いものになった。
そのトンネルから、勢いよく走っていたセイが飛び出した。援護していたうしろ半分の刀をロストしてしまったことで、ついにセイを囲いきれなくなったのだった。
防御する壁をうしなって、セイがウェルキエルの前に踊りでる。
ウェルキエルが満足そうににたりと笑った。
が、セイは剣をまえに突き出すようなポーズをして身構えていた。
「ひと突きだ!」
セイがそう言ったとたん、手にした刀の剣先がぎゅんと伸びた。ウェルキエルはそれを防卸することができなかった。防御するにはあまりにも、セイを近づけさせすぎていた。そしてトンネルを破壊するために、ほとんどの指を弾丸に変化させていたせいで、セイの太刀を受けられる剣も、強固な防護柵も出すことができなかった。
セイの剣がウェルキエルの腹を貫いた。その剣はそこから十メートルほどまでに伸びていた。ウェルキエルの腹を突き抜け、数メートル上にある玉座の背もたれまでも突き破っていた。
ウェルキエルは自分の腹を貫いたセイの剣を見つめた。
「よくオレの体を貫いた……。そう、私が褒めることばを聞きたいかね。人間」
「いいや。ぼくはあんたの断末魔の声を聞きたくてならない」
セイは貫いた剣をぐっと押し込みながら言った。
「この程度でおごるな。人間!。悪魔が腹を斬られたくらいで死ぬとでも思ったか!」
「知ってる。悪魔は首と胴体を切り離すか、バラバラにでもしないと死なない」
「そうだ。こんな攻撃は無駄なのだ」
セイは余裕の表情を浮かべているウェルキエルを睨みつけて言った。
「トラウマ。おまえを浄化する」
セイの持つ刀に光が走る。刀の刃渡りの横幅がおおきく広がり、肉厚になっていく。
ウェルキエルの腹を貫いていただけの剣先は、腹全体を切り裂くような大きさにまでに達した。セイが横に剣をふる。ウェルキエルの腹から剣が飛び出し、血飛沫とともに内臓が吹き出した。
その勢いのある切っ先のスピードに、ウェルキエルが思わずうしろにたたらを踏んだが、すぐさま体勢を戻すと、にやりと笑って叫んだ。
「バカめ。そんなことでは悪魔は死なぬのだよ」
先ほど切り裂いたはずの腹はみるみると傷口がちいさくなって修復されていく。ウェルキエルはセイに襲いかかろうと前のめりになった。
そのウェルキエルの目の前になにかちいさなものが浮遊していた。
それは白い服だった——。
ウェルキエルは、それが何者か、すぐに認識したようだった。
「だまし討ちなど、片腹痛いわ!」
次の瞬間、戻ってきたウェルキエルの指弾が、あらゆる角度から一気にその物体を貫いていた。
それを目の当たりにしたセイは驚愕の表情を浮かべた。その呆然としている様に、ウェルキエルが満足そうな顔つきを浮かべる。
「人間ごときが……」
が、ウェルキエルは、さらにその上から降ってくる別の物体に気づいた。ウェルキエルの四角い瞳孔は、その正体をとらえようと、一気にぎゅぎゅっと収縮する。
そこに真っ裸の幼子の姿があった。
「天使……?」
悪魔であるはずのウェルキエルが、思わず『忌み詞』を口にした。
だが、それは上空から舞い降りてくるマリア・トラップの姿だった——。
マリアは一糸もまとわない生れたままの姿で空中を舞っていた。そのからだの周りに、先ほど引き裂かれた服の破片がまとわりついて……
確かに天使のように見えた。
ウェルキエルが、こちらこそがマリア本人だと認識した時にはもう手遅れだった。
その視角の外から大きく振られてきていた刃に、最後までフォーカスは合わずじまいだった。
マリアが振り抜いた大剣が、ウェルキエルの首を刎ね飛ばした。
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