ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜

第65話 こんな銃程度では仕留められないってことですか

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 ランチャー・ミサイルのトリガーに指をかけた瞬間、エヴァは予想だにしないものを見ることになった。
 ペテロ二ウスだった化物は、からだを縮こまらせたか思うと、天井にむかって飛び跳ねた。空中に飛び出したそのからだは、極限にまで丸くなって球体のようだった。はち切れんばかりにパンプ・アップされた筋肉を、ゴムボールのように弾ませる直径数メートル大の『球体』——。
 その『球体』はまず天井にバウンドした。
 そしてエヴァのすぐ目と鼻の先の床に直角に落ちてきた。
 エヴァはそこを狙い撃とうとして、銃の先を下にむけたが、動きが速く、とても捕捉できなかった。バウンドした『球体』は、ふいに跳ねる角度を変えた。エヴァのほうへ斜めに跳ねてきた。確実に意志をもった跳ね方——。

 エヴァは思いきりからだをうしろにそらして、うしろに倒れ込んだ。勢いよく尻餅しりもちを付く形になったが、それでもぎりぎり直撃を避けられたタイミングだった。床に横たわったエヴァの上を『球体』が通り抜けていくと、複雑な紋様のほどこされた円柱にぶつかり、再び天井側へ跳ねあがった。エヴァはランチャーミサイルを床に置くと、スポルスがいる方向を背にして、自動小銃をかまえた。
 この『球体』の化物にスポルスを邪魔させるわけにはいかない——。

「スポルスさん、ここはわたしが食い止めます。ネロを、その男を討って下さい」
 エヴァは『球体』の次のうごきを目で追いながら、おおきな声をあげた。
「しかし……」

 スポルスがなにかを言ってきたが、エヴァはかまわず自動小銃の引き鉄をひいた。けたたましい銃声にかき消されて、なにも聞こえなかった。球体はその銃弾の雨を喰らって、跳ねるスピードと精度をうしなって、そのまま床に転げ落ちた。
 だが、それで退治できたわけではなかった。柔らかく弾性に富んだ筋肉が、弾丸をはじき飛ばしていて、本体にはかすり傷程度しか与えられていなかった。

 こんな銃程度では仕留められないってことですか——。

 と、『球体』がふいに方向転換して、スポルスのほうに跳ねた。
「いかせません!!」
 エヴァはスポルスの近くに立っているおおきな彫像の下半身にむけて、ぎ払うように銃弾を撃ちまくった。足元を砕かれて彫像がぐらりと傾き、スポルスの目の前にドスンと重々しい音をたてて横倒しになる。
 スポルスはおもわず「きゃっ」と声をあげて身をすくめたが、スポルスめがけて突っ込んできていた『球体』は、床に転がった障害物に乗り上げ、あらぬ方向に跳ね飛んだ。そこをさらにエヴァが銃弾を浴びせかけた。『球体』は弾丸に煽られるようにして、空中へ舞いあがった。エヴァは『球体』が浮き上がったまま、落ちるに落ちれないほどの弾丸を撃ちこみ続けた。
 パーン、とはじけるような音がして、『球体』が突然空中で爆発した。『球体』はふたつの破片となって、エヴァの前方と後方へとそれぞれに飛び散った。
 
 やった!?。
 手応えがあったが、エヴァは油断することはなかった。
 すぐさま前方に落下した破片に銃口をむけた。分断され半球状になった『球体』は、床に落ちた時には球体の形状に戻っていた。
 さきほどの半分サイズになって床に転がる『球体』は、表面からしゅーしゅーと蒸気を吹き出していた。ふわっと形状を変化させる。
 そこに再びペテロ二ウスの姿があらわれた。だが先ほどまでの、あたりを威圧するような大きさはなくなっていた。はちきれんばかりの筋肉はあいかわらずだったが、背丈はふつうの人間の高さほどに縮んでいる。モンスターの異形を保っていたが、そこに畏怖いふは感じられなかった。

 ペテロニウスさま……
 エヴァは何とか覚醒できないかと声をかけようとした。が、いつのまにか背後になにかが立っていることに気づいて、あわてて声を押し殺した。
 そこに既知の顔があった。
 だが、その体躯たいくはペテロニウス同様、モンスターそのものだった——。

「あなたのお姿が見あたらなかったので、不思議に思ってました。あの悪魔に合体した魔物にされてしまっていたのですね……」

「ガイウス・ピソ様」
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