ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

文字の大きさ
上 下
99 / 935
ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜

第59話 まったく腹が括れてないにもほどがある

しおりを挟む
 とたんにドシャーンという耳をろうする音が広間に反響した。
 
 ウェルキエルの指先のやいばが、無防備のユメミ・サエを串刺しにしようとした瞬間、天井から信じられないほどの数の日本刀が降ってきた。いや、降ってきたという生やさしいものではない。天井から床になにかが射ちこまれた、というべきほどの圧倒的なスピード、そして威力だった。実際に何本かの刀が大理石の床に突き刺さっている。物理的な制約を超える力を帯びた刀の束。
 それらが一瞬にして、ユメミ・サエの周囲に刃の壁——『刃の要塞』と言えるものを作り上げていた。それは何本もの刀が幾層にも重なり、ユメミ・サエのまわりを一分の隙もなく埋め尽くしていた。見ようによっては『駕籠かご』のように感じられなくもない。あらゆる方向から飛びこんできたウェルキエルの刃を『刃の要塞』はすべて跳ね返していた。
 セイがうしろむきにジャンプして、身をひるがえした。空中で一回転すると、そのまま『刃の要塞』の前に着地した。すっと自分の刀を目の前で構える。

 一瞬とも思える流れの中で起きたことに、エヴァは心がザワつくのを感じた。

 私、なにもできなかった——。

 スポルスを守ることを任されていたという言い訳はできる。だが一番近くにいて、たった数歩前のめりに歩を踏み出すだけで、この身に抱きよせられたであろうあの少女になにもできなかったのは事実だ。
 マリアの方に目くばせをする。
 マリアの目にも同じような焦燥しょうそうが浮かんでいるように感じた。

 エヴァはマリアのショックが手に取るようにわかった。
 予想外の展開——、とりわけセイにとっては、もっとも心をかき乱される窮地であったはずだ。だが、彼はウェルキエルと正面で対峙しながら、冷静に相手の意図を深々と読んで、それに対抗できる手段を用意していたのだ。
 セイがウェルキエルを問いただしている時、エヴァもマリアもセイが刀を呼びだそうとしているのに気づいていた。ウェルキエルから死角になる天井に、深くどす黒い暗雲を這わせて、なにかをしようとしているのを目の端にいれていたのだ。

 今からでも何か手伝えることはないだろうか——。
「セイさん。わたしになにか手伝えることはありませんか」
 勇気をしぼってエヴァはセイに尋ねた。セイは『刃の要塞』の前で、飛んできたウェルキエルの刃を立て続けに、剣で受けながら言った。
「エヴァ。何もいらない。ただスポルスをまもっててやってくれ」
 セイが最後の一撃をはね飛ばしてから続けた。

「ごめん。ぼくはきみらを守ってあげられなくなった……」
 
 そのことばにエヴァはふっと足元が震えるのを感じた。
 たちまちたくされた重責が重しとなって、胃の中にずんと沈む。

 私、セイさんに守られようとしていた——?。

 ウェルキエルという名前、忌むべき脅威を耳にしてから、自分はいつのまにか、セイがどうにかしてくれる、という期待と任務の放棄をしていたのに気づいた。
 あんな強大な敵を倒せるわけがないのだから、誰かがなんとかしてもらわないと困る。
 そんな気持ちで自分は行動していたのだ。

 エヴァ。なんと無責任きわまりない——。

 マリアのほうに目をやる。
 目が悔しさと意欲にぎらぎらとしてみえた。
 傷つきながらも次の一手をどうすべきか、あきらめずにいるのが伝わってくる。

 まったく腹が括れてないにもほどがある。

 エヴァはスポルスのからだをひっぱると、自分の背後へと導いた。

「スポルスさん。セイさんの命令です。あなたを命懸けで守らせていただきます」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...