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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第59話 まったく腹が括れてないにもほどがある
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とたんにドシャーンという耳を聾する音が広間に反響した。
ウェルキエルの指先の刃が、無防備のユメミ・サエを串刺しにしようとした瞬間、天井から信じられないほどの数の日本刀が降ってきた。いや、降ってきたという生やさしいものではない。天井から床になにかが射ちこまれた、というべきほどの圧倒的なスピード、そして威力だった。実際に何本かの刀が大理石の床に突き刺さっている。物理的な制約を超える力を帯びた刀の束。
それらが一瞬にして、ユメミ・サエの周囲に刃の壁——『刃の要塞』と言えるものを作り上げていた。それは何本もの刀が幾層にも重なり、ユメミ・サエのまわりを一分の隙もなく埋め尽くしていた。見ようによっては『駕籠』のように感じられなくもない。あらゆる方向から飛びこんできたウェルキエルの刃を『刃の要塞』はすべて跳ね返していた。
セイがうしろむきにジャンプして、身を翻した。空中で一回転すると、そのまま『刃の要塞』の前に着地した。すっと自分の刀を目の前で構える。
一瞬とも思える流れの中で起きたことに、エヴァは心がザワつくのを感じた。
私、なにもできなかった——。
スポルスを守ることを任されていたという言い訳はできる。だが一番近くにいて、たった数歩前のめりに歩を踏み出すだけで、この身に抱きよせられたであろうあの少女になにもできなかったのは事実だ。
マリアの方に目くばせをする。
マリアの目にも同じような焦燥が浮かんでいるように感じた。
エヴァはマリアのショックが手に取るようにわかった。
予想外の展開——、とりわけセイにとっては、もっとも心をかき乱される窮地であったはずだ。だが、彼はウェルキエルと正面で対峙しながら、冷静に相手の意図を深々と読んで、それに対抗できる手段を用意していたのだ。
セイがウェルキエルを問いただしている時、エヴァもマリアもセイが刀を呼びだそうとしているのに気づいていた。ウェルキエルから死角になる天井に、深くどす黒い暗雲を這わせて、なにかをしようとしているのを目の端にいれていたのだ。
今からでも何か手伝えることはないだろうか——。
「セイさん。わたしになにか手伝えることはありませんか」
勇気をしぼってエヴァはセイに尋ねた。セイは『刃の要塞』の前で、飛んできたウェルキエルの刃を立て続けに、剣で受けながら言った。
「エヴァ。何もいらない。ただスポルスを護っててやってくれ」
セイが最後の一撃をはね飛ばしてから続けた。
「ごめん。ぼくはきみらを守ってあげられなくなった……」
そのことばにエヴァはふっと足元が震えるのを感じた。
たちまちたくされた重責が重しとなって、胃の中にずんと沈む。
私、セイさんに守られようとしていた——?。
ウェルキエルという名前、忌むべき脅威を耳にしてから、自分はいつのまにか、セイがどうにかしてくれる、という期待と任務の放棄をしていたのに気づいた。
あんな強大な敵を倒せるわけがないのだから、誰かがなんとかしてもらわないと困る。
そんな気持ちで自分は行動していたのだ。
エヴァ。なんと無責任きわまりない——。
マリアのほうに目をやる。
目が悔しさと意欲にぎらぎらとしてみえた。
傷つきながらも次の一手をどうすべきか、あきらめずにいるのが伝わってくる。
まったく腹が括れてないにもほどがある。
エヴァはスポルスのからだをひっぱると、自分の背後へと導いた。
「スポルスさん。セイさんの命令です。あなたを命懸けで守らせていただきます」
ウェルキエルの指先の刃が、無防備のユメミ・サエを串刺しにしようとした瞬間、天井から信じられないほどの数の日本刀が降ってきた。いや、降ってきたという生やさしいものではない。天井から床になにかが射ちこまれた、というべきほどの圧倒的なスピード、そして威力だった。実際に何本かの刀が大理石の床に突き刺さっている。物理的な制約を超える力を帯びた刀の束。
それらが一瞬にして、ユメミ・サエの周囲に刃の壁——『刃の要塞』と言えるものを作り上げていた。それは何本もの刀が幾層にも重なり、ユメミ・サエのまわりを一分の隙もなく埋め尽くしていた。見ようによっては『駕籠』のように感じられなくもない。あらゆる方向から飛びこんできたウェルキエルの刃を『刃の要塞』はすべて跳ね返していた。
セイがうしろむきにジャンプして、身を翻した。空中で一回転すると、そのまま『刃の要塞』の前に着地した。すっと自分の刀を目の前で構える。
一瞬とも思える流れの中で起きたことに、エヴァは心がザワつくのを感じた。
私、なにもできなかった——。
スポルスを守ることを任されていたという言い訳はできる。だが一番近くにいて、たった数歩前のめりに歩を踏み出すだけで、この身に抱きよせられたであろうあの少女になにもできなかったのは事実だ。
マリアの方に目くばせをする。
マリアの目にも同じような焦燥が浮かんでいるように感じた。
エヴァはマリアのショックが手に取るようにわかった。
予想外の展開——、とりわけセイにとっては、もっとも心をかき乱される窮地であったはずだ。だが、彼はウェルキエルと正面で対峙しながら、冷静に相手の意図を深々と読んで、それに対抗できる手段を用意していたのだ。
セイがウェルキエルを問いただしている時、エヴァもマリアもセイが刀を呼びだそうとしているのに気づいていた。ウェルキエルから死角になる天井に、深くどす黒い暗雲を這わせて、なにかをしようとしているのを目の端にいれていたのだ。
今からでも何か手伝えることはないだろうか——。
「セイさん。わたしになにか手伝えることはありませんか」
勇気をしぼってエヴァはセイに尋ねた。セイは『刃の要塞』の前で、飛んできたウェルキエルの刃を立て続けに、剣で受けながら言った。
「エヴァ。何もいらない。ただスポルスを護っててやってくれ」
セイが最後の一撃をはね飛ばしてから続けた。
「ごめん。ぼくはきみらを守ってあげられなくなった……」
そのことばにエヴァはふっと足元が震えるのを感じた。
たちまちたくされた重責が重しとなって、胃の中にずんと沈む。
私、セイさんに守られようとしていた——?。
ウェルキエルという名前、忌むべき脅威を耳にしてから、自分はいつのまにか、セイがどうにかしてくれる、という期待と任務の放棄をしていたのに気づいた。
あんな強大な敵を倒せるわけがないのだから、誰かがなんとかしてもらわないと困る。
そんな気持ちで自分は行動していたのだ。
エヴァ。なんと無責任きわまりない——。
マリアのほうに目をやる。
目が悔しさと意欲にぎらぎらとしてみえた。
傷つきながらも次の一手をどうすべきか、あきらめずにいるのが伝わってくる。
まったく腹が括れてないにもほどがある。
エヴァはスポルスのからだをひっぱると、自分の背後へと導いた。
「スポルスさん。セイさんの命令です。あなたを命懸けで守らせていただきます」
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