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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第55話 あいつはウェルキエル。黄道十二宮の悪魔だ
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「おかえり、マリア。きみがスポルスを助けてくれるとわかっていたよ」
「は、オレが見えていたなら、さっさと声をかけとけ」
「でも、かっこよく登場できただろ」
こともなげに言ってのけるセイに、マリアはすこし驚いた。
先ほど、セイが一方的になぶられているのを見せつけられて、今、この広間の空気を支配している化物がただものではないと、マリアは直感していた。そして、その一撃を自分の剣で受けてみて、それが間違いないことを確信した。
先ほど倒したミノタウロスとは次元がちがう——。
けっして対峙したまま、軽口を叩ける余裕をもてる相手ではない。
「セイ、こいつは何モンだ」
「マリア、そいつはティゲリヌスに巣くっていた奴だよ」
「なるほど。こいつが悪魔か」
マリアは独りごちた。
一太刀受けとめただけで、半端なく強いと思い知らされた相手が、たいしたことのない雑魚でなかったことで、マリアはすこしホッとしていた。
「セイ、オレがこいつを、退治してやる。おまえはスポルスと一緒にネロのケツでも追っかけてろ」
「マリア、危険だ。相手が強すぎる」
「は、望むところだよ。オレはさっきから獣ばかり相手にさせられてうんざりしてるんだたまには歯ごたえのある……」
マリアはそこまで言って気づいた。
「ン、まぁ、こいつも獣みたいなもんか」
そう言うなり床を蹴り飛ばす勢いで踏み込んで、ウェルキエルにむけて大剣をスイングした。その剣の切っ先が魔物の首元めがけて振り抜かれようとした。が、一本の指がそれを阻止した。
ゴキンと音がする。
それは剣でもムチでもなく、ただの硬い棒だった。たった一本の指がとてつもなく硬くなり、マリアの一撃を易々とはばんだ。マリアがおもわず大剣を取り落として、その場に膝をついた。腕だけでなくからだ全体に痺れが伝わって、その場に思わずうずくまりそうになる。
魔物がその隙を見逃すはずもなかった。気配でわかった。
総毛立ちそうになるほどの邪気が、頭上から塊となって打ち降ろされてくる。ほんの毛ほどもない時間で、自分はその殺意の餌食になる——。
が、その瞬間、ガガガガッというけたたましい炸裂音が広間に響きわたった。マリアに襲いかかったウェルキエルがうしろにのけ反った。弾丸を満身に撃ち込まれて、バランスをくずしてたたらを踏む。
「マリアさん、カッコ、悪いですよ」
うしろ上方からエヴァの声が響いた。この広間の構造のせいかエヴァの甲高い声がやけに耳に痛く感じる。
マリアは片膝をたてたまま、うしろをふりむいた。エヴァは上方の天窓部分に足をひっかけて銃を構えていた。
「今日はもうひとつ貸しができたようですね」
「抜かせ、エヴァ。今のは邪魔だてだ」
「まぁ、マリアさん、言うにことかいて!」
そのとき、ウェルキエルが足を踏ん張った反動を利用して、すこし遠い場所から跳躍してマリアに襲いかかってきた。のばした右手で今度はマリアを鷲掴みしようとする。マリアは腰から剣を引き抜くと、その刃で腕を一閃した。
一瞬でウェルキエルの右手が肘近くできれいに切断された。切断された前腕部が床を滑っていく。
「エヴァ、見たか。助けは不要だったんだよ」
エヴァは天窓から広間の床に飛び降りてくると、首をかしげながら言った。
「まぁ、そのようですね……」
「常にB案を用意しておくってことだ」
マリアはうしろをふりむいて、ウインクをしてから言った。
「だれかさんが実践で教えてくれたからな」
エヴァがすこし苦々しい顔をして言った。
「それはよかったこと。おかげでマリアさんにもうひとつ貸しを作り損ねましてよ」
その時、そのうしろからセイの強い声がとんだ。
「マリア、エヴァ、気をつけろ。ヤツが再生する」
マリアが正面に目をむけると、スッパリと切り落としたはずの上腕部からぬめっとした粘液がしたたり、魔物の腕の切断面から前腕が生えようとしていた。
「あいつ再生するのか……」
「きみらでは力不足だ。二人ともうしろに下がっていてくれ。ぼくがやる」
セイがマリアたちの元に歩いてきながら言った。
「おい、セイ。貴様も苦戦してたじゃねぇか」
マリアはすぐ横に並んだセイにむかって文句をぶつけたが、セイは無言のままマリアとエヴァの前に歩みでて、片手を横に広げて盾になるような姿勢をとった。
「まぁ、セイさん。わたしたちは守られなくても大丈夫ですわよ」
「あぁ、いらぬ気遣いだ」
「君たちがかなう相手じゃない」
「あいつは、ウェルキエル。黄道十二宮の悪魔だ」
それを聞いた瞬間、マリアはおもわずエヴァと顔を見合わせた。エヴァの顔がたちまち不安に曇っていくのがわかる。もしかしたら自分もおなじ顔色をしているのかもしれない。
エヴァがてさぐりするような仕草で、マリアの手を握ってきた。
マリアはゆっくりと腕を再生しようとしているウェルキエルを見つめたまま、エヴァの手をぎゅっと握り返した。
「は、オレが見えていたなら、さっさと声をかけとけ」
「でも、かっこよく登場できただろ」
こともなげに言ってのけるセイに、マリアはすこし驚いた。
先ほど、セイが一方的になぶられているのを見せつけられて、今、この広間の空気を支配している化物がただものではないと、マリアは直感していた。そして、その一撃を自分の剣で受けてみて、それが間違いないことを確信した。
先ほど倒したミノタウロスとは次元がちがう——。
けっして対峙したまま、軽口を叩ける余裕をもてる相手ではない。
「セイ、こいつは何モンだ」
「マリア、そいつはティゲリヌスに巣くっていた奴だよ」
「なるほど。こいつが悪魔か」
マリアは独りごちた。
一太刀受けとめただけで、半端なく強いと思い知らされた相手が、たいしたことのない雑魚でなかったことで、マリアはすこしホッとしていた。
「セイ、オレがこいつを、退治してやる。おまえはスポルスと一緒にネロのケツでも追っかけてろ」
「マリア、危険だ。相手が強すぎる」
「は、望むところだよ。オレはさっきから獣ばかり相手にさせられてうんざりしてるんだたまには歯ごたえのある……」
マリアはそこまで言って気づいた。
「ン、まぁ、こいつも獣みたいなもんか」
そう言うなり床を蹴り飛ばす勢いで踏み込んで、ウェルキエルにむけて大剣をスイングした。その剣の切っ先が魔物の首元めがけて振り抜かれようとした。が、一本の指がそれを阻止した。
ゴキンと音がする。
それは剣でもムチでもなく、ただの硬い棒だった。たった一本の指がとてつもなく硬くなり、マリアの一撃を易々とはばんだ。マリアがおもわず大剣を取り落として、その場に膝をついた。腕だけでなくからだ全体に痺れが伝わって、その場に思わずうずくまりそうになる。
魔物がその隙を見逃すはずもなかった。気配でわかった。
総毛立ちそうになるほどの邪気が、頭上から塊となって打ち降ろされてくる。ほんの毛ほどもない時間で、自分はその殺意の餌食になる——。
が、その瞬間、ガガガガッというけたたましい炸裂音が広間に響きわたった。マリアに襲いかかったウェルキエルがうしろにのけ反った。弾丸を満身に撃ち込まれて、バランスをくずしてたたらを踏む。
「マリアさん、カッコ、悪いですよ」
うしろ上方からエヴァの声が響いた。この広間の構造のせいかエヴァの甲高い声がやけに耳に痛く感じる。
マリアは片膝をたてたまま、うしろをふりむいた。エヴァは上方の天窓部分に足をひっかけて銃を構えていた。
「今日はもうひとつ貸しができたようですね」
「抜かせ、エヴァ。今のは邪魔だてだ」
「まぁ、マリアさん、言うにことかいて!」
そのとき、ウェルキエルが足を踏ん張った反動を利用して、すこし遠い場所から跳躍してマリアに襲いかかってきた。のばした右手で今度はマリアを鷲掴みしようとする。マリアは腰から剣を引き抜くと、その刃で腕を一閃した。
一瞬でウェルキエルの右手が肘近くできれいに切断された。切断された前腕部が床を滑っていく。
「エヴァ、見たか。助けは不要だったんだよ」
エヴァは天窓から広間の床に飛び降りてくると、首をかしげながら言った。
「まぁ、そのようですね……」
「常にB案を用意しておくってことだ」
マリアはうしろをふりむいて、ウインクをしてから言った。
「だれかさんが実践で教えてくれたからな」
エヴァがすこし苦々しい顔をして言った。
「それはよかったこと。おかげでマリアさんにもうひとつ貸しを作り損ねましてよ」
その時、そのうしろからセイの強い声がとんだ。
「マリア、エヴァ、気をつけろ。ヤツが再生する」
マリアが正面に目をむけると、スッパリと切り落としたはずの上腕部からぬめっとした粘液がしたたり、魔物の腕の切断面から前腕が生えようとしていた。
「あいつ再生するのか……」
「きみらでは力不足だ。二人ともうしろに下がっていてくれ。ぼくがやる」
セイがマリアたちの元に歩いてきながら言った。
「おい、セイ。貴様も苦戦してたじゃねぇか」
マリアはすぐ横に並んだセイにむかって文句をぶつけたが、セイは無言のままマリアとエヴァの前に歩みでて、片手を横に広げて盾になるような姿勢をとった。
「まぁ、セイさん。わたしたちは守られなくても大丈夫ですわよ」
「あぁ、いらぬ気遣いだ」
「君たちがかなう相手じゃない」
「あいつは、ウェルキエル。黄道十二宮の悪魔だ」
それを聞いた瞬間、マリアはおもわずエヴァと顔を見合わせた。エヴァの顔がたちまち不安に曇っていくのがわかる。もしかしたら自分もおなじ顔色をしているのかもしれない。
エヴァがてさぐりするような仕草で、マリアの手を握ってきた。
マリアはゆっくりと腕を再生しようとしているウェルキエルを見つめたまま、エヴァの手をぎゅっと握り返した。
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