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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第43話 ピソの軍隊がなだれ込んできました!
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ケラドゥスがこれ以上ないほどの笑顔をマリアとエヴァにむけた。
「エヴァどの、マリアどの。わたしに生きている意義を、主をあがめることの幸せをさずけていただいたこと、心より感謝する。ありがとう……」
ケラドゥスはそれだけ言うと、すばやい動きで数歩踏み込み、一番近くのメスライオンに剣を突き立てた。メスライオンが咆哮をあげてのたうった。ケラドゥスは、そのまま刺さった剣を、片腕でぐっと押し込んでとどめをさした。
メスライオンがその場にどさりと倒れ込んだ。
その時、突然、観客席が騒がしくなった。
さきほどまでの興奮や熱狂によるものではない。あちこちで言い争うような声が聞こえてきて、騒々しさが広がっていくのがわかる。
エヴァが観客席のほうを見あげると、ピソに率いられた軍隊が乱入してきたのがわかった。ピソの兵たちが、すでにネロの兵たちと刃をまじえはじめたのが見てとれる。
「ケラドゥス様、ピソです。ピソの軍隊がなだれ込んできました!」
エヴァはライオンを突き刺しているケラドゥスにむかって、声を弾ませた。
だが、なんの反応もなかった。
無敗の剣闘士ケラドゥスの戦いの旅は、ここまでだった……。
彼はライオンに剣を突き立てたまま、絶命していた。
その顔は実に満足そうだった。
「うわぁぁぁぁぁ、チャンピオォォォン……」
そのとたん、マリアがその場に力なく膝をおって、声をかぎりに泣き叫んだ。額が地面につきそうなほど、がっくりと頭を垂れて、その死を嘆き悲しみはじめた。エヴァはあわててマリアのほうに戻って、その肩を抱いた。
「しっかりしてください。マリアさん」
エヴァがマリアのからだを激しく揺さぶった。
この人がこんなにも脆いなんて——。
いつも悪態しかつかれたことがなかっただけに、エヴァは驚くよりもむしろとまどった。
だが、今は悲嘆にくれたり、とまどっている状況ではない。
エヴァは顔をあげると、すばやくあたりを見回した。
恐れていたとおり、もうすっかりと猛獣たちに囲まれていた。
ふいにマリアが肩においたエヴァの手をはらって、ゆっくりと立ちあがった。目元を荒っぽく拭う。
「すまねぇ、エヴァ。悲嘆に暮れていていい場合じゃなかったな」
「どうされますの。マリアさん……」
「いや……。もうどうしようもねぇ」
「どうしようもない……って」
「武器もうしなった。力もない……。あいつらにとって、オレたちは本日最後の晩餐だ」
「あきらめると?」
「いや……。あぁ、そうだ。だが、逃げまくって、せめての抵抗をしようと思う」
マリアが手を伸ばしてきて、エヴァの手を握ってきた。エヴァはなにも言わずに、その手を強く握りかえした。マリアがエヴァの目を見つめていた。
その目は、もう打つ手がない、と告げていた。
エヴァは軽く目を伏せて頷いた。
そんなことはもうわかってる——。
「一緒に逃げのびるぞ」
マリアが自分に言い聞かせるように言った。ふたりはからだを翻すと、猛獣たちが一番手薄な方角へどっと駆け出した。
だが、そこにオスライオンがいた。
がぉーっと吠えると、待ちかまえていたように、飛び出してきたふたりに正面から飛びかかってきた。
「エヴァどの、マリアどの。わたしに生きている意義を、主をあがめることの幸せをさずけていただいたこと、心より感謝する。ありがとう……」
ケラドゥスはそれだけ言うと、すばやい動きで数歩踏み込み、一番近くのメスライオンに剣を突き立てた。メスライオンが咆哮をあげてのたうった。ケラドゥスは、そのまま刺さった剣を、片腕でぐっと押し込んでとどめをさした。
メスライオンがその場にどさりと倒れ込んだ。
その時、突然、観客席が騒がしくなった。
さきほどまでの興奮や熱狂によるものではない。あちこちで言い争うような声が聞こえてきて、騒々しさが広がっていくのがわかる。
エヴァが観客席のほうを見あげると、ピソに率いられた軍隊が乱入してきたのがわかった。ピソの兵たちが、すでにネロの兵たちと刃をまじえはじめたのが見てとれる。
「ケラドゥス様、ピソです。ピソの軍隊がなだれ込んできました!」
エヴァはライオンを突き刺しているケラドゥスにむかって、声を弾ませた。
だが、なんの反応もなかった。
無敗の剣闘士ケラドゥスの戦いの旅は、ここまでだった……。
彼はライオンに剣を突き立てたまま、絶命していた。
その顔は実に満足そうだった。
「うわぁぁぁぁぁ、チャンピオォォォン……」
そのとたん、マリアがその場に力なく膝をおって、声をかぎりに泣き叫んだ。額が地面につきそうなほど、がっくりと頭を垂れて、その死を嘆き悲しみはじめた。エヴァはあわててマリアのほうに戻って、その肩を抱いた。
「しっかりしてください。マリアさん」
エヴァがマリアのからだを激しく揺さぶった。
この人がこんなにも脆いなんて——。
いつも悪態しかつかれたことがなかっただけに、エヴァは驚くよりもむしろとまどった。
だが、今は悲嘆にくれたり、とまどっている状況ではない。
エヴァは顔をあげると、すばやくあたりを見回した。
恐れていたとおり、もうすっかりと猛獣たちに囲まれていた。
ふいにマリアが肩においたエヴァの手をはらって、ゆっくりと立ちあがった。目元を荒っぽく拭う。
「すまねぇ、エヴァ。悲嘆に暮れていていい場合じゃなかったな」
「どうされますの。マリアさん……」
「いや……。もうどうしようもねぇ」
「どうしようもない……って」
「武器もうしなった。力もない……。あいつらにとって、オレたちは本日最後の晩餐だ」
「あきらめると?」
「いや……。あぁ、そうだ。だが、逃げまくって、せめての抵抗をしようと思う」
マリアが手を伸ばしてきて、エヴァの手を握ってきた。エヴァはなにも言わずに、その手を強く握りかえした。マリアがエヴァの目を見つめていた。
その目は、もう打つ手がない、と告げていた。
エヴァは軽く目を伏せて頷いた。
そんなことはもうわかってる——。
「一緒に逃げのびるぞ」
マリアが自分に言い聞かせるように言った。ふたりはからだを翻すと、猛獣たちが一番手薄な方角へどっと駆け出した。
だが、そこにオスライオンがいた。
がぉーっと吠えると、待ちかまえていたように、飛び出してきたふたりに正面から飛びかかってきた。
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