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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第27話 キリスト教徒の迫害だよ
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次の日、聖たちは図書館に集合して、ネロのいた時代を調べることになった。
かがりは声をかけられて、一も二もなく参加することにした。本来なら放課後に学級委員の打ち合せがあったが。副学級員にダッシュ土下座の勢いで懇願して、代わりに出席をお願いした。
それくらい、かがりにとっては大事なことだという思いがあった。
マリアと取っ組みあったことへ忸怩たる思いもあったが、自分がすこしでもセイの役にたちたいという思いが強かった。
彼女たちのように一緒にたたかえないのだから、こちらの世界ではすこしは手助けしたいと思うのは当然のことだ——。
いや、ちがう!。
ほんの昨日までは一番近くにいて、聖のためにいの一番に役に立っていた。それが、たった一日で、いや半日で、たちまちのうちに置いてけぼりをくっているのが。不安でたまらないだけだ。しかも、置いてけぼりというのは控え目な表現にすぎない。
彼女たちは生死を共にしているのだ。
そんな生半な関係ではない——。
それが身にしみてわかっているだけに、焦操だけがつのる。
マリアが広げたぶ厚い本を見ながら小声でささやいた。
「おい、聖。昨日潜っていた時代、まだローマの街は燃えてなかったよな」
「そうだね、マリア。ローマの街は無事だった」
「ーってぇことは、オレたちが次、潜った時はローマの大火の最中か、そのあと、っていう可能性があるな」
「まぁ、じゃあ早くしないと、嫌なことに巻きこまれますね」
エヴァが眉根をよせて心底嫌そうな表情で言うのを聞いて、かがりが尋ねた。
「エヴァ、嫌なことって?」
「キリスト教徒の迫害だよ」
代わりにマリアがこたえた。おどろいたことにマリアも苦々しい顔をしていた。
「キリスト教徒の迫害ってどういうこと?。『島原の乱』とかそういうの?」
「バカか、かがり。ネロのやったのは、そんな生ぬるいモンじゃねぇ」
「皇帝ネロはローマの大火をキリスト教徒の仕業と決めつけて、迫害したんだ。その言われなき仕打ちに、実はネロこそが火を放った張本人ではないかと言われている」
聖がかがりに言うと、すぐにマリアが補足してきた。
「なにせ、ネロはローマを自分の名前を冠した『ネロポリス』に造り変えたいという野望があったとも言うからな」
「どっちにしても早く潜って片をつけましょう。あんな陰惨なできごとに出くわすのは、ごめんこうむりたいです」
エヴァが忌々しげな言い方で、負の感情を吐露してきた。おっとりしているという印象だったをもっていただけに、らしくない語気に、かがりはすこし驚いた。
「エヴァ、そこでなにがあったの?」
かがりはエヴァの目に問いかけたが、エヴァは目を伏せて口を噤んだ。いつもならすぐさま横から口を挟んできたがるマリアも沈黙したままだった。エヴァの横で目の前の本のページをめくるのに忙しそうにしている。
しかたなくかがりは聖の方に目をむけた。
「かがり。ネロはキリスト教徒を……」
「これだよ!」
そこまで聖が言ったところで、マリアが声をあげた。図書館内に響くほどの大声だったので、まわりの人々が一勢にこちらに顔をむけた。
「ちょっと、マリア」
かがりは声をできるだけひそめてマリアに注意を促した。マリアは何も言わず、開かれた本の一点を指さしていた。
それは熱狂する観衆たちで満杯になっている競技場の絵だった。だが観客が見ているのは、ライオンや虎に取り囲まれている人々の姿だった。
「こ、これって……」
「あぁ。ネロは見せしめにキリスト教徒を猛獣たちに生きたまま喰わせたり、磔の刑にしただけでなく、それをローマ市民の見せ物、娯楽として提供したんだ」
かがりはその小さな挿し絵から目がはなせなかった。
「聖、今すぐ研究所にもどって潜り直すぞ」
マリアの呼びかけに、聖は無言のまま立ち上った。すぐにエヴァもそれに続く。
かがりだけは座ったまま、帰り仕度する三人を見あげているだけだった。
すこしでも役にたちたいと願っていたが、かがりは、自分の無力さをさらに痛感させられただけだった。
かがりは声をかけられて、一も二もなく参加することにした。本来なら放課後に学級委員の打ち合せがあったが。副学級員にダッシュ土下座の勢いで懇願して、代わりに出席をお願いした。
それくらい、かがりにとっては大事なことだという思いがあった。
マリアと取っ組みあったことへ忸怩たる思いもあったが、自分がすこしでもセイの役にたちたいという思いが強かった。
彼女たちのように一緒にたたかえないのだから、こちらの世界ではすこしは手助けしたいと思うのは当然のことだ——。
いや、ちがう!。
ほんの昨日までは一番近くにいて、聖のためにいの一番に役に立っていた。それが、たった一日で、いや半日で、たちまちのうちに置いてけぼりをくっているのが。不安でたまらないだけだ。しかも、置いてけぼりというのは控え目な表現にすぎない。
彼女たちは生死を共にしているのだ。
そんな生半な関係ではない——。
それが身にしみてわかっているだけに、焦操だけがつのる。
マリアが広げたぶ厚い本を見ながら小声でささやいた。
「おい、聖。昨日潜っていた時代、まだローマの街は燃えてなかったよな」
「そうだね、マリア。ローマの街は無事だった」
「ーってぇことは、オレたちが次、潜った時はローマの大火の最中か、そのあと、っていう可能性があるな」
「まぁ、じゃあ早くしないと、嫌なことに巻きこまれますね」
エヴァが眉根をよせて心底嫌そうな表情で言うのを聞いて、かがりが尋ねた。
「エヴァ、嫌なことって?」
「キリスト教徒の迫害だよ」
代わりにマリアがこたえた。おどろいたことにマリアも苦々しい顔をしていた。
「キリスト教徒の迫害ってどういうこと?。『島原の乱』とかそういうの?」
「バカか、かがり。ネロのやったのは、そんな生ぬるいモンじゃねぇ」
「皇帝ネロはローマの大火をキリスト教徒の仕業と決めつけて、迫害したんだ。その言われなき仕打ちに、実はネロこそが火を放った張本人ではないかと言われている」
聖がかがりに言うと、すぐにマリアが補足してきた。
「なにせ、ネロはローマを自分の名前を冠した『ネロポリス』に造り変えたいという野望があったとも言うからな」
「どっちにしても早く潜って片をつけましょう。あんな陰惨なできごとに出くわすのは、ごめんこうむりたいです」
エヴァが忌々しげな言い方で、負の感情を吐露してきた。おっとりしているという印象だったをもっていただけに、らしくない語気に、かがりはすこし驚いた。
「エヴァ、そこでなにがあったの?」
かがりはエヴァの目に問いかけたが、エヴァは目を伏せて口を噤んだ。いつもならすぐさま横から口を挟んできたがるマリアも沈黙したままだった。エヴァの横で目の前の本のページをめくるのに忙しそうにしている。
しかたなくかがりは聖の方に目をむけた。
「かがり。ネロはキリスト教徒を……」
「これだよ!」
そこまで聖が言ったところで、マリアが声をあげた。図書館内に響くほどの大声だったので、まわりの人々が一勢にこちらに顔をむけた。
「ちょっと、マリア」
かがりは声をできるだけひそめてマリアに注意を促した。マリアは何も言わず、開かれた本の一点を指さしていた。
それは熱狂する観衆たちで満杯になっている競技場の絵だった。だが観客が見ているのは、ライオンや虎に取り囲まれている人々の姿だった。
「こ、これって……」
「あぁ。ネロは見せしめにキリスト教徒を猛獣たちに生きたまま喰わせたり、磔の刑にしただけでなく、それをローマ市民の見せ物、娯楽として提供したんだ」
かがりはその小さな挿し絵から目がはなせなかった。
「聖、今すぐ研究所にもどって潜り直すぞ」
マリアの呼びかけに、聖は無言のまま立ち上った。すぐにエヴァもそれに続く。
かがりだけは座ったまま、帰り仕度する三人を見あげているだけだった。
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