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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第25話 スポルス、ワシはおまえを心から愛している
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「早く!。ネロを倒して!」
その声にネロがからだをびくつかせた。短剣をもったままスポルスが、ネロのほうを見る。
「ス、スポルス……、よもや変なことは考えておるまいな……」
短剣を前につきだすようにして、スポルスがネロのほうへ近寄っていく。その手に握られた短剣はぶるぶると震え、その目から涙があふれている。
「や、やめろ……、スポルス」
「やるんだ、スポルス!」
セイはそう叫んで剣をふりあげると、ティゲリヌスの剣を天井にむけて跳飛ばした。ガンという音をたてて天井にぶつかった剣は、ネロのすぐそばに落ちてきて床に突き刺さった。ネロがさらに泡を食ったような声をあげた。
「だ、誰か、ワシを、ワシを守らぬかぁ」
ネロが周りを取り巻いたまま、身動きできずにいる臣下たちを叱咤した。あわてて剣を引き抜き、ネロの周りを取り囲もうとする。
セイがそちらにむけて、手を突き出す。ネロの両脇を固めようとした兵士ふたりが、吹き飛ばされて壁に激突した。それを目の当たりにしたほかの兵士は身動きできない。
スポルスがネロにむかってもう一歩足をすすめた。
「スポルス、ワシはおまえを心から愛している……」
ネロの懇願にスポルスの手がさらに大きく震えて、手元が定まらなくなった。
「おまえは自分の夫を殺そうというのか……」
スポルスの目に涙があふれた。
その手から短剣が滑り落ちる。
カチャーンという鋭い音が響いた。
「で、できない……。わたしにはできません……」
スポルスがその場に膝を折って崩れ落ちた。
ティゲリヌスが床に刺さった剣を引き抜きながら、「どうやら、おまえの計画は失敗したみたいだな……」と笑った。
「憎いからといって簡単に相手を殺せるほど、人間は強くないのだよ。われわれほどに完璧ではないからな……」
セイはティゲリヌスを睨みつけると、手のなかに光の玉を宿らせようと、両手の手のひらで球体を包み込むポーズをとった。
だが、うす明かりがふわっと光っただけだった。
スポルスの『未練』の思いが急速に弱まって、そのせいで力をうしないはじめていることがわかった。このままここにとどまればいずれ『無力』になる。それは間違いなく「死」を意味した。
ティゲリヌスはセイの一瞬の隙を見逃さなかった。セイにむかってティゲリヌスは剣をおおきく振りかぶった。セイがティゲリヌスの顔めがけて、右手に宿っていた弱い光を投げつける。それはまるで金粉のように舞い散り、ティゲリヌスの目をくらませた。
ティゲリヌスはそのまま剣を振り降ろすが、その剣先にセイはいなかった。剣が床を深々とえぐる。
「バイバイ、またね」
セイは神殿のバルコニーから飛び降りると、競技場の観客席を猛スピードで駆けおりていった。アリーナに降りたつと、マリアとエヴァがいる牢屋の小窓にむかって一直線に走っていく。セイが小窓からかすかに覗くシルエットにむかって叫ぶ。
「マリア、エヴァ。いったん退却だ!」
セイは勢いよく小窓の前に滑り込むと、そのまま地面に寝そべって小窓に顔を近づけた。
「どういうことだ?」
格子のむこうからマリアが怒りの声をあげた。
「マリア、エヴァ、ふたりとも手をつないで。そしてぼくの手を握って!」
「まぁ、セイさん、なんの真似ですの?」
「エヴァ、力が使えなくなったんだ」
「おい、どういうことだ」
「スポルスは……、あの少年はネロを殺せなかった。だから『未練』の思いが、いったん切れたんだ」
そのとき競技場への扉がひらいて、武装した兵士たちが一斉になだれ込んできた。彼らは剣を構えて、小窓の前で寝そべっているセイを包囲しようとする。
セイが小窓からなかに手を伸ばして叫んだ。
「はやくぼくの手を。戻るときに『DNA酔い』させたくない」
「なんだ。それは?」
「潜睡装置『ナイト・キャップ』の特性だよ」
突然、セイの背中に影が落ちた。ハッとしてセイが顔をあげると、取り囲んだ兵士たちが、一斉におおきく剣をふりあげるのが見えた。
あっと思ったときには、全員が一気に剣を振り降ろしていた。
その声にネロがからだをびくつかせた。短剣をもったままスポルスが、ネロのほうを見る。
「ス、スポルス……、よもや変なことは考えておるまいな……」
短剣を前につきだすようにして、スポルスがネロのほうへ近寄っていく。その手に握られた短剣はぶるぶると震え、その目から涙があふれている。
「や、やめろ……、スポルス」
「やるんだ、スポルス!」
セイはそう叫んで剣をふりあげると、ティゲリヌスの剣を天井にむけて跳飛ばした。ガンという音をたてて天井にぶつかった剣は、ネロのすぐそばに落ちてきて床に突き刺さった。ネロがさらに泡を食ったような声をあげた。
「だ、誰か、ワシを、ワシを守らぬかぁ」
ネロが周りを取り巻いたまま、身動きできずにいる臣下たちを叱咤した。あわてて剣を引き抜き、ネロの周りを取り囲もうとする。
セイがそちらにむけて、手を突き出す。ネロの両脇を固めようとした兵士ふたりが、吹き飛ばされて壁に激突した。それを目の当たりにしたほかの兵士は身動きできない。
スポルスがネロにむかってもう一歩足をすすめた。
「スポルス、ワシはおまえを心から愛している……」
ネロの懇願にスポルスの手がさらに大きく震えて、手元が定まらなくなった。
「おまえは自分の夫を殺そうというのか……」
スポルスの目に涙があふれた。
その手から短剣が滑り落ちる。
カチャーンという鋭い音が響いた。
「で、できない……。わたしにはできません……」
スポルスがその場に膝を折って崩れ落ちた。
ティゲリヌスが床に刺さった剣を引き抜きながら、「どうやら、おまえの計画は失敗したみたいだな……」と笑った。
「憎いからといって簡単に相手を殺せるほど、人間は強くないのだよ。われわれほどに完璧ではないからな……」
セイはティゲリヌスを睨みつけると、手のなかに光の玉を宿らせようと、両手の手のひらで球体を包み込むポーズをとった。
だが、うす明かりがふわっと光っただけだった。
スポルスの『未練』の思いが急速に弱まって、そのせいで力をうしないはじめていることがわかった。このままここにとどまればいずれ『無力』になる。それは間違いなく「死」を意味した。
ティゲリヌスはセイの一瞬の隙を見逃さなかった。セイにむかってティゲリヌスは剣をおおきく振りかぶった。セイがティゲリヌスの顔めがけて、右手に宿っていた弱い光を投げつける。それはまるで金粉のように舞い散り、ティゲリヌスの目をくらませた。
ティゲリヌスはそのまま剣を振り降ろすが、その剣先にセイはいなかった。剣が床を深々とえぐる。
「バイバイ、またね」
セイは神殿のバルコニーから飛び降りると、競技場の観客席を猛スピードで駆けおりていった。アリーナに降りたつと、マリアとエヴァがいる牢屋の小窓にむかって一直線に走っていく。セイが小窓からかすかに覗くシルエットにむかって叫ぶ。
「マリア、エヴァ。いったん退却だ!」
セイは勢いよく小窓の前に滑り込むと、そのまま地面に寝そべって小窓に顔を近づけた。
「どういうことだ?」
格子のむこうからマリアが怒りの声をあげた。
「マリア、エヴァ、ふたりとも手をつないで。そしてぼくの手を握って!」
「まぁ、セイさん、なんの真似ですの?」
「エヴァ、力が使えなくなったんだ」
「おい、どういうことだ」
「スポルスは……、あの少年はネロを殺せなかった。だから『未練』の思いが、いったん切れたんだ」
そのとき競技場への扉がひらいて、武装した兵士たちが一斉になだれ込んできた。彼らは剣を構えて、小窓の前で寝そべっているセイを包囲しようとする。
セイが小窓からなかに手を伸ばして叫んだ。
「はやくぼくの手を。戻るときに『DNA酔い』させたくない」
「なんだ。それは?」
「潜睡装置『ナイト・キャップ』の特性だよ」
突然、セイの背中に影が落ちた。ハッとしてセイが顔をあげると、取り囲んだ兵士たちが、一斉におおきく剣をふりあげるのが見えた。
あっと思ったときには、全員が一気に剣を振り降ろしていた。
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