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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第20話 兵士さん、この剣、クーリング・オフきく?
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■第20話 セイ対ケラドゥス
円形競技場のグラウンドに引きずり出されると、狂気じみた歓声がセイをむかえた。観衆たちのフラストレーションはすでに極限にまで高まっているのがわかる。その前にここに引きずりだされたマリアはライオンを一撃で殴り倒し、エヴァはローマ一の鞭使いと言われる男を事も無げに射殺している。
観衆は前にも増して血に飢えていた。二度もお預けを喰らって、誰もが咽を掻きむしるほど、惨劇を欲しているにちがいなかった。
「武器だ」
セイの手錠をはずすと、兵士のひとりがセイの目の前に剣を投げ捨てた。
「ローマの英雄ケラドゥス様が丸腰の子供を殺したというのでは、ばつが悪いからな」
セイはやれやれという表情で、地面に転がっている剣を拾いあげた。両方に刃のついた重々しい剣。だが刃は刀身に比べてすこし薄くなっているだけで、申し訳程度に傾斜がついた鈍らだった。先端が尖っていればまだ突き刺すくらいはできたが、念のいったことに先端部分は欠けていた。
「おじさん。これとても切れそうにもないンだけど?」
セイがその場から立ち去ろうとした兵士にむかって、文句をつけた。兵士は嘲るような表情をしてセイに言った。
「それは皇帝ネロ様からの心遣いだ。スポルス様の寝所に押し入るような輩には、お似合いの剣だと思うが……」
ネロが笑いを必死でこらえながら、セイのほうを指さした。
「スポルス。わしは寛大な男だろう。あの間男にちゃんと剣を用意してやってるんだぞ」
スポルスは祈るような思いで、セイと兵士がやり取りしている様子を見つめていた。ネロはセイに向けられたスポルスの熱い視線に気づいて、急に機嫌が悪くなっていった。
「スポルス、その目はなんだ。このわしが横にいるというのに……」
ネロの罵声にからだをすくめるだけで、スポルスはなにも言おうとしなかった。同意も抗弁もしなければ、命乞いをして涙を浮かべることもしなかった。
それがネロの逆鱗にふれた。
「ティゲリヌス!。はやくケラドゥスを。あいつにあの少年をめった斬りにさせろ」
「御意」
ティゲリヌスはそれだけ言うと、近くの家来にすばやく手で合図をした。
「ねぇ、兵士さん、この剣、クーリング・オフきく?」
「おまえがなにを言っているかはわからんが、もうその戯言を聞く時間もなくなったようだ」と兵士がセイの背後を顎で指しながら言った。
セイは肩をすくめながら、ゆっくりとうしろを振り向いた。
そこに無敗の剣闘士 ケラドゥスが立っていた。日の光をうけてぎらりと刀身が閃く。その刃はすこしでも擦れば、ひとたまりもなく切り刻まれそうなほど研ぎ澄まされているように見えた。
「兵士のおっちゃん。ずるいなぁ。そっちの剣、ぜったいよく斬れるよね」
「剣が切れても切れなくても、おまえはケラドゥス様の剣を受けることもできんさ」
「じゃあ、試し斬りしていい?」
「試し斬り?」
セイは剣をもった手に力をこめた。その手のなかから光が漏れ出す。
と、セイが剣を振りあげると、そのまま兵士を肩口から袈裟懸けに振り降ろした。勢いあまって、刃先が地面に突き刺さるようにドンと音をたてる。その衝撃で欠けていた刃先が、さらにおおきく欠けた。
「あーー、やっぱ不良品じゃないかぁ」
そうセイが言った瞬間、兵士の肩口から血煙が立ち昇って、からだが縦に真っ二つに切り裂かれて両側に分かれて地面に転がった。
セイは両断された兵士が腰にさしていた剣を抜き取りながら、死体にむかって言った。
「あ、これ借りるけどいいよね」
円形競技場のグラウンドに引きずり出されると、狂気じみた歓声がセイをむかえた。観衆たちのフラストレーションはすでに極限にまで高まっているのがわかる。その前にここに引きずりだされたマリアはライオンを一撃で殴り倒し、エヴァはローマ一の鞭使いと言われる男を事も無げに射殺している。
観衆は前にも増して血に飢えていた。二度もお預けを喰らって、誰もが咽を掻きむしるほど、惨劇を欲しているにちがいなかった。
「武器だ」
セイの手錠をはずすと、兵士のひとりがセイの目の前に剣を投げ捨てた。
「ローマの英雄ケラドゥス様が丸腰の子供を殺したというのでは、ばつが悪いからな」
セイはやれやれという表情で、地面に転がっている剣を拾いあげた。両方に刃のついた重々しい剣。だが刃は刀身に比べてすこし薄くなっているだけで、申し訳程度に傾斜がついた鈍らだった。先端が尖っていればまだ突き刺すくらいはできたが、念のいったことに先端部分は欠けていた。
「おじさん。これとても切れそうにもないンだけど?」
セイがその場から立ち去ろうとした兵士にむかって、文句をつけた。兵士は嘲るような表情をしてセイに言った。
「それは皇帝ネロ様からの心遣いだ。スポルス様の寝所に押し入るような輩には、お似合いの剣だと思うが……」
ネロが笑いを必死でこらえながら、セイのほうを指さした。
「スポルス。わしは寛大な男だろう。あの間男にちゃんと剣を用意してやってるんだぞ」
スポルスは祈るような思いで、セイと兵士がやり取りしている様子を見つめていた。ネロはセイに向けられたスポルスの熱い視線に気づいて、急に機嫌が悪くなっていった。
「スポルス、その目はなんだ。このわしが横にいるというのに……」
ネロの罵声にからだをすくめるだけで、スポルスはなにも言おうとしなかった。同意も抗弁もしなければ、命乞いをして涙を浮かべることもしなかった。
それがネロの逆鱗にふれた。
「ティゲリヌス!。はやくケラドゥスを。あいつにあの少年をめった斬りにさせろ」
「御意」
ティゲリヌスはそれだけ言うと、近くの家来にすばやく手で合図をした。
「ねぇ、兵士さん、この剣、クーリング・オフきく?」
「おまえがなにを言っているかはわからんが、もうその戯言を聞く時間もなくなったようだ」と兵士がセイの背後を顎で指しながら言った。
セイは肩をすくめながら、ゆっくりとうしろを振り向いた。
そこに無敗の剣闘士 ケラドゥスが立っていた。日の光をうけてぎらりと刀身が閃く。その刃はすこしでも擦れば、ひとたまりもなく切り刻まれそうなほど研ぎ澄まされているように見えた。
「兵士のおっちゃん。ずるいなぁ。そっちの剣、ぜったいよく斬れるよね」
「剣が切れても切れなくても、おまえはケラドゥス様の剣を受けることもできんさ」
「じゃあ、試し斬りしていい?」
「試し斬り?」
セイは剣をもった手に力をこめた。その手のなかから光が漏れ出す。
と、セイが剣を振りあげると、そのまま兵士を肩口から袈裟懸けに振り降ろした。勢いあまって、刃先が地面に突き刺さるようにドンと音をたてる。その衝撃で欠けていた刃先が、さらにおおきく欠けた。
「あーー、やっぱ不良品じゃないかぁ」
そうセイが言った瞬間、兵士の肩口から血煙が立ち昇って、からだが縦に真っ二つに切り裂かれて両側に分かれて地面に転がった。
セイは両断された兵士が腰にさしていた剣を抜き取りながら、死体にむかって言った。
「あ、これ借りるけどいいよね」
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