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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第16話 あのライオンはもう3日間も何も食べさせておりません
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マリアが兵士たちに両脇を抱えられ石畳の階段をあがっていくと、徐々に歓声がおおきくなってきた。まるで声というより暴風の音のように感じる。
轟音はマリアが円形競技場の入り口に姿を現した時に、最高潮に達した。地下牢で格子越しに聞いていても、観衆たちの興奮が充分に伝わってきたが、こうやって地上にでてくると、まるっきり『圧』がちがう。
「ほう、スーパースターになった気分だ。わるくないな」
マリアが自分にむけられる満員の観衆の視線を浴びて、悦にいっていると兵士がどんと乱暴に背中をおした。
「おい、子供。可哀想にな。おまえはあいつの餌食になるんだよ」
マリアはふりむいて背中を押した兵士を睨みつけた。
「今、押したのはてめぇか。ぶっ殺すぞ」
「は?。死ぬのはおまえだよ。お嬢ちゃん」
その時、すこし向こうで、がるるるる……と猛獣が咽を鳴らす声が聞こえた。マリアがそちらのほうへ目をむける。
そこに一頭の雄ライオンがいた。口からはおびただしい涎をたらして、こちらの様子を伺っていたが、遠めにも目つきがおかしいのがわかった。相当に飢えているらしい。今すぐにでも襲いかかってきても不思議ではない。
兵士たちがその場からそそくさと走り出し、出口をくぐり抜けると、すぐさま頑丈な柵が降りてきた。マリアはこれで完全に退路は断たれた形になった。
観衆たちの興奮が急激に高まってきた。歓声が地鳴りとなって、円形競技場全体を揺らし始める。
マリアはかるく伸びをすると、腕を折り曲げてストレッチをおこなった。
『さて、どうするかな。叩き斬るのは簡単だが……』
手のひらを上にむけて開くと、手の中に黒い光の雲を呼びだした。黒々とした靄が手の中に広がる。
円形競技場の真ん中にひとり取り残されて、ライオンと対峙しているマリアの姿をみながら、玉座にすわったネロが満足げに言った。
「なぁ、スポルス。おまえの『お友達』は役にたつようじゃのう。腹を空かせたライオンの腹を充分に満たすにはちょっと小さいがな」
そう言うと横の皿のうえから、葡萄を鷲掴みにして一度に数粒を口のなかに放り込む。隣に座っているスポルスはこんな余興はとても耐えられないとばかりに、手で顔をおおっていた。
ネロはスポルスを気づかうような口調で、「スポルス、しょげるな。あとの『お友達』にも余興を用意しておるからな」と言ったが、口いっぱいにぶどうの実を頬ばっているせいで、なにを言っているかあまりわからなかった。
すぐ脇に控えていたティゲリヌスがネロに言った。
「あのライオンはもう3日間も何も食べさせておりませんので、かなりいらだっております」
「むほほほほ、そいつはなおのこと結構。たっぷり血がみれそうだ」
その時、歓声が爆発した。
がぉーっという咆哮とともに、雄ライオンがマリアのほうにむかって走り出していた。
ネロがおもわず腰を浮かせた。その顔には、これから繰り広げられる惨劇の宴への期待が充ち満ちていた。
「うほぉ、いよいよじゃ」
牙をむいたライオンがマリアのちいさな体のうえにのし掛かるように飛びかかった。
「おぉっ」
ネロが声をあげたが、それがかき消されるほどの喊声が一気に円形競技場を満たした。
次の瞬間、マリアがライオンの眉間にむけて、手の甲を使い『裏拳』で殴りつけた。それは友人の頭でもこづくように、軽くコツンと叩いたようにしか見えなかった。
が、それだけで飛びかかったライオンの動きが静止した。空中で時間がとまったかのようにライオンは動かない。一瞬ののち、その場にどさりと落ちて動かなくなった。
一瞬にして競技場が静まり返った。
競技場全体が呆気にとられていた。だれも目の前で起きたことが、理解できず声ひとつ発せられない。それはバルコニーから観覧していたネロもおなじで、前のめりにたちあがったまま呆然としていた。ネロだけではない。隣の席に座るスポルス、脇に控えるティゲリヌス、ペトロニウスまでもが顔色をうしなっていた。
「ティ、ティゲリヌス。ど、ど、どうなっておるのだ。ワシのライオンが幼子に一撃で倒されたぞ」
すぐに我を取り戻したネロが、怒りに顔をあからめて叫んだ。
玉座の隣に控えていたティゲリヌスが、跪いたまま答えた。
「はっ。しかしながら、あいつは一番強い雄ライオンですし、食事を抜いて凶暴性を高めておいたのですが……」
「バカもの~、食事を抜いたりするから負けたのだ!」
「も、申し訳ございません」
平身低頭で謝るティゲリヌスの顔や頭は、ネロの口から罵声とともに吐き出された、ぶどうの皮や種でべとべとになっていた。
------------------------------------------------------------
ガチャーンと派手な音がして鉄扉が開くと、マリアが牢にもどされてきた。彼女は見るからに不機嫌、という顔で頬を膨らませて腕を組んでいた。セイとエヴァはすぐに駆け寄っていったが、マリアは手をつきだしてふたりの動きを制する仕草をして言った。
「ふたりともつまらないこと言うなよ。オレは今、めちゃくちゃ機嫌がわるいからな」
その様子にエヴァが肩をすくめたが、その肩を進み出てきた兵士がぐっと掴んで押さえつけてきた。
「次はおまえの番だ」
轟音はマリアが円形競技場の入り口に姿を現した時に、最高潮に達した。地下牢で格子越しに聞いていても、観衆たちの興奮が充分に伝わってきたが、こうやって地上にでてくると、まるっきり『圧』がちがう。
「ほう、スーパースターになった気分だ。わるくないな」
マリアが自分にむけられる満員の観衆の視線を浴びて、悦にいっていると兵士がどんと乱暴に背中をおした。
「おい、子供。可哀想にな。おまえはあいつの餌食になるんだよ」
マリアはふりむいて背中を押した兵士を睨みつけた。
「今、押したのはてめぇか。ぶっ殺すぞ」
「は?。死ぬのはおまえだよ。お嬢ちゃん」
その時、すこし向こうで、がるるるる……と猛獣が咽を鳴らす声が聞こえた。マリアがそちらのほうへ目をむける。
そこに一頭の雄ライオンがいた。口からはおびただしい涎をたらして、こちらの様子を伺っていたが、遠めにも目つきがおかしいのがわかった。相当に飢えているらしい。今すぐにでも襲いかかってきても不思議ではない。
兵士たちがその場からそそくさと走り出し、出口をくぐり抜けると、すぐさま頑丈な柵が降りてきた。マリアはこれで完全に退路は断たれた形になった。
観衆たちの興奮が急激に高まってきた。歓声が地鳴りとなって、円形競技場全体を揺らし始める。
マリアはかるく伸びをすると、腕を折り曲げてストレッチをおこなった。
『さて、どうするかな。叩き斬るのは簡単だが……』
手のひらを上にむけて開くと、手の中に黒い光の雲を呼びだした。黒々とした靄が手の中に広がる。
円形競技場の真ん中にひとり取り残されて、ライオンと対峙しているマリアの姿をみながら、玉座にすわったネロが満足げに言った。
「なぁ、スポルス。おまえの『お友達』は役にたつようじゃのう。腹を空かせたライオンの腹を充分に満たすにはちょっと小さいがな」
そう言うと横の皿のうえから、葡萄を鷲掴みにして一度に数粒を口のなかに放り込む。隣に座っているスポルスはこんな余興はとても耐えられないとばかりに、手で顔をおおっていた。
ネロはスポルスを気づかうような口調で、「スポルス、しょげるな。あとの『お友達』にも余興を用意しておるからな」と言ったが、口いっぱいにぶどうの実を頬ばっているせいで、なにを言っているかあまりわからなかった。
すぐ脇に控えていたティゲリヌスがネロに言った。
「あのライオンはもう3日間も何も食べさせておりませんので、かなりいらだっております」
「むほほほほ、そいつはなおのこと結構。たっぷり血がみれそうだ」
その時、歓声が爆発した。
がぉーっという咆哮とともに、雄ライオンがマリアのほうにむかって走り出していた。
ネロがおもわず腰を浮かせた。その顔には、これから繰り広げられる惨劇の宴への期待が充ち満ちていた。
「うほぉ、いよいよじゃ」
牙をむいたライオンがマリアのちいさな体のうえにのし掛かるように飛びかかった。
「おぉっ」
ネロが声をあげたが、それがかき消されるほどの喊声が一気に円形競技場を満たした。
次の瞬間、マリアがライオンの眉間にむけて、手の甲を使い『裏拳』で殴りつけた。それは友人の頭でもこづくように、軽くコツンと叩いたようにしか見えなかった。
が、それだけで飛びかかったライオンの動きが静止した。空中で時間がとまったかのようにライオンは動かない。一瞬ののち、その場にどさりと落ちて動かなくなった。
一瞬にして競技場が静まり返った。
競技場全体が呆気にとられていた。だれも目の前で起きたことが、理解できず声ひとつ発せられない。それはバルコニーから観覧していたネロもおなじで、前のめりにたちあがったまま呆然としていた。ネロだけではない。隣の席に座るスポルス、脇に控えるティゲリヌス、ペトロニウスまでもが顔色をうしなっていた。
「ティ、ティゲリヌス。ど、ど、どうなっておるのだ。ワシのライオンが幼子に一撃で倒されたぞ」
すぐに我を取り戻したネロが、怒りに顔をあからめて叫んだ。
玉座の隣に控えていたティゲリヌスが、跪いたまま答えた。
「はっ。しかしながら、あいつは一番強い雄ライオンですし、食事を抜いて凶暴性を高めておいたのですが……」
「バカもの~、食事を抜いたりするから負けたのだ!」
「も、申し訳ございません」
平身低頭で謝るティゲリヌスの顔や頭は、ネロの口から罵声とともに吐き出された、ぶどうの皮や種でべとべとになっていた。
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ガチャーンと派手な音がして鉄扉が開くと、マリアが牢にもどされてきた。彼女は見るからに不機嫌、という顔で頬を膨らませて腕を組んでいた。セイとエヴァはすぐに駆け寄っていったが、マリアは手をつきだしてふたりの動きを制する仕草をして言った。
「ふたりともつまらないこと言うなよ。オレは今、めちゃくちゃ機嫌がわるいからな」
その様子にエヴァが肩をすくめたが、その肩を進み出てきた兵士がぐっと掴んで押さえつけてきた。
「次はおまえの番だ」
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