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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第9話 昏睡病の患者は時間が止まったように年をとらない
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エヴァはマリアと一緒に施設に隣接された病棟へ案内された。そこはエヴァが想像していたより広く立派な造りだった。厚生労働省の管轄下にあるとは聞いていたが、『昏睡病』に特化した施設と考えると、その充実ぶりに驚かされる。
二人は最上階のフロアにある六人部屋の一般病室の、窓際の病床に眠る少女を紹介された。からだのいたるところにセンサー類が取りつけられていて、相当重篤な状態を伺わせるが、モニタの生体信号はどれもなだらかな曲線を描いていてきわめて安静な状態だとわかった。その少女を見るなり、エヴァが思わず声をあげた。
「ほんとうに十歳くらいにしか見えない……」
ここにくるまでの間、かがりから説明をされてはいたので、ある程度の想像はついていたが、実際に目の当たりにすると驚きはつよくなった。
「本当に聖さんと双子……なんですよね」
聖がかるく首肯する。
「うん。昏睡病の患者って、まるで時間が止まったように年をとらないんだ」
「ですが、前世への核が閉じてしまったあとでは、もう手の尽くしようがないと言われてますわ。聖さん、あなたもご存知でしょ」
エヴァはできるだけショックを受けないよう、やわらかな口調を心がけた。厳しい現実であるが、受けとめるべき現実なのは確かだ。だがかがりがすぐさま反応した。
「エヴァ、なんてこと言うの!。たとえそうだとしても、聖ちゃんが簡単に諦められるわけないじゃない!」
「かがりさん。わたしたちの財団ではこの状態を『精神死』と規定しています。どんなに希望をもっても、現時点では助けられないんです」
「エヴァ、ありがとう。でも、『現時点』ではだよね」
聖はぼそりと呟くように反論したが、そこに決意のようなものを感じ取った。聖はエヴァのほうへ向き直ると、唖然とするほどあっけらかんとして言った。
「じゃあ、とりあえず悪魔を全部殲滅してみるよ。それでもし駄目だったら、そのときは諦めるさ」
エヴァは一瞬言っている意味がわからず、挙動不審なほど目をぱちくりとさせた。
「え、え……、えっ、あーー、えーー」
突拍子もないこと過ぎて、ことばがでてこない。脳内のニューロンそのものが錯綜しているとしか思えない。エヴァがとまどっていると、マリアが怒声じみた声をあげた。
「てめぇ。バカ言ってんじゃねぇ!」
その一声にエヴァははっと我にかえった。口はわるいが、自分がいいたかったことをマリアが代弁してくれた。そう思ってすこしホッとした。
「聖、ふざけんじゃねぇぞ。それはオレの仕事だ。おまえじゃなくオレがやる。オレが悪魔を全部駆逐してやる」
今度はかがりが唖然とした表情をみせた。その様子を見ながら、エヴァは顔に手をあてて嘆息した。いつものマリアの虚勢っぷりにエヴァが口をはさんだ。
「マリアさん。あなた方の組織だけでは無理だから、わたくしたちの財団と『協力』することになったのでしょう。あなたがたは『神』のため、わたくしたちは『金』のためですけど……」
「じゃあ、あなたたちに聖ちゃんが加わったら、最強になるじゃない」
かがりが勢いこんでポロッと口から意見をもらした。が、すぐに迂闊なことを言ったと考えをあらためたのか、「いや、たとえばの話よ」とあわてて打ち消した。
「いいんじゃないか」
聖がぼそりと提案した。だがその声色にはやけに確信めいた響きがあった。
「ぼくは『家族』のために戦う。それじゃダメかな?」
二人は最上階のフロアにある六人部屋の一般病室の、窓際の病床に眠る少女を紹介された。からだのいたるところにセンサー類が取りつけられていて、相当重篤な状態を伺わせるが、モニタの生体信号はどれもなだらかな曲線を描いていてきわめて安静な状態だとわかった。その少女を見るなり、エヴァが思わず声をあげた。
「ほんとうに十歳くらいにしか見えない……」
ここにくるまでの間、かがりから説明をされてはいたので、ある程度の想像はついていたが、実際に目の当たりにすると驚きはつよくなった。
「本当に聖さんと双子……なんですよね」
聖がかるく首肯する。
「うん。昏睡病の患者って、まるで時間が止まったように年をとらないんだ」
「ですが、前世への核が閉じてしまったあとでは、もう手の尽くしようがないと言われてますわ。聖さん、あなたもご存知でしょ」
エヴァはできるだけショックを受けないよう、やわらかな口調を心がけた。厳しい現実であるが、受けとめるべき現実なのは確かだ。だがかがりがすぐさま反応した。
「エヴァ、なんてこと言うの!。たとえそうだとしても、聖ちゃんが簡単に諦められるわけないじゃない!」
「かがりさん。わたしたちの財団ではこの状態を『精神死』と規定しています。どんなに希望をもっても、現時点では助けられないんです」
「エヴァ、ありがとう。でも、『現時点』ではだよね」
聖はぼそりと呟くように反論したが、そこに決意のようなものを感じ取った。聖はエヴァのほうへ向き直ると、唖然とするほどあっけらかんとして言った。
「じゃあ、とりあえず悪魔を全部殲滅してみるよ。それでもし駄目だったら、そのときは諦めるさ」
エヴァは一瞬言っている意味がわからず、挙動不審なほど目をぱちくりとさせた。
「え、え……、えっ、あーー、えーー」
突拍子もないこと過ぎて、ことばがでてこない。脳内のニューロンそのものが錯綜しているとしか思えない。エヴァがとまどっていると、マリアが怒声じみた声をあげた。
「てめぇ。バカ言ってんじゃねぇ!」
その一声にエヴァははっと我にかえった。口はわるいが、自分がいいたかったことをマリアが代弁してくれた。そう思ってすこしホッとした。
「聖、ふざけんじゃねぇぞ。それはオレの仕事だ。おまえじゃなくオレがやる。オレが悪魔を全部駆逐してやる」
今度はかがりが唖然とした表情をみせた。その様子を見ながら、エヴァは顔に手をあてて嘆息した。いつものマリアの虚勢っぷりにエヴァが口をはさんだ。
「マリアさん。あなた方の組織だけでは無理だから、わたくしたちの財団と『協力』することになったのでしょう。あなたがたは『神』のため、わたくしたちは『金』のためですけど……」
「じゃあ、あなたたちに聖ちゃんが加わったら、最強になるじゃない」
かがりが勢いこんでポロッと口から意見をもらした。が、すぐに迂闊なことを言ったと考えをあらためたのか、「いや、たとえばの話よ」とあわてて打ち消した。
「いいんじゃないか」
聖がぼそりと提案した。だがその声色にはやけに確信めいた響きがあった。
「ぼくは『家族』のために戦う。それじゃダメかな?」
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