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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第7話 序章 すべてのはじまり 西暦999年 — ローマ教会
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西暦999年 ローマ教会——
夜の暗闇を突然の稲光が切り裂くと、地を揺るがすほどの雷鳴が轟きわたった。その光に照らし出されたその教会は横なぐりの風と夥しいほどの雨に打ちつけられていた。
その大聖堂にローマ教皇シルヴェステル二世が、ひとり祭壇の前でうずくまっていた。彼は手にした燭台のわずかな明かりを持ち上げた。蝋燭の炎に照らし出されたその顔はこわばり、すでに顔色をうしなっていた。まばたきすらできないほど憔悴していたが、口だけは小刻みに動き、ぶつぶつとなにかを呟いていた。
「どうして……、どうしてこうなったのだ……」
シルヴェステル二世はその場に膝まずいたまま天井を仰ぎ見た。天井にほどこされた細密な絵が目に入る。神や天使たちの神聖な姿が彼の目を射る。今の自分には、それはあまりにも眩しく、正視に堪えない。
突然、窓の外に稲妻が走ったかと思うと、腹の底にまで響くような大音響が地を揺るがした。だが彼はそれに慌てふためくことはなかった。
契約者がお見えになった——。
シルヴェステル二世は窓に目をやった。窓は色とりどりのステンドグラスで彩られていた。屋根の装飾や天井の宗教画とおなじように、名のある芸術家による美しい窓。
だが、いま、そのガラスは別のものに変形していた。いびつで禍々しいフォルムと不安と恐怖をかき立てるような色合いを帯び、『悪魔』を思わせる形のシルエットが浮かび上がっていた。シルエットはすぐに黒い霧となって浮かびあがり、彼の真上にどす黒い雲となって漂った。が、それでもその形はまだ『悪魔』の形をとどめていた。頭から角を生やし、長く尖った爪、人々に嫌悪感を感じさせる細くゆがんだ体躯、そしてぎざぎざの棘がいくつも張りついた尻尾。そう見えた。
ふいに黒い影から声が響いた。
「滅びるのが怖いのだろう。シルヴェステル教皇」
「ほんとうにあなたが予言するように、我らは滅びるのですか?」
「予言ではない、シルヴェステル。未来におきる事実だ」
「だが、それから逃れられるとおっしゃった」
「あぁ、約束する。わたしと契約すれば、おまえたちは滅びることはない」
「契約しなければ?」
「おまえたちは滅びる。間違いなくな。神聖ローマ帝国皇帝がおまえ地位と権力を狙っている。いずれおまえたちはローマを追われるであろう」
「しかし、オットー三世は私を信頼して下さっている」
「まだ、人を信じているのか?。シルヴェステル」
シルヴェステル二世はくちびるを噛みしめた。
「我々の力はわかっているはずだ。すでに全知全能に値する博識と、高貴な弟子を傅かせるだけの『カリスマ』をおまえに与えた。そして教皇の地位もな……」
「だが、それを奪われるのは話がちがう!」
「だから、あらたに契約を結ぼうというのだよ」
「契約……、契約とはなんです?。わたしはなにをすれば良いのですか?」
「簡単だ。神を裏切るだけでいい」
ハッとした目を天井にうかんで邪気をはなつ黒い影にむけた。
「神を裏切る。そんなことが……」
「なにをいまさら。すでにおまえは裏切っているだろう……。もう一度裏切るだけだ」
シルヴェステル二世はぎゅっと拳を握りしめた。彼はかつて自分の神への信仰が揺らいだことを悔いてはいなかった。だが、その過ちを肯定してくれるこの黒い影は、信仰心につけこみ、強大な力を与えてくれた。そのことが悔やまれてならなかった。
彼はその力で願うがままに人々からの尊敬と地位を勝ち得た。
これを手放すことは『恐怖』でしかなかった。
一度手に入れてしまったばかりに……。昇りつめてしまったばかりに……。
「神を裏切る……。そんなことをしたら身の破滅です」
黒い霧が小刻みに震えたかと思うと、契約者のあの耳障りな雑音めいた笑い声がまた聞こえてきた。ふとシルヴェステル二世が窓のほうを見ると、窓のステンドグラスが悪魔の顔つきに変形し、歪にゆがんでこちらをせせら笑っていた。
「ならば、おまえに……、おまえたちに千年やろう」
契約者はひとしきり笑い終えるとシルヴェステル二世に提案をきりだしてきた。
「千年……」
「どっちかを選ぶがいい。今、おまえが身を破滅させるか……、それとも人類が千年後に滅びるかだ」
シルヴェステル二世の顔が苦悶に歪んだ。額から汗からしたたり落ちる。自分の栄華のために千年後の人類を契約者に差し出すのか、ずっと先の未来の、自分とはなんのゆかりもない人間のために、己の『今』を捨てさるのか。彼は口元から声を絞り出した。
「なぜ、なぜ私なのです…」
「ふ、それはおまえが、キリスト教の最高位の聖職者でありながら、イスラムの神にも通じた者だからだ」
シルヴェステル二世が力なくその場に膝をついた。彼は視線を下にむけ、足元の石畳の目を見つめることしかできずにいた。
若かりし頃、知識欲旺盛だったシルヴェステル二世は、勉学のためにほかの宗教を研究したことがあった。あくまでも興味の範囲であり、アカデミックな対象のひとつでしかなかった。彼はほかの宗教を知ることで、あらためてキリスト教への造詣を深められるものと信じていた。
だが、彼はたちまちイスラムの教えに魅せられてしまった。それは学問の範疇をこえて、彼のなかの信じるべきもうひとつの『教え』となってしまった。ふたつの宗教は、おなじ『ただ一人の神』を崇拝しながら、『三位一体』や『神の子』、『唯一神』や『預言者』の概念や教え、規律は異なり、お互いが相いれないものであることは彼もわかっていた。ただ、この世に生まれおちた迷える人々に、道をしめして救いを授けるその教えはおなじなのだ。
なんとかしたい……。
その情熱的な思いを持ったがゆえに、だれにも打ち明けられず、悶々と苦しむ彼に悪魔がつけ込んだ。両方の信者を統べる力を与えると、文字通り悪魔が耳元で囁いた……。
シルヴェステル二世が後悔の念に身悶えしていると、どこからか紛れ込んできた一枚の紙切れが目のまえに滑り込んできた。
「二つの神に心を捧げし者、契約書だ」
彼は手元の『契約書』に目をやった。そこにはなにも書いていなかったが、ただの紙片ではなかった。全体がどす黒いなにかに取り憑かれていた。
「契約をしろ、シルヴェステル。そうすれば、おまえの人生は栄華を極めたまま終えることができるだろう。その後の人間たちはおまえの思い描くがままに、あらゆる困難を乗り越え、栄え続けることができる……千年のちまで」
「主よ。お許しを……」
シルヴェステル二世はよろよろと立ちあがると、祭壇の上に置いてあったナイフを手に取った。彼のなかに迷いは一片もなかった。ここに来たときからすでに腹を括っているつもりだった。いや、すでに運命に身を委ねていたというほうが正しい……。
彼はナイフを指先に押し当てて横にひいた。指から血がぷつぷつと吹き出す。それと同時に地面に落ちていた契約書が、つむじ風に巻き上げられたように空中を舞った。指先から流れでた血が一筋の糸のように、空中に棚引いていく。やがてその血は中空で文字となって踊り、『Silvester 2』の署名となって契約書に軌跡をえがいた。
「決まりだ!」
「これで千年間はおまえたちのものだ。今から千年後まではおまえたち人間は、この地上で思うがまま栄華をむさぼるがいい」
「千年間……。千年ののちはどうなるのです?」
「そののちの千年は我々の時代となる。西暦二千年以降、おまえたち人間の時代は終わり、我らの千年王国が栄える」
「千年王国……
しかし、悪魔は実体を持ってはいないはず。人の心の隙間に巣くうから生きていられる。人を滅ぼして、どうして千年王国を築けるというのです」
「『地獄の門』をひらけば、肉体は手に入るのだ」
「ど、どうやってそんな真似が……」
「百万の生きた魂を集めればいい。たったそれだけだ……」
「ばかな!。実体をもたないおまえたちに、生きた魂を獲る力などあるはずない」
契約者がまた耳障りな声で高笑いをはじめた。しばらく笑ったあと、契約者は確信めいた声色でシルヴェステル二世に言った。
「おまえの言うとおりだ、シルヴェステル。
人間は『生』ある限り、我らにその身を自由にさせぬだけの強い意志をもっている。
我らの甘言に耳を貸さないだけの、揺るぎない覚悟をもっている。
我らの誘いを己の力で正せるだけの、ただしい心をもっている……」
シルヴェステル二世は、敗北宣言ともとれる契約者の吐息まじりの告白に、ほっと胸をなで下ろした。彼は天井にむけて声を張った。
「ならば、おまえたちの千年王国は、千年のちに叶わない」
「あぁ、そう、できぬな……『現世』ではな」
重たい、とても重たい響きだった。まるで内臓の各臓器がひとつづつ、引き剥がされながら嬲られていく。そんな身の毛がよだつような感覚がからだを支配していく。
「な……なにを……」
「我々はおまえたちの『前世』に取り憑く」
「どういうことです?」
そう問いかけながら、すでにシルヴェステル二世は立っていらなかった。彼は祭壇に手をかけてもたれかかっていた。精神が侵されて脳内に、穢れが沁みこんでくるような感覚だった。
「知らぬほうがいい。こののちの人生、後悔の念に塗れたくはあるまい……。
ジェルベール・ド・オーリヤックよ」
「ですが……」
「もうおまえには関係ない……」
「すべては千年ののちに……」
------------------------------------------------------------
参考文献:図解 近代魔術 著者: 羽仁礼 新紀元社
参考サイト:
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)「シルウェステル2世 (ローマ教皇)」
https://bushoojapan.com/tomorrow/2019/05/12/99137
https://6556.teacup.com/shugyo/bbs/2563
現在では表記はシルウェステル2世のほうが多いが、むかし調べた時期には「シルベステル」と記載されていたこと。英語表記で出てくるのであえてその綴りの読みを優先させてもらった。
夜の暗闇を突然の稲光が切り裂くと、地を揺るがすほどの雷鳴が轟きわたった。その光に照らし出されたその教会は横なぐりの風と夥しいほどの雨に打ちつけられていた。
その大聖堂にローマ教皇シルヴェステル二世が、ひとり祭壇の前でうずくまっていた。彼は手にした燭台のわずかな明かりを持ち上げた。蝋燭の炎に照らし出されたその顔はこわばり、すでに顔色をうしなっていた。まばたきすらできないほど憔悴していたが、口だけは小刻みに動き、ぶつぶつとなにかを呟いていた。
「どうして……、どうしてこうなったのだ……」
シルヴェステル二世はその場に膝まずいたまま天井を仰ぎ見た。天井にほどこされた細密な絵が目に入る。神や天使たちの神聖な姿が彼の目を射る。今の自分には、それはあまりにも眩しく、正視に堪えない。
突然、窓の外に稲妻が走ったかと思うと、腹の底にまで響くような大音響が地を揺るがした。だが彼はそれに慌てふためくことはなかった。
契約者がお見えになった——。
シルヴェステル二世は窓に目をやった。窓は色とりどりのステンドグラスで彩られていた。屋根の装飾や天井の宗教画とおなじように、名のある芸術家による美しい窓。
だが、いま、そのガラスは別のものに変形していた。いびつで禍々しいフォルムと不安と恐怖をかき立てるような色合いを帯び、『悪魔』を思わせる形のシルエットが浮かび上がっていた。シルエットはすぐに黒い霧となって浮かびあがり、彼の真上にどす黒い雲となって漂った。が、それでもその形はまだ『悪魔』の形をとどめていた。頭から角を生やし、長く尖った爪、人々に嫌悪感を感じさせる細くゆがんだ体躯、そしてぎざぎざの棘がいくつも張りついた尻尾。そう見えた。
ふいに黒い影から声が響いた。
「滅びるのが怖いのだろう。シルヴェステル教皇」
「ほんとうにあなたが予言するように、我らは滅びるのですか?」
「予言ではない、シルヴェステル。未来におきる事実だ」
「だが、それから逃れられるとおっしゃった」
「あぁ、約束する。わたしと契約すれば、おまえたちは滅びることはない」
「契約しなければ?」
「おまえたちは滅びる。間違いなくな。神聖ローマ帝国皇帝がおまえ地位と権力を狙っている。いずれおまえたちはローマを追われるであろう」
「しかし、オットー三世は私を信頼して下さっている」
「まだ、人を信じているのか?。シルヴェステル」
シルヴェステル二世はくちびるを噛みしめた。
「我々の力はわかっているはずだ。すでに全知全能に値する博識と、高貴な弟子を傅かせるだけの『カリスマ』をおまえに与えた。そして教皇の地位もな……」
「だが、それを奪われるのは話がちがう!」
「だから、あらたに契約を結ぼうというのだよ」
「契約……、契約とはなんです?。わたしはなにをすれば良いのですか?」
「簡単だ。神を裏切るだけでいい」
ハッとした目を天井にうかんで邪気をはなつ黒い影にむけた。
「神を裏切る。そんなことが……」
「なにをいまさら。すでにおまえは裏切っているだろう……。もう一度裏切るだけだ」
シルヴェステル二世はぎゅっと拳を握りしめた。彼はかつて自分の神への信仰が揺らいだことを悔いてはいなかった。だが、その過ちを肯定してくれるこの黒い影は、信仰心につけこみ、強大な力を与えてくれた。そのことが悔やまれてならなかった。
彼はその力で願うがままに人々からの尊敬と地位を勝ち得た。
これを手放すことは『恐怖』でしかなかった。
一度手に入れてしまったばかりに……。昇りつめてしまったばかりに……。
「神を裏切る……。そんなことをしたら身の破滅です」
黒い霧が小刻みに震えたかと思うと、契約者のあの耳障りな雑音めいた笑い声がまた聞こえてきた。ふとシルヴェステル二世が窓のほうを見ると、窓のステンドグラスが悪魔の顔つきに変形し、歪にゆがんでこちらをせせら笑っていた。
「ならば、おまえに……、おまえたちに千年やろう」
契約者はひとしきり笑い終えるとシルヴェステル二世に提案をきりだしてきた。
「千年……」
「どっちかを選ぶがいい。今、おまえが身を破滅させるか……、それとも人類が千年後に滅びるかだ」
シルヴェステル二世の顔が苦悶に歪んだ。額から汗からしたたり落ちる。自分の栄華のために千年後の人類を契約者に差し出すのか、ずっと先の未来の、自分とはなんのゆかりもない人間のために、己の『今』を捨てさるのか。彼は口元から声を絞り出した。
「なぜ、なぜ私なのです…」
「ふ、それはおまえが、キリスト教の最高位の聖職者でありながら、イスラムの神にも通じた者だからだ」
シルヴェステル二世が力なくその場に膝をついた。彼は視線を下にむけ、足元の石畳の目を見つめることしかできずにいた。
若かりし頃、知識欲旺盛だったシルヴェステル二世は、勉学のためにほかの宗教を研究したことがあった。あくまでも興味の範囲であり、アカデミックな対象のひとつでしかなかった。彼はほかの宗教を知ることで、あらためてキリスト教への造詣を深められるものと信じていた。
だが、彼はたちまちイスラムの教えに魅せられてしまった。それは学問の範疇をこえて、彼のなかの信じるべきもうひとつの『教え』となってしまった。ふたつの宗教は、おなじ『ただ一人の神』を崇拝しながら、『三位一体』や『神の子』、『唯一神』や『預言者』の概念や教え、規律は異なり、お互いが相いれないものであることは彼もわかっていた。ただ、この世に生まれおちた迷える人々に、道をしめして救いを授けるその教えはおなじなのだ。
なんとかしたい……。
その情熱的な思いを持ったがゆえに、だれにも打ち明けられず、悶々と苦しむ彼に悪魔がつけ込んだ。両方の信者を統べる力を与えると、文字通り悪魔が耳元で囁いた……。
シルヴェステル二世が後悔の念に身悶えしていると、どこからか紛れ込んできた一枚の紙切れが目のまえに滑り込んできた。
「二つの神に心を捧げし者、契約書だ」
彼は手元の『契約書』に目をやった。そこにはなにも書いていなかったが、ただの紙片ではなかった。全体がどす黒いなにかに取り憑かれていた。
「契約をしろ、シルヴェステル。そうすれば、おまえの人生は栄華を極めたまま終えることができるだろう。その後の人間たちはおまえの思い描くがままに、あらゆる困難を乗り越え、栄え続けることができる……千年のちまで」
「主よ。お許しを……」
シルヴェステル二世はよろよろと立ちあがると、祭壇の上に置いてあったナイフを手に取った。彼のなかに迷いは一片もなかった。ここに来たときからすでに腹を括っているつもりだった。いや、すでに運命に身を委ねていたというほうが正しい……。
彼はナイフを指先に押し当てて横にひいた。指から血がぷつぷつと吹き出す。それと同時に地面に落ちていた契約書が、つむじ風に巻き上げられたように空中を舞った。指先から流れでた血が一筋の糸のように、空中に棚引いていく。やがてその血は中空で文字となって踊り、『Silvester 2』の署名となって契約書に軌跡をえがいた。
「決まりだ!」
「これで千年間はおまえたちのものだ。今から千年後まではおまえたち人間は、この地上で思うがまま栄華をむさぼるがいい」
「千年間……。千年ののちはどうなるのです?」
「そののちの千年は我々の時代となる。西暦二千年以降、おまえたち人間の時代は終わり、我らの千年王国が栄える」
「千年王国……
しかし、悪魔は実体を持ってはいないはず。人の心の隙間に巣くうから生きていられる。人を滅ぼして、どうして千年王国を築けるというのです」
「『地獄の門』をひらけば、肉体は手に入るのだ」
「ど、どうやってそんな真似が……」
「百万の生きた魂を集めればいい。たったそれだけだ……」
「ばかな!。実体をもたないおまえたちに、生きた魂を獲る力などあるはずない」
契約者がまた耳障りな声で高笑いをはじめた。しばらく笑ったあと、契約者は確信めいた声色でシルヴェステル二世に言った。
「おまえの言うとおりだ、シルヴェステル。
人間は『生』ある限り、我らにその身を自由にさせぬだけの強い意志をもっている。
我らの甘言に耳を貸さないだけの、揺るぎない覚悟をもっている。
我らの誘いを己の力で正せるだけの、ただしい心をもっている……」
シルヴェステル二世は、敗北宣言ともとれる契約者の吐息まじりの告白に、ほっと胸をなで下ろした。彼は天井にむけて声を張った。
「ならば、おまえたちの千年王国は、千年のちに叶わない」
「あぁ、そう、できぬな……『現世』ではな」
重たい、とても重たい響きだった。まるで内臓の各臓器がひとつづつ、引き剥がされながら嬲られていく。そんな身の毛がよだつような感覚がからだを支配していく。
「な……なにを……」
「我々はおまえたちの『前世』に取り憑く」
「どういうことです?」
そう問いかけながら、すでにシルヴェステル二世は立っていらなかった。彼は祭壇に手をかけてもたれかかっていた。精神が侵されて脳内に、穢れが沁みこんでくるような感覚だった。
「知らぬほうがいい。こののちの人生、後悔の念に塗れたくはあるまい……。
ジェルベール・ド・オーリヤックよ」
「ですが……」
「もうおまえには関係ない……」
「すべては千年ののちに……」
------------------------------------------------------------
参考文献:図解 近代魔術 著者: 羽仁礼 新紀元社
参考サイト:
フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)「シルウェステル2世 (ローマ教皇)」
https://bushoojapan.com/tomorrow/2019/05/12/99137
https://6556.teacup.com/shugyo/bbs/2563
現在では表記はシルウェステル2世のほうが多いが、むかし調べた時期には「シルベステル」と記載されていたこと。英語表記で出てくるのであえてその綴りの読みを優先させてもらった。
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