ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜

第6話 貴様がトラウマと呼んでいるヤツの正体は……

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 四人は近くのファスト・フードショップで話をすることになったが、おのおのの注文したハンバーガーセットを目の間にしても、だれも手をつけようとしなかった。
 どうにも居心地がわるい時間が経過しそうだと感じて、聖が口火を切った。
「あらためて自己紹介させてもらうよ。ぼくは夢見聖ゆめみ・せい。こちらにいるのがいとこの広瀬・花香里ひろせ・かがり。ふたりとも高校二年生だ」
 紹介をされてかがりがぺこりと会釈すると、エヴァがうれしそうに微笑んだ。
「そう、じゃあ、わたしたち同学年っていうわけね」
 エヴァは自分の胸元に手をあててから、
「わたしはエヴァ・ガードナー。で、こっちがマリア・トラップさんよ」と言った。
「ちょっと待って。この子、マリアが……、おない年……」
 聖がまごついていると、とたんにマリアが機嫌を悪くした口ぶりで機先を制した。
「おい、聖。悪かったな。こう見えてもオレもおまえたちと同い年だ」
「あ、いや、そういう……」
「聖さん、ごめんなさいね。マリアさんは幼女に間違えられるのが一番気に障るの」
 マリアはそのフォローには言葉を付け加えようとはせず、目の前のフレンチフライを数本まとめて口に放り込んだ。
「あの~。あなたたちは何者なのかしら。外人さんにしては日本語がうまいけど……」
 かがりがおそるおそる疑問を口にした。
「あ、ほんと、褒められるとうれしい。わたし、すっごい勉強して覚えたから……」
「おー、おー、偉い、偉い。オレは五歳の時から日本にいるから、しゃべれて当然だけどな」
 そう言いながら、マリアがまたフレンチフライを口にする。
「マリアさん。よくそんな不飽和脂肪酸の固まりみたいな食べ物を口にできますね」
「は、からだに悪いのは百も承知だ。だがオレにはカロリーが足りねぇんだ。すこしでもおおきくなりてぇからな」
「あ、いや、それはたんぱく質をとったほうが……」
 おもわず、かがりがマリアにむかってアドバイスをしかけたが、マリアがそれをドスのきいた問いかけで断ち切った。
「で、聖、貴様はなにものだ?」
 聖はおおきな口を空けてハンバーガーにかじり付こうとしたが、そのままテーブルに戻してから答えた。
「マリア、エヴァ、きみたちこそ何者なんだい。なんであんなところにいたのかな?」
「貴様の方こそなんの用があってあんなところにいた」
「ぼくは昏睡病の患者を救おうとしていたんだけど……」
「はぁ、救うだとぉ?」
 マリアがからだを前に乗り出して、声をあらげた。
「きみたちもそうじゃないの?。だってボクを『トラウマ』と勘違いして、いきなり殺そうとしたんだから……」
 フレンチフライを摘みあげようとしていたかがりが、ビクッと身体をふるわせ、聖の方を見る。
「殺そうと……って、それどういうこと?」
「かがり、心配しなくていいよ。あっちの世界でマリアが問答無用で斬りかかってきただから」
「斬りかかったって。マリアさん、それどういうことなんですか!」
 かがりがいきり立ってマリアに厳しい目をむけた。そのあいだに挟まれた形のエヴァがかがりを諌めるようにに手をひろげて制した。
「待ってください、かがりさん。誤解だったんですよ」
「ちょっとぉ。聖ちゃんは、誤解で殺されそうになったってこと?」
 エヴァの説明にもかがりの憤りは収まらないようだったが、聖はかまわずマリアたちに訊いた。
「で、きみたちも『トラウマ』を始末しに、あの世界に潜っているんだろ」
 マリアがちいさい背丈を思いっきり伸ばして、対面の聖に顔を近づけた。
「おまえが言っている『トラウマ』っていうヤツがよくわからんのだがな」
 聖が額に手をあてて、いかにも失敗という顔をして言った。
「あ、ごめん。ボクと叔父さんが勝手にそう呼んでるんだった。でも、きみたちも出会ったことあるでしょう。う~ん、なんていうか……、人の『未練』とか『後悔』を晴らさせないようにするマイナスのエネルギーが形になったものっていうのかなぁ……」
「とにかく、何者かに憑依して、昏睡病患者を救おうとするのを邪魔するヤツだよ」
「あぁ。そういうことか。オレたちもそれは知っている。だが、あいつは人間ひとりの力で簡単に排除できるほど弱くない」
「だから、わたしたちはチームで潜ってるんですわ」とエヴァがマリアを補足した。
「そうなの?。ぼくはひとりでも倒せたけど」
「それは運がよかっただけですよ」
「は、どうせ弱っちいヤツにしか当たらなかったのさ」
 エヴァもマリアも聖を否定してきたが、聖はさほど気にすることなく簡単に合点してみせた
「ま、確かに。どれもあまり歯ごたえなかったし……」
「そんなことない」
 かがりが突然声を張りあげた。聖の腕を掴んで、揺さぶりながら言う。
「聖ちゃん、一回、死にかけた」
 聖はかがりにからだを揺さぶられながら、参ったな、という顔をした。
「あぁ、そうだった。ハマリエルっていうヤツに、一度やられかけたことが……」
「ハマリエルだとぉ!」
 マリアが勢いよく立ち上がり、聖の胸ぐらをつかんだ。低いからだを背伸びさせてテーブルの上に乗り出したせいで、コーラがこぼれ、ポテトがテーブルの上に散乱した。あまりの血相に周りにいた客たちが一斉にマリアのほうに目をむける。
「聖、貴様、ウソをつくなぁ!」
「ハマリエルって……。嘘でしょ」
「ウソじゃないよ。あいつ、自分からそう名乗ったンだから……」
「貴様に倒せるはずがない。アイツは横道十二宮の一人だぞ」
「横道…。なにそれ?」
 顔色をうしなった表情でエヴァが呟くように言った。
「信じられないわ。わたしたちはそんなものに出会ったことありません……」
「あったりまえだ、エヴァ。もし出会っていたら、オレたちはここにはもういねぇ」
 聖は自分の目の前でやりとりされる意味不明の内容に、仏頂面をして言った。
「マリア、意味がわかんないんだけど」
 マリアは聖の胸ぐらを掴んだ腕にさらに力をこめて言った。
「貴様はなんと戦っていると思ってる!」
「知らないよ!。だから『トラウマ』って呼んで……」
「その『トラウマ』と貴様が呼んでいるヤツ……」


「それはデーモン、つまり悪魔なんだよ!」
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