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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第5話 まさか、こんなチャラい野郎が能力者だとはな!
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「『サイコ・ダイバーズ(PSY・CO DIVERS)』だと?」
その呼称を耳にしても、叔父の夢見輝雄は怪訝そうな表情で呟いただけだった。聖は叔父が彼女たちのことを知っていて隠しているのではないかと訝っていたが、表情から察するに、叔父自身も初耳だったようだ。
「ほんとうに、こちらの時代の人間だったの?」
かがりがおずおずと尋ねてきた。自分の父親の専門分野、しかもかなり深刻な事案を聞いて、素人の自分が口を挟んでいいのかと思案したうえでの発言と聖は理解した。
「彼女たちはボクの服装を『詰め襟』と言っていたし、『トラウマ』ということばを知っていた。過去の人間でないのは確かだと思う」
「で、そのふたりは?」
「わからない。そのあとすぐに消えたんだ」
「消えた?」
輝雄が眉をひそめた。頭の回転の叔父のことだから、それ以上なにもわからない、ということを察したのだろう。すでに機嫌がわるそうな顔になっている。
「えぇ。突然、空中に舞いあがっていったんだ」
「その女の子たち、なにか言っていた?」とかがりが素朴な疑問を口にした。
「あぁ、ちっちゃいほうの子は『覚えてろよ』と叫んでいたな」
「な、なにを覚えてろなんだ?」
「彼女たちの名前。幼女のほうはマリア・トラップ。もうひとりの少女はエヴァ・ガードナー……。そう名乗ってた」
------------------------------------------------------------
ズドンとおおきく重たい音がして、サンドバックが揺れた。天井から伸びたチェーンがきしむ音がする。
「おお、聖。久しぶりだな」
ボクシングジムのコーチの大島が声をかけてきた。
「ええ。ここんとこ忙しくて。どうにもからだがなまっちゃって……」
「別にプロボクサー目指しているわけじゃないんだから、無理しなくても……」
「まぁね。でもからだを鍛えてないと、バイトのほうがね……」
「あぁ。そーいや。聖の彼女のかがりちゃんだっけ。そこの親父さんのとこでバイトしてるって言ってたな」
「大島さん。かがりは彼女じゃないよ」
「そうか……?。でもさっきからそこで待ってるぞ」
大島コーチが親指を立てて、道路に面したガラスの壁のほうを指さした。ジムのなかの熱気と汗ですこし曇ったガラス壁のむこうから、かがりがじっと覗き込んでいた。聖が大島のほうにすこしうんざりしたような目をむけた。
「大島さん。かがりは姉貴みたいなモンです」
聖が急いでシャワーを浴びてジムの外にでてきたときには、外はかなり暗くなってきていた。ドアを出てくるなり、かがりが聖の前に液体のはいったシェイカーを突き出した。
「はい。聖ちゃん。プロテイン忘れたでしょ!」
「やぁ、やっぱ学校に忘れてたかぁ。どうも見つからないと思ったよ」
「トレーニング後、30分以内、でしょ」
「あ、サンキュ」
聖はかがりからシェイカーを受け取って、ぐっとプロテインを飲み込んだが、あまりの温さに思いっきりむせかえった。
「かがり。これ、すげー、生ぬるいんだけどぉ……」
「仕方ないでしょ。ずっと待ってたんだからぁ」
「ん、まぁ。そうか……。ありがとう」
「どーいたしまして」
そうぶっきらぼうに言ってきたが、思うところがあるのか、かがりが質問を投げかけてきた。
「でも、なんでボクシングとか柔道とか続けてるの?」
「精神の鍛練……、いや、その実験……かな?」
「実験?」
「うん。あちらの世界ではぼくは精神体でしかないんだけど、からだや精神面を鍛えることで、その精神体の力量が変わってくるんじゃないかと考えているんだ」
「なぁに。つまりフィジカルやメンタルを鍛えることで、スピリシュアルを鍛えようってことなの?」
「おー、かがり、すごいじゃないか。英語が苦手なわりには、ずいぶん頑張った分析だ」
「ちょっとぉ、なによ。それくらいはわかるわよ」
「精神面は子供の頃からかがりに鍛えられてるから大丈夫なんだけどね」と聖がおどけると、かがりが聖の背中を軽くたたいて抗議した。
「もう誰がよぉ」
「ーーったく、苦労して捜してきてみれば、女といちゃついてるってかぁ」
そのとき、背後からドスのきいた少女の声が投げかけられた。聖がおどろいて振り向くと、そこにマリア・トラップとエヴァ・ガードナーが立っていた。
ふたりともアニメから抜け出てきたようなおしゃれな制服を着ていた。個性的なデザインをされた薄いオレンジ系の色合いのブレーザー。かなり短めの丈のスカートにひざ下までの長いソックスという出で立ち。手に持つかばんに「インターナショナル・スクール」の英文字が見てとれる。
「でも、あそこで会ったのは、この人でまちがいなさそうですわ」
エヴァ、ガードナーが一切の物おじもせず、聖をじろじろ見ながら言った。マリア・トラップのほうは苦虫をかみつぶしたような渋い表情だった。
「あぁ。間違いねぇ。だが、まさか、こんなチャラい野郎が能力者だとはな!」
その呼称を耳にしても、叔父の夢見輝雄は怪訝そうな表情で呟いただけだった。聖は叔父が彼女たちのことを知っていて隠しているのではないかと訝っていたが、表情から察するに、叔父自身も初耳だったようだ。
「ほんとうに、こちらの時代の人間だったの?」
かがりがおずおずと尋ねてきた。自分の父親の専門分野、しかもかなり深刻な事案を聞いて、素人の自分が口を挟んでいいのかと思案したうえでの発言と聖は理解した。
「彼女たちはボクの服装を『詰め襟』と言っていたし、『トラウマ』ということばを知っていた。過去の人間でないのは確かだと思う」
「で、そのふたりは?」
「わからない。そのあとすぐに消えたんだ」
「消えた?」
輝雄が眉をひそめた。頭の回転の叔父のことだから、それ以上なにもわからない、ということを察したのだろう。すでに機嫌がわるそうな顔になっている。
「えぇ。突然、空中に舞いあがっていったんだ」
「その女の子たち、なにか言っていた?」とかがりが素朴な疑問を口にした。
「あぁ、ちっちゃいほうの子は『覚えてろよ』と叫んでいたな」
「な、なにを覚えてろなんだ?」
「彼女たちの名前。幼女のほうはマリア・トラップ。もうひとりの少女はエヴァ・ガードナー……。そう名乗ってた」
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ズドンとおおきく重たい音がして、サンドバックが揺れた。天井から伸びたチェーンがきしむ音がする。
「おお、聖。久しぶりだな」
ボクシングジムのコーチの大島が声をかけてきた。
「ええ。ここんとこ忙しくて。どうにもからだがなまっちゃって……」
「別にプロボクサー目指しているわけじゃないんだから、無理しなくても……」
「まぁね。でもからだを鍛えてないと、バイトのほうがね……」
「あぁ。そーいや。聖の彼女のかがりちゃんだっけ。そこの親父さんのとこでバイトしてるって言ってたな」
「大島さん。かがりは彼女じゃないよ」
「そうか……?。でもさっきからそこで待ってるぞ」
大島コーチが親指を立てて、道路に面したガラスの壁のほうを指さした。ジムのなかの熱気と汗ですこし曇ったガラス壁のむこうから、かがりがじっと覗き込んでいた。聖が大島のほうにすこしうんざりしたような目をむけた。
「大島さん。かがりは姉貴みたいなモンです」
聖が急いでシャワーを浴びてジムの外にでてきたときには、外はかなり暗くなってきていた。ドアを出てくるなり、かがりが聖の前に液体のはいったシェイカーを突き出した。
「はい。聖ちゃん。プロテイン忘れたでしょ!」
「やぁ、やっぱ学校に忘れてたかぁ。どうも見つからないと思ったよ」
「トレーニング後、30分以内、でしょ」
「あ、サンキュ」
聖はかがりからシェイカーを受け取って、ぐっとプロテインを飲み込んだが、あまりの温さに思いっきりむせかえった。
「かがり。これ、すげー、生ぬるいんだけどぉ……」
「仕方ないでしょ。ずっと待ってたんだからぁ」
「ん、まぁ。そうか……。ありがとう」
「どーいたしまして」
そうぶっきらぼうに言ってきたが、思うところがあるのか、かがりが質問を投げかけてきた。
「でも、なんでボクシングとか柔道とか続けてるの?」
「精神の鍛練……、いや、その実験……かな?」
「実験?」
「うん。あちらの世界ではぼくは精神体でしかないんだけど、からだや精神面を鍛えることで、その精神体の力量が変わってくるんじゃないかと考えているんだ」
「なぁに。つまりフィジカルやメンタルを鍛えることで、スピリシュアルを鍛えようってことなの?」
「おー、かがり、すごいじゃないか。英語が苦手なわりには、ずいぶん頑張った分析だ」
「ちょっとぉ、なによ。それくらいはわかるわよ」
「精神面は子供の頃からかがりに鍛えられてるから大丈夫なんだけどね」と聖がおどけると、かがりが聖の背中を軽くたたいて抗議した。
「もう誰がよぉ」
「ーーったく、苦労して捜してきてみれば、女といちゃついてるってかぁ」
そのとき、背後からドスのきいた少女の声が投げかけられた。聖がおどろいて振り向くと、そこにマリア・トラップとエヴァ・ガードナーが立っていた。
ふたりともアニメから抜け出てきたようなおしゃれな制服を着ていた。個性的なデザインをされた薄いオレンジ系の色合いのブレーザー。かなり短めの丈のスカートにひざ下までの長いソックスという出で立ち。手に持つかばんに「インターナショナル・スクール」の英文字が見てとれる。
「でも、あそこで会ったのは、この人でまちがいなさそうですわ」
エヴァ、ガードナーが一切の物おじもせず、聖をじろじろ見ながら言った。マリア・トラップのほうは苦虫をかみつぶしたような渋い表情だった。
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