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ダイブ3 クォ=ヴァディスの巻 〜 暴君ネロ 編 〜
第4話 上からは『サイコ・ダイバーズ』と呼べって言われている
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ふいにうしろから声をかけられて、セイは不覚にもぎくりとからだを震わせた。セイが驚いてふりむくと、そこに二人の女の子がいた。
ふたりともトーガを着ていたが、あきらかにこの時代の住民とは違う顔立ちをしていた。
まず感じたのは、もやもやとするような違和感——。
一人はまだ小学生低学年かと思えるような幼女。もう一人は、じぶんとおない年くらいだと思われる少女。はっとするほどの美少女で、メリハリのある女性らしいラインが、トーガの上からも透けてみえる。
幼女が上目遣いでセイにむかって言った。
「おい、貴様。今度は少年の姿を借りたか。ご丁寧に詰め襟の学生服を着ているとはな」
「ちょっと待って。なぜボクの服を詰め襟の学生服と…」
「問答無用だ!。異物は取り除かせてもらう」
幼女が左手を前につきだすと、手のひらの上にちいさな暗雲が垂れ込めた。暗雲のなかから光が瞬きはじめる。セイの頭のなかには数えきれないほどの疑問符が灯っていたが、相手はとまどっている暇も与えるつもりもないらしい。
幼女が左手のてのひらの上の雲のなかに右手を突っ込むと、そのなかから大きな剣をゆっくりと引き抜き出してきた。中世の騎士がつかうような剣。だが、その刃の分厚さ、幅の広さは、幼女のちいさな体には不釣り合いなほど巨大だった。
『なに?』
驚く間もなく、幼女がその剣をセイの頭の上に振り降ろす。セイは瞬時に手の中に光を宿らせた。瞬きもできないほどの一瞬。
幼女がセイにむかって打ち下ろした刃の軌跡は、セイが空中から取り出した刀によって受けとめられていた。
「おまえら、トラウマか!」
問答無用の攻撃にセイがおもわず叫んだ。そのことばに背後でなりゆきを見守っていた少女がはっとしたのがわかった。が、二ノ太刀を浴びせようとする幼女は鼻で笑った
「てめぇ、何をわけのわからんことを!」
「マリアさん。やめてください!!」
少女が大声で幼女マリアを制止した。その瞬間、上から振り降ろした大剣がぴたりと止まった。
セイの眉間を直撃する軸線上、わずか十数センチのところで、切っ先が止まっていた。が、セイが横一線に振り抜いた刀の剣先は、マリアの首元、数センチのところで止まっている。自分の首を刎ねる寸前でとめられた切っ先を、身じろぎひとつせずに目だけをむけてマリアが言った。
「命拾いしたな」
「きみが……だろ」
マリアはセイのことばにを無視して、こちらに歩いてきた少女にむかって怒りをぶつけた。
「おい、エヴァ。なぜ、とめた!」
「マリア。この人、敵じゃないわ」
「なぜ、そう言える。あいつらはどんなヤツにでも化けて、歴史のなかに潜む。詰め襟の学生服を着てるヤツに化けてても不思議じゃない」
「マリア、落ち着いて。今はいつ?」
「ここは西暦60年か70年頃。くそったれの皇帝ネロの時代だ」
「でしょう。だからこの時代から二千年近くあとに生れる『トラウマ』なんていうことばを知ってるはずないじゃないの」
マリアがエヴァをじっと睨みつけたが、すぐに合点がいったのか、セイの眉間の手前で寸止めされていた大剣をすっと、上にもちあげた。
「なるほど……な」
マリアが剣をひいたのをみて、セイもゆっくりと剣先を手元にもどしていく。
「あなたは誰なの?」
エヴァがからだを乗り出すようにして、セイに尋ねた。セイは刀を鞘に収めながら口をひらいた。
「ぼくは、夢見聖。きみたちはいったい何者なんだ?」
エヴァは人さし指をあごにあてて、どうしようか迷っているジェスチャーをした。
「おい、エヴァ。可愛い子ぶるな。さっさと教えてやれ」
マリアが腹立たしそうにエヴァに抗議すると、セイに近づき下から見あげてから言った。
「オレは、マリア・トラップ。二十一世紀から使命を帯びてきた、ある組織の者だ」
セイは彼女たちが自分とおなじ能力をもっている、おなじ時代の人間ではないかと、薄々感じていたが、それをあらためて告げられると、それでも驚きを隠せなかった。
「二十一世紀……。組織……って』
「わたしは、エヴァ・ガードナーと言います。わたしはマリアさんはちがう組織に属しています。でも今は喫緊の事案に対応するために、お互い協力して行動しているんですわ」
「あぁ。オレはいまだに納得してねぇがな。人類存亡の危機じゃあ仕方がねぇ」
「あら、それはわたしもおなじです。マリアさんと組まされるのは大変不本意ですよ」
エヴァもマリアに対して不満をあてこする。そんな茶番もセイにとっては、混乱を深める材料にしかならず、セイはおもわず額に手をやった。
「わからないな。組織……って言われても……」
エヴァがセイの困惑した顔を覗き込んだ。
「わたしたち、自分たちのグループのことを、Psychic Cooperative Diversって名乗っています」と説明すると、そのあとをマリアが受けて続けた。
「上からは『サイコ・ダイバーズ(PSY・CO DIVERS)』と呼べって言われているがな」
ふたりともトーガを着ていたが、あきらかにこの時代の住民とは違う顔立ちをしていた。
まず感じたのは、もやもやとするような違和感——。
一人はまだ小学生低学年かと思えるような幼女。もう一人は、じぶんとおない年くらいだと思われる少女。はっとするほどの美少女で、メリハリのある女性らしいラインが、トーガの上からも透けてみえる。
幼女が上目遣いでセイにむかって言った。
「おい、貴様。今度は少年の姿を借りたか。ご丁寧に詰め襟の学生服を着ているとはな」
「ちょっと待って。なぜボクの服を詰め襟の学生服と…」
「問答無用だ!。異物は取り除かせてもらう」
幼女が左手を前につきだすと、手のひらの上にちいさな暗雲が垂れ込めた。暗雲のなかから光が瞬きはじめる。セイの頭のなかには数えきれないほどの疑問符が灯っていたが、相手はとまどっている暇も与えるつもりもないらしい。
幼女が左手のてのひらの上の雲のなかに右手を突っ込むと、そのなかから大きな剣をゆっくりと引き抜き出してきた。中世の騎士がつかうような剣。だが、その刃の分厚さ、幅の広さは、幼女のちいさな体には不釣り合いなほど巨大だった。
『なに?』
驚く間もなく、幼女がその剣をセイの頭の上に振り降ろす。セイは瞬時に手の中に光を宿らせた。瞬きもできないほどの一瞬。
幼女がセイにむかって打ち下ろした刃の軌跡は、セイが空中から取り出した刀によって受けとめられていた。
「おまえら、トラウマか!」
問答無用の攻撃にセイがおもわず叫んだ。そのことばに背後でなりゆきを見守っていた少女がはっとしたのがわかった。が、二ノ太刀を浴びせようとする幼女は鼻で笑った
「てめぇ、何をわけのわからんことを!」
「マリアさん。やめてください!!」
少女が大声で幼女マリアを制止した。その瞬間、上から振り降ろした大剣がぴたりと止まった。
セイの眉間を直撃する軸線上、わずか十数センチのところで、切っ先が止まっていた。が、セイが横一線に振り抜いた刀の剣先は、マリアの首元、数センチのところで止まっている。自分の首を刎ねる寸前でとめられた切っ先を、身じろぎひとつせずに目だけをむけてマリアが言った。
「命拾いしたな」
「きみが……だろ」
マリアはセイのことばにを無視して、こちらに歩いてきた少女にむかって怒りをぶつけた。
「おい、エヴァ。なぜ、とめた!」
「マリア。この人、敵じゃないわ」
「なぜ、そう言える。あいつらはどんなヤツにでも化けて、歴史のなかに潜む。詰め襟の学生服を着てるヤツに化けてても不思議じゃない」
「マリア、落ち着いて。今はいつ?」
「ここは西暦60年か70年頃。くそったれの皇帝ネロの時代だ」
「でしょう。だからこの時代から二千年近くあとに生れる『トラウマ』なんていうことばを知ってるはずないじゃないの」
マリアがエヴァをじっと睨みつけたが、すぐに合点がいったのか、セイの眉間の手前で寸止めされていた大剣をすっと、上にもちあげた。
「なるほど……な」
マリアが剣をひいたのをみて、セイもゆっくりと剣先を手元にもどしていく。
「あなたは誰なの?」
エヴァがからだを乗り出すようにして、セイに尋ねた。セイは刀を鞘に収めながら口をひらいた。
「ぼくは、夢見聖。きみたちはいったい何者なんだ?」
エヴァは人さし指をあごにあてて、どうしようか迷っているジェスチャーをした。
「おい、エヴァ。可愛い子ぶるな。さっさと教えてやれ」
マリアが腹立たしそうにエヴァに抗議すると、セイに近づき下から見あげてから言った。
「オレは、マリア・トラップ。二十一世紀から使命を帯びてきた、ある組織の者だ」
セイは彼女たちが自分とおなじ能力をもっている、おなじ時代の人間ではないかと、薄々感じていたが、それをあらためて告げられると、それでも驚きを隠せなかった。
「二十一世紀……。組織……って』
「わたしは、エヴァ・ガードナーと言います。わたしはマリアさんはちがう組織に属しています。でも今は喫緊の事案に対応するために、お互い協力して行動しているんですわ」
「あぁ。オレはいまだに納得してねぇがな。人類存亡の危機じゃあ仕方がねぇ」
「あら、それはわたしもおなじです。マリアさんと組まされるのは大変不本意ですよ」
エヴァもマリアに対して不満をあてこする。そんな茶番もセイにとっては、混乱を深める材料にしかならず、セイはおもわず額に手をやった。
「わからないな。組織……って言われても……」
エヴァがセイの困惑した顔を覗き込んだ。
「わたしたち、自分たちのグループのことを、Psychic Cooperative Diversって名乗っています」と説明すると、そのあとをマリアが受けて続けた。
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