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ダイブ2 不気味の国のアリスの巻 〜 ルイス・キャロル 編〜
第9話 アリス、飛んで。ぼくが受けとめる
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ルイスは「アリスへの愛を見せてくれ」というそのことばに勇気を奮い起こした。木立から走り出て、セイの手にぶら下がっているアリスのほうへ手を伸ばした。
「アリス、飛んで。ぼくが受けとめる……」
「怖いわ」
「大丈夫。ぼくが絶対に受けとめるから!」
アリスが身を踊らせた。
ルイスは死んでも落とさない、という気迫で、その落下点に飛び込んだ。
おおきく手をひろげてルイスはアリスのからだを受けとめる。
ルイスがぎゅっとアリスを抱きしめて叫んだ。
「アリス、愛してるよ」
アリスの無事を見届け、ほっとしたセイは自分がすでに元のおおきさに戻ってきていることに気づいた。首を掴まれていたはずが、いつのまにか体を掴まれている状態になっている。
「女王、首を握りつぶせなくて残念だったね」
女王はちいさくなったセイを威嚇するように、顔を近づけた。まさに目と鼻の先に凶悪な顔をした女王のおおきな顔があった。女王が勝ち誇ったように言った。
「おまえの首を食いちぎってやる」
「いえ。ぼくがあなたの首を刎ねる番だよ」
「は、そんなちいさな体でなにができる?。このまま、おまえをトマトみたいに握り潰してもいいんだよ」
セイは小瓶をとりだして、女王の目の前に掲げた。
「ほう、その小瓶でどうしようっていうのかい。またでかくなるのかい。それともあたしにそれを飲ませて小さくしようとでも」
「いいえ、ちがう」
セイはそういうと、ペンをとりだし、小瓶の字に線を書き足した。
『DR「U」NK ME(酔っぱらえ)』
セイは躊躇なくその小瓶を『ハートの女王』の口のなかに投げ入れた。瓶が口のなかに入るなり『女王』の目はくるくると周り、顔が一気に赤らんだ。
「お、おまヱ;;、なにヲ;;、酔わせたくらいデ、勝てると思ってるの!;;」
若干ろれつがまわらない口調で、女王が悪態をついた。
セイはこぶしの『心残り』の力を宿すと、手が炎に包まれた。
「からだ中にアルコールが回っているみたいだよ」
ハッとして女王が自分のからだをみると、おなかのハートマークの周りが赤い色になっているのがわかる。
「火(Fire)ですってぇ!」
セイが炎の宿った手を女王の口のなかにうちつけると、ボッと一気に女王のからだが燃えあがった。
「そうだよ、女王様。あなた『くび(Fire)』だもん」
------------------------------------------------------------
ルイスはアリスを腕に担ぎあげて、黒煙をあげて燃えていく女王を見ていた。
「ドジソン先生……」
「私もあなたのこと愛してるわ。だってお写真撮るの上手だし、どもるところが可愛いもの。何百万回だってキスしてあげるわ」
ルイスはアリスの屈託のない笑顔をみて、ふっとやさしく笑った。
「アリス、それはとっても難しい話だよ。数学的にね。何百万回もキスしてくれるのはうれしいけど、何百万回って最低でも二百万回だろ。一分間に二十回キスするとしても1666時間キスし続けてなくちゃならないんだ。もし1日12時間としても、ボクは23週間もキミからのキスを受けてないといけない」
アリスは、突然、ルイスの頬にキスをした。
「このキスは何百万回分のキスと同じくらい価値があるの」
その様子を遠くから見ていたエドガーが、横でエプロンドレスを着替えているセイに言った。
「ありがとう。思いが叶ったよ」
エドガーが微笑んだ。そのとたんエドガーのからだから、黒人の少年の『魂』がふっと幽体離脱のようにぬけだした、そのまま天空にむかって浮かびあがりはじめる。
それを満足そうに見あげながら、セイが言った。
「引き揚げ《サルベージ》終了……」
「……じゃなさそうだな」
背後からなにかがセイに襲いかかってきた。セイがそれを軽くいなすように避ける。
「なぁ、ハンプティ・ダンプティ?」
「アリス、飛んで。ぼくが受けとめる……」
「怖いわ」
「大丈夫。ぼくが絶対に受けとめるから!」
アリスが身を踊らせた。
ルイスは死んでも落とさない、という気迫で、その落下点に飛び込んだ。
おおきく手をひろげてルイスはアリスのからだを受けとめる。
ルイスがぎゅっとアリスを抱きしめて叫んだ。
「アリス、愛してるよ」
アリスの無事を見届け、ほっとしたセイは自分がすでに元のおおきさに戻ってきていることに気づいた。首を掴まれていたはずが、いつのまにか体を掴まれている状態になっている。
「女王、首を握りつぶせなくて残念だったね」
女王はちいさくなったセイを威嚇するように、顔を近づけた。まさに目と鼻の先に凶悪な顔をした女王のおおきな顔があった。女王が勝ち誇ったように言った。
「おまえの首を食いちぎってやる」
「いえ。ぼくがあなたの首を刎ねる番だよ」
「は、そんなちいさな体でなにができる?。このまま、おまえをトマトみたいに握り潰してもいいんだよ」
セイは小瓶をとりだして、女王の目の前に掲げた。
「ほう、その小瓶でどうしようっていうのかい。またでかくなるのかい。それともあたしにそれを飲ませて小さくしようとでも」
「いいえ、ちがう」
セイはそういうと、ペンをとりだし、小瓶の字に線を書き足した。
『DR「U」NK ME(酔っぱらえ)』
セイは躊躇なくその小瓶を『ハートの女王』の口のなかに投げ入れた。瓶が口のなかに入るなり『女王』の目はくるくると周り、顔が一気に赤らんだ。
「お、おまヱ;;、なにヲ;;、酔わせたくらいデ、勝てると思ってるの!;;」
若干ろれつがまわらない口調で、女王が悪態をついた。
セイはこぶしの『心残り』の力を宿すと、手が炎に包まれた。
「からだ中にアルコールが回っているみたいだよ」
ハッとして女王が自分のからだをみると、おなかのハートマークの周りが赤い色になっているのがわかる。
「火(Fire)ですってぇ!」
セイが炎の宿った手を女王の口のなかにうちつけると、ボッと一気に女王のからだが燃えあがった。
「そうだよ、女王様。あなた『くび(Fire)』だもん」
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ルイスはアリスを腕に担ぎあげて、黒煙をあげて燃えていく女王を見ていた。
「ドジソン先生……」
「私もあなたのこと愛してるわ。だってお写真撮るの上手だし、どもるところが可愛いもの。何百万回だってキスしてあげるわ」
ルイスはアリスの屈託のない笑顔をみて、ふっとやさしく笑った。
「アリス、それはとっても難しい話だよ。数学的にね。何百万回もキスしてくれるのはうれしいけど、何百万回って最低でも二百万回だろ。一分間に二十回キスするとしても1666時間キスし続けてなくちゃならないんだ。もし1日12時間としても、ボクは23週間もキミからのキスを受けてないといけない」
アリスは、突然、ルイスの頬にキスをした。
「このキスは何百万回分のキスと同じくらい価値があるの」
その様子を遠くから見ていたエドガーが、横でエプロンドレスを着替えているセイに言った。
「ありがとう。思いが叶ったよ」
エドガーが微笑んだ。そのとたんエドガーのからだから、黒人の少年の『魂』がふっと幽体離脱のようにぬけだした、そのまま天空にむかって浮かびあがりはじめる。
それを満足そうに見あげながら、セイが言った。
「引き揚げ《サルベージ》終了……」
「……じゃなさそうだな」
背後からなにかがセイに襲いかかってきた。セイがそれを軽くいなすように避ける。
「なぁ、ハンプティ・ダンプティ?」
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