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ダイブ2 不気味の国のアリスの巻 〜 ルイス・キャロル 編〜
第4話 チャールズはアリスに恋してる
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午後になると、ドジソンはアリスと一緒に、テムズ川でのボート下りを楽しむことになった。アリスとルイスがボート漕ぎにでるのを見送ると、セイはエドガーと一緒に、下っていくボートを追いかけるように川沿いを歩き出した。
数メートル歩いたところで、セイはエドガーのほうへ手のひらをかざした。『心残り』の力がエドガーに宿った現世の魂を引き摺りだす。
黒人の少年の顔がエドガーの頭上に現れた。突然意識を表にだされて、少年は一瞬とまどったような表情を見せたが、目の前のセイに気づいて、怪訝そうに聞いてきた。
「あなたは誰?。この時代の人間じゃないよね」
「ぼくはセイ。きみを引き揚げしに、21世紀からきました」
「本当に?。もどれるの?。元の時代に?」
「『昏睡病』のせいで、きみの『魂』は、自分の『前世の記憶』に飲み込まれたんだよ」
「セイ、どうすれば……戻れるんの?」
「このひと……、エドガーさんが『心残り』にしていることを教えてくれるかい。それを晴らすことができたら、きみは21世紀ににもどれるんだ」
それを聞いた黒人の少年の残像が、ふっとエドガーのからだの中に消えた。
エドガーが川沿いに歩き出しながら、噛みしめるように話しはじめた。
「私には取り立てて心残りや後悔といったものはない……。ただあるとしたら、チャールズの秘めた思いをこんなに近くにいながら果たしてあげられなかったことくらいかな」
「それって何です?」
エドガーはすこし言いよどむそぶりを見せたが、 ボートに乗ってはしゃぐアリスの姿を遠めに見ながら口を開いた。
「チャールズはアリスに恋してる」
------------------------------------------------------------
「親子ほども年が離れていませんか」
セイはエドガーとともに洋館の一室にいた。壁をうめつくすような蔵書がそこにはあったが、反対の壁にはおおきく引き伸ばされた写真がいくつも貼られていた。
「わかっている。でもこれを見てくれ」
エドガー、壁のいちばん目立つところに貼られていた何枚かの写真を紹介した。どれもが今よりもうすこし幼いアリスの写真で、なかにはヌードの写真まであった。
「げ、ロリコンじゃん?」
「ロリ…;、なんだい。それは?」
「いや、あーー。ぼくらの国では、幼い子供がすきな人をそう呼ぶ;;」
「彼は出会ったころから、真剣にアリスのことを愛してるんだ」
「それは、ちょっとまずいんじゃあ……」
「しょせん、かなわぬ恋なのは承知だよ。だけど彼は一度もその思いを告白することができなかった。アリスを傷つけたくないって言ってね。どうにかしてアリスを傷つけずに告白させてあげられないだろうか」
「いや、告白したら、マジでまずいことになると思うけど……」
エドガーは困った様子のセイの顔をしげしげと眺めながら、「わるくないな……」とひとこと言った。
「え、ど、いうこと?」
エドガーは小さな小瓶を懐から取り出すと、セイに手渡した。
「これを一滴、飲んでくれないか」
セイはその小瓶のラベルに目を落とした。
『DRINK ME(私を飲んで)』と書かれていた。
セイは上気したような表情でこちらをみるエドガーに促されて、その瓶のコルクを抜くと舌先に一滴垂らした。刺激的な味がすると思っていたが、無味無臭そのものだった。
「エドガーさん、なにも……」
と、目の前のエドガーがみるみる巨人のようにおおきくなるのを感じた。それだけではない。テーブルも椅子もどんどんおおきくなっていく。
セイは手の持ったボトルのラベルをもう一度みた。そしてわかった。
ぼくが縮んでいる……。
思い出した。
『「DRINK ME(私を飲んで)」は、この世界での『スモール・ライト、ビッグ・ライト』だ』
数メートル歩いたところで、セイはエドガーのほうへ手のひらをかざした。『心残り』の力がエドガーに宿った現世の魂を引き摺りだす。
黒人の少年の顔がエドガーの頭上に現れた。突然意識を表にだされて、少年は一瞬とまどったような表情を見せたが、目の前のセイに気づいて、怪訝そうに聞いてきた。
「あなたは誰?。この時代の人間じゃないよね」
「ぼくはセイ。きみを引き揚げしに、21世紀からきました」
「本当に?。もどれるの?。元の時代に?」
「『昏睡病』のせいで、きみの『魂』は、自分の『前世の記憶』に飲み込まれたんだよ」
「セイ、どうすれば……戻れるんの?」
「このひと……、エドガーさんが『心残り』にしていることを教えてくれるかい。それを晴らすことができたら、きみは21世紀ににもどれるんだ」
それを聞いた黒人の少年の残像が、ふっとエドガーのからだの中に消えた。
エドガーが川沿いに歩き出しながら、噛みしめるように話しはじめた。
「私には取り立てて心残りや後悔といったものはない……。ただあるとしたら、チャールズの秘めた思いをこんなに近くにいながら果たしてあげられなかったことくらいかな」
「それって何です?」
エドガーはすこし言いよどむそぶりを見せたが、 ボートに乗ってはしゃぐアリスの姿を遠めに見ながら口を開いた。
「チャールズはアリスに恋してる」
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「親子ほども年が離れていませんか」
セイはエドガーとともに洋館の一室にいた。壁をうめつくすような蔵書がそこにはあったが、反対の壁にはおおきく引き伸ばされた写真がいくつも貼られていた。
「わかっている。でもこれを見てくれ」
エドガー、壁のいちばん目立つところに貼られていた何枚かの写真を紹介した。どれもが今よりもうすこし幼いアリスの写真で、なかにはヌードの写真まであった。
「げ、ロリコンじゃん?」
「ロリ…;、なんだい。それは?」
「いや、あーー。ぼくらの国では、幼い子供がすきな人をそう呼ぶ;;」
「彼は出会ったころから、真剣にアリスのことを愛してるんだ」
「それは、ちょっとまずいんじゃあ……」
「しょせん、かなわぬ恋なのは承知だよ。だけど彼は一度もその思いを告白することができなかった。アリスを傷つけたくないって言ってね。どうにかしてアリスを傷つけずに告白させてあげられないだろうか」
「いや、告白したら、マジでまずいことになると思うけど……」
エドガーは困った様子のセイの顔をしげしげと眺めながら、「わるくないな……」とひとこと言った。
「え、ど、いうこと?」
エドガーは小さな小瓶を懐から取り出すと、セイに手渡した。
「これを一滴、飲んでくれないか」
セイはその小瓶のラベルに目を落とした。
『DRINK ME(私を飲んで)』と書かれていた。
セイは上気したような表情でこちらをみるエドガーに促されて、その瓶のコルクを抜くと舌先に一滴垂らした。刺激的な味がすると思っていたが、無味無臭そのものだった。
「エドガーさん、なにも……」
と、目の前のエドガーがみるみる巨人のようにおおきくなるのを感じた。それだけではない。テーブルも椅子もどんどんおおきくなっていく。
セイは手の持ったボトルのラベルをもう一度みた。そしてわかった。
ぼくが縮んでいる……。
思い出した。
『「DRINK ME(私を飲んで)」は、この世界での『スモール・ライト、ビッグ・ライト』だ』
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