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ダイブ2 不気味の国のアリスの巻 〜 ルイス・キャロル 編〜
第3話 こいつら『トラウマ』じゃないか!!!
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「アリス!」
その時、アリスを呼ぶおとこの人の声が聞こえた。その声にアリスの顔がうれしそうにほころんだ。
「セイ、紹介したいひとがいるの。来て」
アリスはセイの手をとるなり、強引にひっぱって声のするほうへ駆けだした。木々のあいだをぬけると、ふいに視界がひろがった。そこには遠くまで続く田園風景がひろがっていた。そのちかくに三階だての立派な洋館がある。
ここがだれかの邸宅の庭であることが、やっとセイにはわかった。
アリスがセイをひっぱっていく先、ひときわ大きな木のしたで、2人の青年がお茶の準備をしているのが見えた。山高帽をかぶった髭面の男と、ひょろりとした印象をうける優男。
「やあ、アリスがお友達を連れてきたようだ」
連れ立ってくるセイとアリスに、山高帽の男が先に気づいた。
「エドガーさん、この子、チェシャ猫なの」
「おや、おや、キミも犠牲者らしいな。ボクはこんな山高帽をかぶってるから『おかしな帽子屋』にされてしまってるんだよ」
彼はそう言いながら山高帽を脱ぐと、手をセイの方へさしだした。
「ボクはエドガー・ウェストヒル」
「ぼくはユメミ・セイ、セイと呼んでください」
「あまり聞かない響きの名前だね」
「えぇ。ここからずっと遠くの、びっくりする(ワンダー)ようなところからきました」
エドガーはセイと握手しながら、にんまりとした。
「あー、その言い方。きみも彼のファンなんだね」
「彼?」
エドガーはお茶会の準備そっちのけで写真機をいじりまわしている男を指さして紹介した。
「あそこにいるのがチャールズ・L・ドジソンだよ」
ドジソン、見知らぬ客の姿に気づいて、写真機を操作する手をとめると、ゆっくりセイのほうへ歩みよりながら言った。
「よろしく。ボクは、チャールズ・ドー、ドー、ドジソン」
「ドジソン先生ったら、こんなに大きくなったのに、吃《ども》る癖がなおらないのよ」
「セイ、きみは彼に会いにきたんだろ?」とエドガーが言った。
「いえ。ちょっと……」
「あぁ、失敬。きみが知っているのは、本名のドジソンじゃなくてペンネームのほうだよね」
エドガーはアリスが持っていた本に手をやると、表紙を見せながら言った。
「彼はルイス・キャロル。『不思議の国のアリス』の著者だよ」
「不思議の国のアリス……。子供のころ、アニメでみたことがあります」
「え、きみの子供の頃?。アニメってなんだい」
「あ、いえ、なんでもないです。ぼくの国でもその作品は有名です」
あわててセイがごまかすと、エドガーはさきほどより、さらににんまりとした顔で、ドジソンの背中をどんと叩いた。
「聞いたか、チャールズ。きみの作品はイギリスだけでなく、彼の国でもひろく知られているらしい」
「あー、あー、うう、うれしいよ」
アリスがセイの服の裾をひっぱって、うれしそうに言った。
「セイ、実はね、あのお話はこの森の話なの。私がこの森で見たり、聞いたりしたことをドジソン先生がお話しにしたの」
「そ、そうなんだ。アリスはこの森にいる奇妙な生き物たちが見えるらしいんだ」
「セイには見えない?。今も私のまわりにステキな友達がいっぱいきているのよ」
セイはこぶしに光の力を宿らせた。まわりの人々に気づかれない程度のほんのりとした輝きがセイのこぶしを縁取る。その手でさりげなく、目元をもむしぐさをすると、目の前に、さきほどまでは見えなかったものが見えてきた。
いくつもの見慣れない生物が、アリスの周辺を取りまいていた。
むき出しの乱杭歯で威嚇する、半分腐ったようなおぞましい姿の「ウサギ」。
卵のようなずんぐりむっくりとした二人組の男。からだの一部がどろりとスライム状に溶けていて、いまにも腐臭が臭ってきそうにみえる。
病気に冒されているような目つきで、ぼうっとしている「やまねずみ」。だが、その目は悪魔のように目が吊り上がり、存在だけで誰もを不安にさせる。
アリスよりも大きな背丈をした「大いも虫」は、ぶよぶよとした体についた無数の触手を不快な動きでゆすらせていた。その皮膚はとても薄く、外から内臓の動きや血液の流れが透けてみえて、不快感を倍増させる。今はその腹のなかになにかまだ生きて蠢いているものを飲み込んでいて、それがもがき苦しんでいるのが見えていた。
ドードー、とけたたましい鳴き声をさせて鳥が舞い降りてきた。鳥は降り立つやいなや、鋭利なくちばしをこちらへ突き出して敵対心をむき出しにしてきた。目が左右非対称にゆがんでついていて、本当に「鳥」という生物なのか、疑わしく感じる。
アリスの言う『すてきな友達』は、どう控えめにみても、おどろおどろしい化け物の集まりにしか見えなかった。
『こいつら、「トラウマ」じゃないか』
セイはアリスにむかって叫んだ。
「アリス、そいつらから離れて。それは『友達』じゃない!」
セイがこぶしを握りしめて、アリスのうしろにいる『トラウマ』たちに近づこうとした。
しかし、その前に手を広げてアリスが立ちふさがった。
「やめて、セイ。お友達に乱暴をしないで!」
その時、アリスを呼ぶおとこの人の声が聞こえた。その声にアリスの顔がうれしそうにほころんだ。
「セイ、紹介したいひとがいるの。来て」
アリスはセイの手をとるなり、強引にひっぱって声のするほうへ駆けだした。木々のあいだをぬけると、ふいに視界がひろがった。そこには遠くまで続く田園風景がひろがっていた。そのちかくに三階だての立派な洋館がある。
ここがだれかの邸宅の庭であることが、やっとセイにはわかった。
アリスがセイをひっぱっていく先、ひときわ大きな木のしたで、2人の青年がお茶の準備をしているのが見えた。山高帽をかぶった髭面の男と、ひょろりとした印象をうける優男。
「やあ、アリスがお友達を連れてきたようだ」
連れ立ってくるセイとアリスに、山高帽の男が先に気づいた。
「エドガーさん、この子、チェシャ猫なの」
「おや、おや、キミも犠牲者らしいな。ボクはこんな山高帽をかぶってるから『おかしな帽子屋』にされてしまってるんだよ」
彼はそう言いながら山高帽を脱ぐと、手をセイの方へさしだした。
「ボクはエドガー・ウェストヒル」
「ぼくはユメミ・セイ、セイと呼んでください」
「あまり聞かない響きの名前だね」
「えぇ。ここからずっと遠くの、びっくりする(ワンダー)ようなところからきました」
エドガーはセイと握手しながら、にんまりとした。
「あー、その言い方。きみも彼のファンなんだね」
「彼?」
エドガーはお茶会の準備そっちのけで写真機をいじりまわしている男を指さして紹介した。
「あそこにいるのがチャールズ・L・ドジソンだよ」
ドジソン、見知らぬ客の姿に気づいて、写真機を操作する手をとめると、ゆっくりセイのほうへ歩みよりながら言った。
「よろしく。ボクは、チャールズ・ドー、ドー、ドジソン」
「ドジソン先生ったら、こんなに大きくなったのに、吃《ども》る癖がなおらないのよ」
「セイ、きみは彼に会いにきたんだろ?」とエドガーが言った。
「いえ。ちょっと……」
「あぁ、失敬。きみが知っているのは、本名のドジソンじゃなくてペンネームのほうだよね」
エドガーはアリスが持っていた本に手をやると、表紙を見せながら言った。
「彼はルイス・キャロル。『不思議の国のアリス』の著者だよ」
「不思議の国のアリス……。子供のころ、アニメでみたことがあります」
「え、きみの子供の頃?。アニメってなんだい」
「あ、いえ、なんでもないです。ぼくの国でもその作品は有名です」
あわててセイがごまかすと、エドガーはさきほどより、さらににんまりとした顔で、ドジソンの背中をどんと叩いた。
「聞いたか、チャールズ。きみの作品はイギリスだけでなく、彼の国でもひろく知られているらしい」
「あー、あー、うう、うれしいよ」
アリスがセイの服の裾をひっぱって、うれしそうに言った。
「セイ、実はね、あのお話はこの森の話なの。私がこの森で見たり、聞いたりしたことをドジソン先生がお話しにしたの」
「そ、そうなんだ。アリスはこの森にいる奇妙な生き物たちが見えるらしいんだ」
「セイには見えない?。今も私のまわりにステキな友達がいっぱいきているのよ」
セイはこぶしに光の力を宿らせた。まわりの人々に気づかれない程度のほんのりとした輝きがセイのこぶしを縁取る。その手でさりげなく、目元をもむしぐさをすると、目の前に、さきほどまでは見えなかったものが見えてきた。
いくつもの見慣れない生物が、アリスの周辺を取りまいていた。
むき出しの乱杭歯で威嚇する、半分腐ったようなおぞましい姿の「ウサギ」。
卵のようなずんぐりむっくりとした二人組の男。からだの一部がどろりとスライム状に溶けていて、いまにも腐臭が臭ってきそうにみえる。
病気に冒されているような目つきで、ぼうっとしている「やまねずみ」。だが、その目は悪魔のように目が吊り上がり、存在だけで誰もを不安にさせる。
アリスよりも大きな背丈をした「大いも虫」は、ぶよぶよとした体についた無数の触手を不快な動きでゆすらせていた。その皮膚はとても薄く、外から内臓の動きや血液の流れが透けてみえて、不快感を倍増させる。今はその腹のなかになにかまだ生きて蠢いているものを飲み込んでいて、それがもがき苦しんでいるのが見えていた。
ドードー、とけたたましい鳴き声をさせて鳥が舞い降りてきた。鳥は降り立つやいなや、鋭利なくちばしをこちらへ突き出して敵対心をむき出しにしてきた。目が左右非対称にゆがんでついていて、本当に「鳥」という生物なのか、疑わしく感じる。
アリスの言う『すてきな友達』は、どう控えめにみても、おどろおどろしい化け物の集まりにしか見えなかった。
『こいつら、「トラウマ」じゃないか』
セイはアリスにむかって叫んだ。
「アリス、そいつらから離れて。それは『友達』じゃない!」
セイがこぶしを握りしめて、アリスのうしろにいる『トラウマ』たちに近づこうとした。
しかし、その前に手を広げてアリスが立ちふさがった。
「やめて、セイ。お友達に乱暴をしないで!」
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