ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

文字の大きさ
上 下
33 / 935
ダイブ2 不気味の国のアリスの巻 〜 ルイス・キャロル 編〜

第3話 こいつら『トラウマ』じゃないか!!!

しおりを挟む
「アリス!」
 その時、アリスを呼ぶおとこの人の声が聞こえた。その声にアリスの顔がうれしそうにほころんだ。
「セイ、紹介したいひとがいるの。来て」
 アリスはセイの手をとるなり、強引にひっぱって声のするほうへ駆けだした。木々のあいだをぬけると、ふいに視界がひろがった。そこには遠くまで続く田園風景がひろがっていた。そのちかくに三階だての立派な洋館がある。
 ここがだれかの邸宅の庭であることが、やっとセイにはわかった。
 アリスがセイをひっぱっていく先、ひときわ大きな木のしたで、2人の青年がお茶の準備をしているのが見えた。山高帽をかぶった髭面の男と、ひょろりとした印象をうける優男。
「やあ、アリスがお友達を連れてきたようだ」
 連れ立ってくるセイとアリスに、山高帽の男が先に気づいた。
「エドガーさん、この子、チェシャ猫なの」
「おや、おや、キミも犠牲者らしいな。ボクはこんな山高帽をかぶってるから『おかしな帽子屋』にされてしまってるんだよ」
 彼はそう言いながら山高帽を脱ぐと、手をセイの方へさしだした。
「ボクはエドガー・ウェストヒル」
「ぼくはユメミ・セイ、セイと呼んでください」
「あまり聞かない響きの名前だね」
「えぇ。ここからずっと遠くの、びっくりする(ワンダー)ようなところからきました」
 エドガーはセイと握手しながら、にんまりとした。
「あー、その言い方。きみも彼のファンなんだね」
「彼?」
 エドガーはお茶会の準備そっちのけで写真機をいじりまわしている男を指さして紹介した。
「あそこにいるのがチャールズ・L・ドジソンだよ」
 ドジソン、見知らぬ客の姿に気づいて、写真機を操作する手をとめると、ゆっくりセイのほうへ歩みよりながら言った。
「よろしく。ボクは、チャールズ・ドー、ドー、ドジソン」
「ドジソン先生ったら、こんなに大きくなったのに、吃《ども》る癖がなおらないのよ」
「セイ、きみは彼に会いにきたんだろ?」とエドガーが言った。
「いえ。ちょっと……」
「あぁ、失敬。きみが知っているのは、本名のドジソンじゃなくてペンネームのほうだよね」
 エドガーはアリスが持っていた本に手をやると、表紙を見せながら言った。
「彼はルイス・キャロル。『不思議の国のアリス』の著者だよ」
「不思議の国のアリス……。子供のころ、アニメでみたことがあります」
「え、きみの子供の頃?。アニメってなんだい」
「あ、いえ、なんでもないです。ぼくの国でもその作品は有名です」
 あわててセイがごまかすと、エドガーはさきほどより、さらににんまりとした顔で、ドジソンの背中をどんと叩いた。
「聞いたか、チャールズ。きみの作品はイギリスだけでなく、彼の国でもひろく知られているらしい」
「あー、あー、うう、うれしいよ」
 アリスがセイの服の裾をひっぱって、うれしそうに言った。
「セイ、実はね、あのお話はこの森の話なの。私がこの森で見たり、聞いたりしたことをドジソン先生がお話しにしたの」
「そ、そうなんだ。アリスはこの森にいる奇妙な生き物たちが見えるらしいんだ」
「セイには見えない?。今も私のまわりにステキな友達がいっぱいきているのよ」
 セイはこぶしに光の力を宿らせた。まわりの人々に気づかれない程度のほんのりとした輝きがセイのこぶしを縁取る。その手でさりげなく、目元をもむしぐさをすると、目の前に、さきほどまでは見えなかったものが見えてきた。

 いくつもの見慣れない生物が、アリスの周辺を取りまいていた。
 むき出しの乱杭歯で威嚇する、半分腐ったようなおぞましい姿の「ウサギ」。
 卵のようなずんぐりむっくりとした二人組の男。からだの一部がどろりとスライム状に溶けていて、いまにも腐臭が臭ってきそうにみえる。
 病気に冒されているような目つきで、ぼうっとしている「やまねずみ」。だが、その目は悪魔のように目が吊り上がり、存在だけで誰もを不安にさせる。
 アリスよりも大きな背丈をした「大いも虫」は、ぶよぶよとした体についた無数の触手を不快な動きでゆすらせていた。その皮膚はとても薄く、外から内臓の動きや血液の流れが透けてみえて、不快感を倍増させる。今はその腹のなかになにかまだ生きて蠢いているものを飲み込んでいて、それがもがき苦しんでいるのが見えていた。
 ドードー、とけたたましい鳴き声をさせて鳥が舞い降りてきた。鳥は降り立つやいなや、鋭利なくちばしをこちらへ突き出して敵対心をむき出しにしてきた。目が左右非対称にゆがんでついていて、本当に「鳥」という生物なのか、疑わしく感じる。
 アリスの言う『すてきな友達』は、どう控えめにみても、おどろおどろしい化け物の集まりにしか見えなかった。

『こいつら、「トラウマ」じゃないか』
 セイはアリスにむかって叫んだ。
「アリス、そいつらから離れて。それは『友達』じゃない!」
 セイがこぶしを握りしめて、アリスのうしろにいる『トラウマ』たちに近づこうとした。
しかし、その前に手を広げてアリスが立ちふさがった。

「やめて、セイ。お友達に乱暴をしないで!」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...