ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

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ダイブ2 不気味の国のアリスの巻 〜 ルイス・キャロル 編〜

第1話 不気味の国のアリス(Alice in Weired Land)

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 これは、夢見・聖ゆめみ・せいがみずからを『ソウル・ダイバー』と名乗り、まだたったひとりで『トラウマ』と戦っていたときの話。
マリアやエヴァたちと出会う前の、孤独な戦いのなかのひとつ。



「ソウル・ダイバー」

 ダイブ2 不気味の国のアリス(Alice In Weired Land)
      ルイス・キャロル篇 

 その青年は招かれたその謁見の間の、気品に満ちた荘厳さに気圧けおされていた。
 彼はほんの数メートルむこうにいる、この城の主の女性を見つめた。
 豪華な玉座に深々と腰かけているのはヴィクトリア女王だった。ずいぶん歳を重ねられていたが、匂い立つような優雅さや気高さは、謁見するものを圧倒する。
 青年は『晴れ』の場にふさわしい礼装でこの場に臨んでいたが、あまり似合っているとは言いがたかった。その華奢なからだに既製服がどうにも馴染まず、いくぶんだぶついて、どうにも収まりが悪い。
「あー、あのぉぉ、ぼ、ぼくみたいなのが、じょ、じょ、女王陛下に、は、拝謁しても、よ、よ、良いのでしょうか?」
 青年は目の前にいる初老のボディ・ガード、ジョン・ブラウンに、おそるおそる尋ねた。ブラウンは振り向きもせず、青年にむかって厳めしい口調で断じた。
「いいわけなかろう」
 青年は一喝されて肝を潰しそうになったが、ブラウンはそのままの口調で続けた。
「だが女王陛下がご所望されるのだからしかたあるまい。それにもっと昔にはおまえより酷いやつらも謁見を許されておる。『サーカス』とかいう道化ショウの『親指トム将軍』とかいう小人とか、からだがくっついた『シャム双生児』の兄弟とか奇妙なヤツらが、おまえのいるその絨毯に立っておったこともある。安心しろ」
 そう言うとブラウンは青年の背中を軽くおして前に進み出るように促した。
 青年は促されるまま女王の前に進みでると、あわててかしずいた。女王は手元においた一冊の本の表紙にちらりと目を配らせてから、玉座の前でかしこまっている青年に声をかけた。
「ドジソンさん……。あなたのこの本、大変気に入りましたよ」
「あー、あー、ありがとうございます」
「他に何か書いていないのですか?」
 ドジソンは顔をあげると、表情を華やがせた。
「あー、えー、ヴィー、ヴィクトリア女王さま、もー、もちろんです」
 彼は吃音まみれでそう言うと、手元のカバンから危なっかしい手つきで本をまさぐりはじめた。が、どうにも見つからないのか、かばんをひっくり返して、絨毯のうえに中身をぶちまけてしまう。その様子に女王の脇を固める警備兵が、思わず前かがみになるが、女王が手を挙げてそれを制した。
「す、すーー、すみません。ありました」
 青年は照れ笑いをしながら、一冊の本を拾いあげると、楚々と前に進み出て女王にそれを手渡した。うやうやしい態度でその本を受け取った女王は、その本をめくるなり目をぱちくりさせた。
「これはなんです?。何やらわけのわからぬ数字が羅列されているだけのようですが……」
「あ、はい。そ、それは、ぼー、ぼー、ぼくの最新作で『行列式概要』というものです」
「行列……。意味がわからぬのですが」
「あ、ぼー、ぼくは、ほー、本職は数学者なんです。オックスフォード大学で、きょ、きょ、教鞭をとっております」
 うれしそうにしている青年の顔を眺めながら、ヴィクトリア女王は溜息をついた。
「では、この本の続きが書けましたら、是非とも送ってくださいね。チャールズ・ラトウィッジ・ドジソン……」

「いえ、ルイス・キャロル」

 女王が手にした本の表紙には、木の枝の上で笑っている猫を見上げている少女の絵が描かれていた。そしてその横には本のタイトルが筆記体で記されていた。

「Alice In Wonderland(不思議の国のアリス)」
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