29 / 935
ダイブ1 化天の夢幻の巻 〜 織田信長編 〜
第29話 信長の亡骸は見つからなかったンだ。本物の墓があるわけねぇだろ
しおりを挟む
「夢?」
寺の本殿の前で、手をあわせている聖のほうをむいて、かがりが訊いた。まわりには参拝客にまじって多くの外国人客も散見され、にぎわっていた。すでに聖たちのうしろには行列ができ、拝殿が済むのを待っている。
「みたいなモンさ。歴史はなんにも変わっちゃあいないんだから」
「そうだぜ。この本能寺だって偽物だ。あん時の寺は歴史通り、信長と一緒に焼け落ちてなくなっている」
本殿の天井をみあげながら、マリアが憎まれ口を叩いた。かがりはそのことばに納得がいかないのか、マリアに抗議するように言った。
「でも、確かにあの時、わたし、いえ、わたしの前世だったあの女の人の願いが叶って、織田信長は助かったわ」
「あぁ、あの馬鹿は、オレたちが助けた」
「まぁ、気が進まない歴史の改竄でしたけど……」
マリアとエヴァがそれぞれの感想を述べると、かがりはいたたまれない気持ちになった。
「ごめんなさい」
「かがり、なぜ謝る。オレはけっこう楽しかったぞ」
「えぇ。ボランティアでしたから、気が乗らなかっただけですわ」
かがりはふたりの返答にどう返していいかわからず、黙り込んだ。見かねて聖が言った。
「まぁ、ぼくらにとっちゃあ、いつもの通常任務さ。気にかける必要はないよ」
「そ、そう……」
「祐子おばさんにもすこしはぼくらのこと、理解してもらえたし……」
聖のなぐさめのことばにも、かがりはどう答えていいかわからなかった。
「聖さん。せっかく京都にきたんですから。信長さんのお墓に参りましょうよ」
空気を読んだか、読まなかったかわからなかったが、ふいにエヴァが提案してきた。
「エヴァ、いろんなところにあるから行っても無駄だと思うけど……」
「いろんなところにですか?」
「あぁ、信長の亡骸は見つからなかったンだ。本物の墓があるわけねぇだろ」とマリア。
「ゆかりがあるところが、勝手に奉っているだけだからね」
「まぁ、それでも、どこかの神社に参りましょ」
「おまえ、まさか金儲けの願掛けとかじゃないよな」
「マリアさん、そんなわけないでしょ」
ふいにかがりが感慨深げに呟くように言った。
「もし、信長様……、いえ、信長の亡骸が見つかっていたら、光秀は天下人になれたのよね」
「あぁ、歴史研究家はそう言ってるね」と聖が答えると、エヴァもしみじみと呟いた。
「自分に謀反を働いた光秀さんには、意地でも天下を譲らない、ということだったんでしょうね」
「あの大うつけ、何度叩き斬ってやろうかと思ったがな……」
マリアの感想は皮肉たっぷりだったが、聖がその言外に含まれる心情を感じ取って言った。
「でも、本物の侍だった」
「まぁな」
聖の誘導につい本音を漏らさせられて、すこし恥ずかしくなったのか、マリアは聖の顔を覗き込んで挑戦的な目をむけた。
「おい、聖。次、もし信長とあいまみえることがあったら、オレを絶対に呼べよ」
すると聖より先にかがりとエヴァが反応した。
「あーー、マリア。もしかして森坊丸くんに会いに行くとか」
「まぁ、それはいいわ。マリアさん。坊丸さん、とてもイケ面だったし」
「バーカ。そんなのどーでもいい」
「じゃあ、なによぉ」
「かがり、おまえの前世、楽しかったがな。やはり物足りねぇ……」
「次はかならず、オレが信長の御首をいただく」
寺の本殿の前で、手をあわせている聖のほうをむいて、かがりが訊いた。まわりには参拝客にまじって多くの外国人客も散見され、にぎわっていた。すでに聖たちのうしろには行列ができ、拝殿が済むのを待っている。
「みたいなモンさ。歴史はなんにも変わっちゃあいないんだから」
「そうだぜ。この本能寺だって偽物だ。あん時の寺は歴史通り、信長と一緒に焼け落ちてなくなっている」
本殿の天井をみあげながら、マリアが憎まれ口を叩いた。かがりはそのことばに納得がいかないのか、マリアに抗議するように言った。
「でも、確かにあの時、わたし、いえ、わたしの前世だったあの女の人の願いが叶って、織田信長は助かったわ」
「あぁ、あの馬鹿は、オレたちが助けた」
「まぁ、気が進まない歴史の改竄でしたけど……」
マリアとエヴァがそれぞれの感想を述べると、かがりはいたたまれない気持ちになった。
「ごめんなさい」
「かがり、なぜ謝る。オレはけっこう楽しかったぞ」
「えぇ。ボランティアでしたから、気が乗らなかっただけですわ」
かがりはふたりの返答にどう返していいかわからず、黙り込んだ。見かねて聖が言った。
「まぁ、ぼくらにとっちゃあ、いつもの通常任務さ。気にかける必要はないよ」
「そ、そう……」
「祐子おばさんにもすこしはぼくらのこと、理解してもらえたし……」
聖のなぐさめのことばにも、かがりはどう答えていいかわからなかった。
「聖さん。せっかく京都にきたんですから。信長さんのお墓に参りましょうよ」
空気を読んだか、読まなかったかわからなかったが、ふいにエヴァが提案してきた。
「エヴァ、いろんなところにあるから行っても無駄だと思うけど……」
「いろんなところにですか?」
「あぁ、信長の亡骸は見つからなかったンだ。本物の墓があるわけねぇだろ」とマリア。
「ゆかりがあるところが、勝手に奉っているだけだからね」
「まぁ、それでも、どこかの神社に参りましょ」
「おまえ、まさか金儲けの願掛けとかじゃないよな」
「マリアさん、そんなわけないでしょ」
ふいにかがりが感慨深げに呟くように言った。
「もし、信長様……、いえ、信長の亡骸が見つかっていたら、光秀は天下人になれたのよね」
「あぁ、歴史研究家はそう言ってるね」と聖が答えると、エヴァもしみじみと呟いた。
「自分に謀反を働いた光秀さんには、意地でも天下を譲らない、ということだったんでしょうね」
「あの大うつけ、何度叩き斬ってやろうかと思ったがな……」
マリアの感想は皮肉たっぷりだったが、聖がその言外に含まれる心情を感じ取って言った。
「でも、本物の侍だった」
「まぁな」
聖の誘導につい本音を漏らさせられて、すこし恥ずかしくなったのか、マリアは聖の顔を覗き込んで挑戦的な目をむけた。
「おい、聖。次、もし信長とあいまみえることがあったら、オレを絶対に呼べよ」
すると聖より先にかがりとエヴァが反応した。
「あーー、マリア。もしかして森坊丸くんに会いに行くとか」
「まぁ、それはいいわ。マリアさん。坊丸さん、とてもイケ面だったし」
「バーカ。そんなのどーでもいい」
「じゃあ、なによぉ」
「かがり、おまえの前世、楽しかったがな。やはり物足りねぇ……」
「次はかならず、オレが信長の御首をいただく」
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる