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ダイブ1 化天の夢幻の巻 〜 織田信長編 〜
第24話 信長、てめえの命を救うのは、まったく楽じゃねぇぞ
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「たまらんな!」
ものすごい数の悪鬼の軍団が三条堀川から走ってくるのをみて、マリアがうれしそうな顔つきをした。
「今日はサービス・ダイブだと思ってましたのに、そうそうラッキーは続きませんのね」
エヴァがため息まじりにマリアに愚痴をこぼした。
「エヴァ、なにを言ってる。充分なサービス・ダイブだ。エキストラ・ステージ付きとは、破格のサービスじゃねーか」
「まぁ、信長様ほどの方の歴史に干渉しておいて、はいお終い、とはいかないのはわかっていましたけど。けっきょく超過勤務になるのですね」
「は、そもそも、こいつはボランティアだろう」
うしろからセイがふたりにむかって声をかけてきた。
「マリア、エヴァ、数が多すぎる。ぼくは中央の敵をやるから、君らは左と右にわかれて、その両側の敵を頼む」
だが、マリアはそれにたいして、別の提案をしてきた。
「いや、セイ、おまえは右半分の敵をやってくれ。左半分はオレとエヴァの二人で殲滅する」
「二人で?。珍しいね」
「マリアさん、いつ私があなたと一緒に戦うと承諾いたしました?」
エヴァが突然の申し出にすぐに異論を唱えたが、マリアは殊勝な態度で頭を下げた。
「エヴァ、頼む。協力してくれ」
マリアらしくない態度に、エヴァが思わずためらった。
「この戦い。さっさと済ませてぇんだ……。
ドラマの最終回、録画しわすれてきたのを思い出したんでな」
「えーー、なんですの、それ……」
「つべこべ言うなよな。こんな時の、コーオペレイティブ・ダイバーだろ」
「まったく、都合にいいときだけ、そんなこと言うンですね
まったく悪びれることないマリアに、エヴァがぶ然とした顔をむけながら言った。
「それで、マリアさん、どうすればいいの?」
「そのピストル・バイクで敵陣深くとびこんで、一発ぶっぱなしてくれりゃあいい。あとはオレが蹴散らす」
「ぶっ放す?。もうこのピストルには……」
「けちけちすんな。どうせもう充分すぎるほど『気』は回復してんだろ?」
図星を言い当てられたのか、エヴァがあわてて言い訳をした。
「だって、今回はただ働きなんですよ」
マリアはそれを聞き流すと、エヴァのピストル・バイクの後部座席に飛び乗った。マリアが勢いよく座席に座ったので、空中に浮かんでいるバイクのうしろ部分がぐっと沈み込んだ。
「マリアさん、勢いよく乗らないでくださいな」
エヴァはうしろを振り向いて文句を言ったが、マリアは気にも留めずエヴァの耳元に口をよせて囁いた。
「エヴァ、こんな事態でも出し惜しむつもりか」
「マリアさん、だって……」
「オレは嫌いじゃねーぜ。そういうブレねーのは。だが、セイが知ったらどう思うだろうだろうな」
そのひとことにエヴァが観念した表情に変わっていった。すぐに正面に向き直るなり、バイクのエンジンをブオンと吹かした。
「突撃するから、ちゃんと掴まっててくださいね、マリアさん」
「エヴァぁ、ものわかりがよくなったじゃねぇか」
マリアが後部座席で満足そうにほくそ笑んだが、エヴァはそれを無視するように、ぐいっと思いっきりスロットルレバーをひねった。
ピストル・バイクがカタパルト射出装置から発射されたような勢いで、どんと敵陣上空へ一気に飛びだした。
信長が「うおおっ」と感嘆の声をあげた。
興奮が抑えきれないのか、すぐ脇に控えている森坊丸の頭を叩きながら大声をあげた。
「坊丸、見たか。なんという荒馬じゃ!。一気に空を翔けよったぞ」
「ですが、わたくしはあのマリア様が心配でございます。御屋形様」
ずいぶん、畏まった物言いに信長が坊丸の顔を覗き込む。
「どうした坊丸。そちはあの幼子に興味があるのか?」
坊丸が顔をすこし赤らめると、下をむいたまま言った。
「おことばですが、御屋形様。マリア様はわたくしと同い年でございます。幼子では……」
信長がいじわるそうな目つきを坊丸を見てから、兄、森蘭丸に囁くように言った。
「坊丸はあのような、気の荒い女子が好みなのじゃな」
森坊丸がますます顔を赤らめた。
空中に踊りでたエヴァとマリアの車体に、魔物の兵士たちが一斉に目をむけた。獲物を見つけたという爛々とした目。それだけでなく、猛獣を思わせる低い唸り声や、舌なめずりする音、カチャ、カチャという装具がぶつかる音が、そこかしこから聞こえてくる。
「あいつら死ぬのがわかってねーな」
「とりあえず、おおまかに、はらいます」
そう言うと、エヴァがハンドルのトリガーをひいた。
あたりを揺るがすような爆発音とともに、一瞬にして十体以上の魔物たちが吹き飛んだ。
マリアはその爆心地のど真中に飛び降りると、まずは手負いになった数体を大剣で串刺しにした。すかさず奥へ突進し、舞いあがった煙で前方がよく見えずに右往左往しいている魔物たちをぶった斬りはじめた。
地面に黒々とたなびく煙のなかに、背のひくいマリアのからだが埋もれて、魔物たちには、大きな剣がまるでひとりでに動き回っているようにしか見えない。のたくるような軌跡で動きまわる大剣の切っ先だけが、手ぎわよく魔物ののど笛を掻き切っていく。
煙が消えた時には、あらかたの魔物は斬り伏せられていた。
だが、さすがのマリアもかなり体力を消耗したらしく、地面に突き立てた大剣にからだをもたれかけさせて肩で息をしている。
頭上からピストル・バイクに乗ったエヴァが心配そうに声をかける。
「マリア、大丈夫?」
マリアは視線だけを上にむけた
「参ったよ。こちらはただの精神体なのに、こんなに息があがってる。どういう仕組みだ、本当に。まったく難儀でいけねぇ」
「マリアさん、でも、むこうの体、今ごろで3kgくらいダイエットできてるわよ。よかったじゃない」
「ふざけるな。それでなくても大きくなれなくて困ってんだ。小さくなってどうする!」
マリアがエヴァに悪態をついたが、残り魔物たちがじりじりと距離を縮めてきているのに気づいて、もたれかかっていた大剣を引き抜いた。
「やれやれ、休ませねぇーってか」
マリアはうんざりとした表情で、本能寺のほうにむかって大声で叫んだ。
「信長ぁぁ、てめえの命を救うのは、まったく楽じゃねぇぞ!!」
ものすごい数の悪鬼の軍団が三条堀川から走ってくるのをみて、マリアがうれしそうな顔つきをした。
「今日はサービス・ダイブだと思ってましたのに、そうそうラッキーは続きませんのね」
エヴァがため息まじりにマリアに愚痴をこぼした。
「エヴァ、なにを言ってる。充分なサービス・ダイブだ。エキストラ・ステージ付きとは、破格のサービスじゃねーか」
「まぁ、信長様ほどの方の歴史に干渉しておいて、はいお終い、とはいかないのはわかっていましたけど。けっきょく超過勤務になるのですね」
「は、そもそも、こいつはボランティアだろう」
うしろからセイがふたりにむかって声をかけてきた。
「マリア、エヴァ、数が多すぎる。ぼくは中央の敵をやるから、君らは左と右にわかれて、その両側の敵を頼む」
だが、マリアはそれにたいして、別の提案をしてきた。
「いや、セイ、おまえは右半分の敵をやってくれ。左半分はオレとエヴァの二人で殲滅する」
「二人で?。珍しいね」
「マリアさん、いつ私があなたと一緒に戦うと承諾いたしました?」
エヴァが突然の申し出にすぐに異論を唱えたが、マリアは殊勝な態度で頭を下げた。
「エヴァ、頼む。協力してくれ」
マリアらしくない態度に、エヴァが思わずためらった。
「この戦い。さっさと済ませてぇんだ……。
ドラマの最終回、録画しわすれてきたのを思い出したんでな」
「えーー、なんですの、それ……」
「つべこべ言うなよな。こんな時の、コーオペレイティブ・ダイバーだろ」
「まったく、都合にいいときだけ、そんなこと言うンですね
まったく悪びれることないマリアに、エヴァがぶ然とした顔をむけながら言った。
「それで、マリアさん、どうすればいいの?」
「そのピストル・バイクで敵陣深くとびこんで、一発ぶっぱなしてくれりゃあいい。あとはオレが蹴散らす」
「ぶっ放す?。もうこのピストルには……」
「けちけちすんな。どうせもう充分すぎるほど『気』は回復してんだろ?」
図星を言い当てられたのか、エヴァがあわてて言い訳をした。
「だって、今回はただ働きなんですよ」
マリアはそれを聞き流すと、エヴァのピストル・バイクの後部座席に飛び乗った。マリアが勢いよく座席に座ったので、空中に浮かんでいるバイクのうしろ部分がぐっと沈み込んだ。
「マリアさん、勢いよく乗らないでくださいな」
エヴァはうしろを振り向いて文句を言ったが、マリアは気にも留めずエヴァの耳元に口をよせて囁いた。
「エヴァ、こんな事態でも出し惜しむつもりか」
「マリアさん、だって……」
「オレは嫌いじゃねーぜ。そういうブレねーのは。だが、セイが知ったらどう思うだろうだろうな」
そのひとことにエヴァが観念した表情に変わっていった。すぐに正面に向き直るなり、バイクのエンジンをブオンと吹かした。
「突撃するから、ちゃんと掴まっててくださいね、マリアさん」
「エヴァぁ、ものわかりがよくなったじゃねぇか」
マリアが後部座席で満足そうにほくそ笑んだが、エヴァはそれを無視するように、ぐいっと思いっきりスロットルレバーをひねった。
ピストル・バイクがカタパルト射出装置から発射されたような勢いで、どんと敵陣上空へ一気に飛びだした。
信長が「うおおっ」と感嘆の声をあげた。
興奮が抑えきれないのか、すぐ脇に控えている森坊丸の頭を叩きながら大声をあげた。
「坊丸、見たか。なんという荒馬じゃ!。一気に空を翔けよったぞ」
「ですが、わたくしはあのマリア様が心配でございます。御屋形様」
ずいぶん、畏まった物言いに信長が坊丸の顔を覗き込む。
「どうした坊丸。そちはあの幼子に興味があるのか?」
坊丸が顔をすこし赤らめると、下をむいたまま言った。
「おことばですが、御屋形様。マリア様はわたくしと同い年でございます。幼子では……」
信長がいじわるそうな目つきを坊丸を見てから、兄、森蘭丸に囁くように言った。
「坊丸はあのような、気の荒い女子が好みなのじゃな」
森坊丸がますます顔を赤らめた。
空中に踊りでたエヴァとマリアの車体に、魔物の兵士たちが一斉に目をむけた。獲物を見つけたという爛々とした目。それだけでなく、猛獣を思わせる低い唸り声や、舌なめずりする音、カチャ、カチャという装具がぶつかる音が、そこかしこから聞こえてくる。
「あいつら死ぬのがわかってねーな」
「とりあえず、おおまかに、はらいます」
そう言うと、エヴァがハンドルのトリガーをひいた。
あたりを揺るがすような爆発音とともに、一瞬にして十体以上の魔物たちが吹き飛んだ。
マリアはその爆心地のど真中に飛び降りると、まずは手負いになった数体を大剣で串刺しにした。すかさず奥へ突進し、舞いあがった煙で前方がよく見えずに右往左往しいている魔物たちをぶった斬りはじめた。
地面に黒々とたなびく煙のなかに、背のひくいマリアのからだが埋もれて、魔物たちには、大きな剣がまるでひとりでに動き回っているようにしか見えない。のたくるような軌跡で動きまわる大剣の切っ先だけが、手ぎわよく魔物ののど笛を掻き切っていく。
煙が消えた時には、あらかたの魔物は斬り伏せられていた。
だが、さすがのマリアもかなり体力を消耗したらしく、地面に突き立てた大剣にからだをもたれかけさせて肩で息をしている。
頭上からピストル・バイクに乗ったエヴァが心配そうに声をかける。
「マリア、大丈夫?」
マリアは視線だけを上にむけた
「参ったよ。こちらはただの精神体なのに、こんなに息があがってる。どういう仕組みだ、本当に。まったく難儀でいけねぇ」
「マリアさん、でも、むこうの体、今ごろで3kgくらいダイエットできてるわよ。よかったじゃない」
「ふざけるな。それでなくても大きくなれなくて困ってんだ。小さくなってどうする!」
マリアがエヴァに悪態をついたが、残り魔物たちがじりじりと距離を縮めてきているのに気づいて、もたれかかっていた大剣を引き抜いた。
「やれやれ、休ませねぇーってか」
マリアはうんざりとした表情で、本能寺のほうにむかって大声で叫んだ。
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