ぼくらは前世の記憶にダイブして、世界の歴史を書き換える 〜サイコ・ダイバーズ 〜

多比良栄一

文字の大きさ
上 下
22 / 935
ダイブ1 化天の夢幻の巻 〜 織田信長編 〜

第22話 光秀、やはり、おまえでは力不足だったな

しおりを挟む
「どうしたということだ。わたしの名を呼ぶ者がおるぞ」
 自分の名を呼ぶ声に明智光秀は、床几しょうぎと呼ばれる折畳み椅子から思わず立ちあがった。背後に鎮座していた斎藤利三としみつがいかめしい顔で光秀に言う。
「信長公を討ち取ったという鬨の声ではありますまいか」
 そこへ別の兵に肩を抱えられながら、痛々しい姿の伝令が光秀の前に歩み出ると、顔をゆがめながら跪いた。
「どうした。信長公を討取ったか?」
「恐れながら、光秀様。信長公討伐先鋒、三宅孫十郎様、安田作兵衛国継様・明智左馬助秀満様が討ち死にされました」
「な、なんと申した」
「先鋒の部隊はほぼ全滅状態でございます」
「ど、どういうことだ。まさか信長公が兵を隠して、我々をたばかったという……」
 光秀は動揺のあまりことばに詰まってしまった。それを見て取った五宿老のひとり、藤田伝五が進み出て伝令に尋ねる。
「信長公の嫡男、信忠殿の兵が加勢にきたのか?」
「いえ。それが……、それが、たった三人の小姓に討取られてございます」
「たった三人の小姓……だと……」
 光秀の声は消えいりそうなほど小さくなった。圧倒的な戦力差、しかも朝早くから奇襲をしかけたのだ。
 信長をひとり討取るのに、てこずるなどという状況をどうして信じられようか?。
 光秀が次の一手をどうしていいかわからず、周りに重臣たちのほうに意見を求めようとした。
 その時、またあの声がきこえてきた。
「光秀さん。あなたに話がある。こちらに来てほしい」
 伝令がかしずいたまま、悔しさまじりに叫んだ。
「あいつが……、あの小姓が、我が方の兵を撃破した小姓です」
「ど、どうすればーーー」

「光秀、やはり、おまえでは力不足だったな」
 光秀の背後からどっしりと重たい声がきこえてきた。
 斎藤利三としみつだった。
 ただならぬ気配を感じて光秀がふりむく。そこにおおきく足を広げて、ふてぶてしい姿で座っている利三がいた。
「利三、お主、どうしたのだ。おまえらしくない……」
「黙れ光秀、おまえはもう用済みだ」
 ただならぬ利三の雰囲気に、光秀の娘婿で五宿老のひとり、明智光忠が刀の柄に手をかける。
「利三どの、おことばが過ぎま……」
 光忠の叱責のことばは、そのまま彼の最後のひと息となった。
 利三が突き出した右腕が、まるで槍のように光忠の腹を貫いていた。堅牢な胴鎧をも易々と突き破って、利三の腕が光忠の背中からつきだしている。
「明智光忠どの。おまえは、もっと用済みなんだよ」

 あたりの家臣たちが、刀や槍を構えて利三を遠巻きにする。一番正面にいる槍侍が嘆願するような声で叫んだ。
「利三どの!。お控え下さい」
「利三どの……ね。貴様らは俺様が利三だとまだ思うてるか」
 利三は家臣たちをぐるりと見回した。
「ふむぅ、なかには使えそうな兵が、まだおるようだな」
 利三が天空に腕をつきあげると、空中でなにかを掴むような仕草で、拳を握りしめた。とたんに、家臣たちの顔が驚きにゆがむ。いつのまにか利三の手の中に、どす黒い光を放つ光の矢が幾束も握られていた。その光の矢は矢の形をしてはいたが、まるで生き物のようにぬたぬたとのたくっていた。矢じりは鎌首をもたげ、羽根は断末の虫の羽のようにびりびりと嫌な羽音を響かせる。
 利三はぐるりとからだを回転させて、その矢をまわりを取り囲む兵たちに投げつけた。
 矢は放射状に飛び出したかと思うと、次々と兵士を貫いていった。
 次々と兵士たちがその場に崩れ落ちていくのを見て、明智光秀は呆然とするだけだった。自分の片腕と見込んで長年信頼をおいてきた斎藤利三が豹変し、娘婿の明智光忠が惨死し、いままた古参の腕利きの家臣を一瞬にして奪われた。光秀にすれば、この場で膝をおることなく立っていることだけが、信長の家来として戦場を駆けた男としての矜持。
 だが、その矜持だけでは対峙できない敵がここにいる。
「さすが光秀軍の精鋭。なかなかどうして、ずいぶんな数のおとこが蘇ったものだな」
 利三のそのことばに、はっとして顔をあげた光秀は、さきほど矢に射ぬかれた家臣たちが、ゆっくりと立ちあがってきていることに気づいた。
「おぉ、皆の者、無事であったか。伝五殿も……」
 そこまで言って異変に気づいた。立ちあがってきた家臣は、光秀が旧知の者たちではなかった。その顔はまるで伝承で語られる悪鬼そのもの。その体躯からは腐った臭いがまき散らされ、満腔から凶事だけを感じさせる気を放っていた。
「こ、これはなんとしたことだ……」
「光秀、完遂するぞ」
 利三が光秀を睨みつけた。その瞳のなかの邪気に気圧されて、思わず足がすくむ。
「な、なにを完遂すると……」
 利三は200メートルむこうに見えている本能寺の屋根を見やりながら言った。

「しれたこと、信長を討つのだ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

処理中です...