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ダイブ1 化天の夢幻の巻 〜 織田信長編 〜
第19話 信長、うるさいぞ!。このばか!。はやく奥へ引っ込め!
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自分たちのすぐ脇を固めていた部隊が跡形もなく吹き飛んだの目の当たりにして、残された兵士たちが動揺のあまり、後方にたたらを踏んだ。
セイが背後の信長たちのほうへ叫んだ。
「マリア、信長さんを奥へ!。今の騒動で、次の部隊が境内になだれ込んでくる」
「いい感じで、塀もなくなったしな」とマリアが皮肉を挟み込むが、言っている間もなく、壊れた塀から、うぉーっという鬨の声をあげて、槍侍たちが境内になだれ込んできた。寺の周囲は堀に囲まれていたが、塀のあいだから見える信長の姿を目にしては、奮い立たないものはいない。われこそが一番槍を、と勇む者たちが、どんどんと飛び越えてくる。
「マリアさん、ここはわたしが相手します。はやく信長様を!」
エヴァが『ピストル・バイク』のうえから叫んだ。
「マリア、かがりも……、その女の人も奥へ!」
そう叫んでセイが、右手を大空につきあげる。
手のひらに光が集まりはじめる。その光が目もくらむほど光ったかと思うと、セイの手の中には刀剣がにぎられていた。
「うおお……。なんだ今のは?」
信長が興奮を抑えきれず、大声をあげて欄干からからだを乗り出す。
「信長!、うるさいぞ!。このばか!。はやく奥へ引っ込め!」
そう罵りながら、マリアが信長の尻を押して奥の間へ押しこもうとしていると、やにわに自分のうしろに大きな影が落ちたのに気づいた。マリアが振り向くと、自分と信長の盾になるように、黒人の弥助が立ちはだかっていた。
「おい、弥助、おまえも手伝え。おまえの馬鹿力で、この信長を奥の部屋へ押し込んでくれ!」
罵声とともに名指しされた弥助は、驚いてふりむくと、自分を指さしてマリアに尋ねた。
「ワタシ……デスか?」
「なにぃ?。弥助は、ここにふたりいンのかぁ」
「ア、ハイ……イエ……」
マリアはちいさく舌打ちすると、弥助を見あげた。稚児に間違われるほどの短躯のマリアが、大男の黒人の弥助と真正面から対峙する。
「弥助ぇ。おまえ、元々はイエズス会のヴァリニャーノが連れてきた奴隷だったらしいな」
そのことばに背後にいた信長が割って入ってきた。
「あぁ、そうじゃ。だがわしが気に入って『弥助』と名付け、家来にした。マリア殿、なにか文句でもあるのか!」
「すまなかった」
マリアが深々と頭をさげた。
その思いがけない姿に、信長も弥助も虚をつかれた。
「今より未来のローマ法王の代理人として詫びる。時代が時代であった、とは言え、キリスト教の布教のため、罪なき男を奴隷として扱い、その人生を翻弄した……」
「許してほしい」
マリアの真摯な謝罪にどうして良いかわからず、弥助がおろおろとしていると、信長が高笑いをして言った。
「マリア殿、なにかわからんが、その謝罪、快く受けようぞ」
「ちょっと待て、信長。なぜ、おまえが上から目線で言う」
マリアが信長にさらに罵声をぶつけようとしたところへ、森蘭丸と弟の坊丸と力丸の三兄弟が、床に膝をついて信長にむけて||《こうべ》を垂れた。
「御屋形様、わがままを申さず、マリア様のご指示にお従いください」
その真剣な表情に、さきほどまではしゃいでいた信長の表情が凛とひきしまった。
「うむ。わかった」
信長が襖を両側に勢いよく開け放って、奥の間に歩をすすめた。
その姿をみて、マリアがまだ傅いたままでいる森兄弟の元へ進みでると、真ん中に控える森蘭丸に顔を近づける。
「よく言った。蘭丸。さすが信長の寵愛を受けていただけある」
「マリア殿、な、なにを申される」
「隠すな。おまえと信長の関係は、あちらの世界では大変人気があるぞ」
「あ、あちらの世界……。マリア様がいらっしゃる未来でですか?……」
「あ、いや、未来の特殊な世界だ。BLと言ってな。特定の女性が恋い焦がれているのだ」
「『びいえる』ですか?」
「あぁ、BL。ボーイズ・ラブの世界だ。蘭丸、オレもおまえに会えて光栄だぞ」
そのやりとりを聞いていた弟の坊丸が、マリアににじり寄る。
「マリア様、わたしは……、わたしは後世でどのように語られているのですか?」
そのことばにあわてて、末弟の力丸も申し出る。
「わ、わたしもです。わたしはどのように?」
マリアはにこっと笑うと、坊丸の額に自分の額をくっつけた。驚いて坊丸は頭をうしろへひこうとするが、マリアが後頭部をがっちり押さえつけて言う。
「おまえたちは、この本能寺で死ぬ。なにも後世に残せぬままにな」
坊丸は顔色ひとつ変えなかった。まだ小姓の身とはいえ、武士のさだめとして、常日ごろから死ぬ覚悟はしているという矜持がそこにみてとれた。
だが坊丸はまさに目の前にあるマリアの虹彩に映った、自分の顔に気づいてハッとした。そこに映った自分は泣いていた。
いつの間にか目から涙があふれでていた。
「わたしは……」
「だから、おまえたちは生きろ!」
マリアはつかんだ坊丸の頭に力をこめて言った。
「おまえは、おまえたち三兄弟は、ここでは、この世界では死ぬな。生き延びろ。信長なんかのために命を落とすんじゃない」
「しかし……マリア様……」
「信長の命はオレが守ってやる!。絶対にだ」
その時マリアの背後から敵兵の声が浴びせかけられた。
「信長様、覚悟!」
振り向くと、いつの間にか、鎧武者に率いられた槍持ちの足軽たちに囲まれていた。その数、二十人以上。
セイが背後の信長たちのほうへ叫んだ。
「マリア、信長さんを奥へ!。今の騒動で、次の部隊が境内になだれ込んでくる」
「いい感じで、塀もなくなったしな」とマリアが皮肉を挟み込むが、言っている間もなく、壊れた塀から、うぉーっという鬨の声をあげて、槍侍たちが境内になだれ込んできた。寺の周囲は堀に囲まれていたが、塀のあいだから見える信長の姿を目にしては、奮い立たないものはいない。われこそが一番槍を、と勇む者たちが、どんどんと飛び越えてくる。
「マリアさん、ここはわたしが相手します。はやく信長様を!」
エヴァが『ピストル・バイク』のうえから叫んだ。
「マリア、かがりも……、その女の人も奥へ!」
そう叫んでセイが、右手を大空につきあげる。
手のひらに光が集まりはじめる。その光が目もくらむほど光ったかと思うと、セイの手の中には刀剣がにぎられていた。
「うおお……。なんだ今のは?」
信長が興奮を抑えきれず、大声をあげて欄干からからだを乗り出す。
「信長!、うるさいぞ!。このばか!。はやく奥へ引っ込め!」
そう罵りながら、マリアが信長の尻を押して奥の間へ押しこもうとしていると、やにわに自分のうしろに大きな影が落ちたのに気づいた。マリアが振り向くと、自分と信長の盾になるように、黒人の弥助が立ちはだかっていた。
「おい、弥助、おまえも手伝え。おまえの馬鹿力で、この信長を奥の部屋へ押し込んでくれ!」
罵声とともに名指しされた弥助は、驚いてふりむくと、自分を指さしてマリアに尋ねた。
「ワタシ……デスか?」
「なにぃ?。弥助は、ここにふたりいンのかぁ」
「ア、ハイ……イエ……」
マリアはちいさく舌打ちすると、弥助を見あげた。稚児に間違われるほどの短躯のマリアが、大男の黒人の弥助と真正面から対峙する。
「弥助ぇ。おまえ、元々はイエズス会のヴァリニャーノが連れてきた奴隷だったらしいな」
そのことばに背後にいた信長が割って入ってきた。
「あぁ、そうじゃ。だがわしが気に入って『弥助』と名付け、家来にした。マリア殿、なにか文句でもあるのか!」
「すまなかった」
マリアが深々と頭をさげた。
その思いがけない姿に、信長も弥助も虚をつかれた。
「今より未来のローマ法王の代理人として詫びる。時代が時代であった、とは言え、キリスト教の布教のため、罪なき男を奴隷として扱い、その人生を翻弄した……」
「許してほしい」
マリアの真摯な謝罪にどうして良いかわからず、弥助がおろおろとしていると、信長が高笑いをして言った。
「マリア殿、なにかわからんが、その謝罪、快く受けようぞ」
「ちょっと待て、信長。なぜ、おまえが上から目線で言う」
マリアが信長にさらに罵声をぶつけようとしたところへ、森蘭丸と弟の坊丸と力丸の三兄弟が、床に膝をついて信長にむけて||《こうべ》を垂れた。
「御屋形様、わがままを申さず、マリア様のご指示にお従いください」
その真剣な表情に、さきほどまではしゃいでいた信長の表情が凛とひきしまった。
「うむ。わかった」
信長が襖を両側に勢いよく開け放って、奥の間に歩をすすめた。
その姿をみて、マリアがまだ傅いたままでいる森兄弟の元へ進みでると、真ん中に控える森蘭丸に顔を近づける。
「よく言った。蘭丸。さすが信長の寵愛を受けていただけある」
「マリア殿、な、なにを申される」
「隠すな。おまえと信長の関係は、あちらの世界では大変人気があるぞ」
「あ、あちらの世界……。マリア様がいらっしゃる未来でですか?……」
「あ、いや、未来の特殊な世界だ。BLと言ってな。特定の女性が恋い焦がれているのだ」
「『びいえる』ですか?」
「あぁ、BL。ボーイズ・ラブの世界だ。蘭丸、オレもおまえに会えて光栄だぞ」
そのやりとりを聞いていた弟の坊丸が、マリアににじり寄る。
「マリア様、わたしは……、わたしは後世でどのように語られているのですか?」
そのことばにあわてて、末弟の力丸も申し出る。
「わ、わたしもです。わたしはどのように?」
マリアはにこっと笑うと、坊丸の額に自分の額をくっつけた。驚いて坊丸は頭をうしろへひこうとするが、マリアが後頭部をがっちり押さえつけて言う。
「おまえたちは、この本能寺で死ぬ。なにも後世に残せぬままにな」
坊丸は顔色ひとつ変えなかった。まだ小姓の身とはいえ、武士のさだめとして、常日ごろから死ぬ覚悟はしているという矜持がそこにみてとれた。
だが坊丸はまさに目の前にあるマリアの虹彩に映った、自分の顔に気づいてハッとした。そこに映った自分は泣いていた。
いつの間にか目から涙があふれでていた。
「わたしは……」
「だから、おまえたちは生きろ!」
マリアはつかんだ坊丸の頭に力をこめて言った。
「おまえは、おまえたち三兄弟は、ここでは、この世界では死ぬな。生き延びろ。信長なんかのために命を落とすんじゃない」
「しかし……マリア様……」
「信長の命はオレが守ってやる!。絶対にだ」
その時マリアの背後から敵兵の声が浴びせかけられた。
「信長様、覚悟!」
振り向くと、いつの間にか、鎧武者に率いられた槍持ちの足軽たちに囲まれていた。その数、二十人以上。
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