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ダイブ1 化天の夢幻の巻 〜 織田信長編 〜
第14話 この男が、織田信長だ
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森坊丸と力丸の案内で、セイとマリア、エヴァは寺のなかに招き入れられた。すぐに寺の奥のほうから何人もの家臣たちがはせ参じ、周りを取り囲んできた。誰もがすぐに抜刀できるような姿勢で、セイたちの脇を固めている。
中庭に到着したときには、その人数はゆうに二十人は超えていた。そのなかには、興味にかられて顔をのぞかせる公家の者や、数名の女性たちの姿もあった。
『ここに、かがりがいてもおかしくない……よな……』
セイは右手の中指を額に押し当てた。
その指先に光がぼわっと灯る。
その光を額に押し当てながら、まわりにいる人々の顔や姿をぐるっと見回した。
すると、そのなかにぼんやりとした、光輪が浮かび上がって見える人物がいるのに気づいた。
「かがり!」
その方向にむけてセイは叫んだ。まわりの家臣たちはぎょっとして、態度を固くしたが、マリアとエヴァはすぐにセイが声をかけた方向に目をむけた。
そこに若い女性がいた。下働きの飯炊きおんなと思われる簡素な出で立ちで、驚いた表情でそこに立ち尽くしていた。
「かがりだと?。セイ、見つけたか?」
マリアが問いただしてが、すでにセイは正面にいる女性のほうにむかって走り出していた。有無をも言わず転身してきたセイに、家臣の多くがたじろいだ。だが腕に覚えがある数人の刀侍はやにわに刀を引き抜くと、セイの行き先を遮るように前に立ちふさがった。
「控えろ。ここで殺傷沙汰をするつもりはない」
セイはそう警告したが、抜刀した者が簡単に応じるはずもなかった。
セイは拳をぎゅっと握ると、両側に水平におおきく腕を開いて、手のひらを突き出した。
と、両脇に陣取っていた家臣が、空中にパーンとはじかれ、背後にはね飛ばされた。何人かが後方に控えていた者を巻き込む。
あっという間に庭にいた者たちのほとんどが、なぎ倒され、玉砂利の上に仰向けになって転がっていた。
「なんと!。これはどういうことだ」
ふいに寺の奥のほうから、おおきな声が聞こえた。
たった一声で、その場の空気が変わった。家臣たちはみなあわてて腰を落とすと、その場に傅きはじめた。セイに倒されてみっともなく仰臥させられた者も、そそくさと乱れた身なりをただすと、すぐにその場に膝をつき頭をたれた。あたりの空気がみるみる張りつめていく。
「お主はなにものじゃ」
奥の部屋から姿を現した男はおおきな男だった。
背が高いわけではない。満身からあふれ出る迫力がそう感じさせた。その威圧感は、まるで殺気や狂気のような凶暴な『気』そのものが具現化し、情念の経帷子を纏った姿で、立ちはだかっているのではないか、とすら錯覚させられる。
セイにはすぐにわかった。
この男が、織田信長だ——。
中庭に到着したときには、その人数はゆうに二十人は超えていた。そのなかには、興味にかられて顔をのぞかせる公家の者や、数名の女性たちの姿もあった。
『ここに、かがりがいてもおかしくない……よな……』
セイは右手の中指を額に押し当てた。
その指先に光がぼわっと灯る。
その光を額に押し当てながら、まわりにいる人々の顔や姿をぐるっと見回した。
すると、そのなかにぼんやりとした、光輪が浮かび上がって見える人物がいるのに気づいた。
「かがり!」
その方向にむけてセイは叫んだ。まわりの家臣たちはぎょっとして、態度を固くしたが、マリアとエヴァはすぐにセイが声をかけた方向に目をむけた。
そこに若い女性がいた。下働きの飯炊きおんなと思われる簡素な出で立ちで、驚いた表情でそこに立ち尽くしていた。
「かがりだと?。セイ、見つけたか?」
マリアが問いただしてが、すでにセイは正面にいる女性のほうにむかって走り出していた。有無をも言わず転身してきたセイに、家臣の多くがたじろいだ。だが腕に覚えがある数人の刀侍はやにわに刀を引き抜くと、セイの行き先を遮るように前に立ちふさがった。
「控えろ。ここで殺傷沙汰をするつもりはない」
セイはそう警告したが、抜刀した者が簡単に応じるはずもなかった。
セイは拳をぎゅっと握ると、両側に水平におおきく腕を開いて、手のひらを突き出した。
と、両脇に陣取っていた家臣が、空中にパーンとはじかれ、背後にはね飛ばされた。何人かが後方に控えていた者を巻き込む。
あっという間に庭にいた者たちのほとんどが、なぎ倒され、玉砂利の上に仰向けになって転がっていた。
「なんと!。これはどういうことだ」
ふいに寺の奥のほうから、おおきな声が聞こえた。
たった一声で、その場の空気が変わった。家臣たちはみなあわてて腰を落とすと、その場に傅きはじめた。セイに倒されてみっともなく仰臥させられた者も、そそくさと乱れた身なりをただすと、すぐにその場に膝をつき頭をたれた。あたりの空気がみるみる張りつめていく。
「お主はなにものじゃ」
奥の部屋から姿を現した男はおおきな男だった。
背が高いわけではない。満身からあふれ出る迫力がそう感じさせた。その威圧感は、まるで殺気や狂気のような凶暴な『気』そのものが具現化し、情念の経帷子を纏った姿で、立ちはだかっているのではないか、とすら錯覚させられる。
セイにはすぐにわかった。
この男が、織田信長だ——。
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