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ダイブ1 化天の夢幻の巻 〜 織田信長編 〜
第11話 聖、おまえとの思い出ばかりだな
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聖たちは水のなかにいた。
だが、そこはとても明るかった。透明度が高いのはもちろんだったが、水底のほうから眩いばかりの光が差し込んでいることがその理由だった。
聖たちはその明るい深淵にむかって頭から潜っていた。聖を先頭にして、マリアとエヴァが続いている。
ときおり、下から上へ短い光のパルスが槍となって彼らの横を勢いよく通り抜けていく。
水のなかには、複雑にぐるぐると螺旋状に丸まった草のようなものが、無数に浮かんでいた。その茎や葉にあたる部分は、粒が集まったような形をしていて、それがよく目にする藻や海藻の類いではないことがわかる。
「は、なかなかきれいなDNAじゃないか」
マリアが素直な口調で言った。
「螺旋の海もとても透き通って、よどみがないですわ」
エヴァもそれに追随するように、やさしいことばをかける。聖はふだんそんな感想を口にすることなどない二人が、いくぶんナーバスになっている自分を慮ってくれているのだと、すぐにわかった。
「マリア、エヴァ……、ありがとう。でも気をつかわなくていい」
そのとき、目の前に幻影のような映像がイメージとなって通り過ぎた。一瞬で認知しにくかったが、それはかがりが生れてはじめて、自分の目で見た父と母の顔のようだった。
次に見えたのは、幼稚園のかけっこで一番になった時のうれしそうな顔。
奥底から湧いてでたイメージの泡が、彼らのあいだをいくつもいくつもすり抜けていく。
聖と冴と一緒に遊んだ幼少の頃の思い出……。
小学校の頃の一時期、クラスメートに疎まれて寂しい思いをした哀しい記憶……。
ピアノのコンクールで準優勝を勝ち取った晴れがましい日……。
愛犬の『ピノ』が重い病気で死んでしまった時の胸の苦しみ。
冴が昏睡病に倒れ、嘆き悲しむ聖に声もかけられずにいるもどかしい気持ち。
精神へのダイブ中に、聖のヴァイタル・モニタがアラートを鳴り響かせはじめたときの、足が震えるような恐怖……。
聖がマリアとエヴァを紹介してきたときの、なんとも複雑な面持ち……。
「聖、おまえとの思い出ばかりだな」
「当然だろ。いとこなんだから」
水底が見えてくる。その深淵の奥底に半透明のドーム状の物質があった。それはクラゲのカサのようで、無機物なのか有機物なのかも見当もつかない質感で底に貼り付いていた。
底にたどりついた聖は、なんの躊躇もなく、そのカサに両手をあてがうと、一気にそのなかに腕を突っ込んだ。
「大丈夫だ。まだ、柔らかい」
「当たり前だ。昏睡病の発症からまだ数時間も経ってない。これで固まられてたら、オレたちの『任務』はあがったりだ」
マリアがあきれ返ったように聖に言った。
「まぁまぁ、あっという間に重症化した例もありますから、まずは潜れそうでよかったと安心しましょ」
エヴァが聖の心中を慮って、マリアをいさめる。
「ありがとう、エヴァ。でも安心するのは、かがりを引き揚げてからだ」
聖がカサに突っ込んだ腕をおおきく広げると、おおきな穴が開いた。なかから眩い光が漏れ出し、聖の顔をぎらぎらと照らしだす。
「さぁ、いくよ!」
だが、そこはとても明るかった。透明度が高いのはもちろんだったが、水底のほうから眩いばかりの光が差し込んでいることがその理由だった。
聖たちはその明るい深淵にむかって頭から潜っていた。聖を先頭にして、マリアとエヴァが続いている。
ときおり、下から上へ短い光のパルスが槍となって彼らの横を勢いよく通り抜けていく。
水のなかには、複雑にぐるぐると螺旋状に丸まった草のようなものが、無数に浮かんでいた。その茎や葉にあたる部分は、粒が集まったような形をしていて、それがよく目にする藻や海藻の類いではないことがわかる。
「は、なかなかきれいなDNAじゃないか」
マリアが素直な口調で言った。
「螺旋の海もとても透き通って、よどみがないですわ」
エヴァもそれに追随するように、やさしいことばをかける。聖はふだんそんな感想を口にすることなどない二人が、いくぶんナーバスになっている自分を慮ってくれているのだと、すぐにわかった。
「マリア、エヴァ……、ありがとう。でも気をつかわなくていい」
そのとき、目の前に幻影のような映像がイメージとなって通り過ぎた。一瞬で認知しにくかったが、それはかがりが生れてはじめて、自分の目で見た父と母の顔のようだった。
次に見えたのは、幼稚園のかけっこで一番になった時のうれしそうな顔。
奥底から湧いてでたイメージの泡が、彼らのあいだをいくつもいくつもすり抜けていく。
聖と冴と一緒に遊んだ幼少の頃の思い出……。
小学校の頃の一時期、クラスメートに疎まれて寂しい思いをした哀しい記憶……。
ピアノのコンクールで準優勝を勝ち取った晴れがましい日……。
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冴が昏睡病に倒れ、嘆き悲しむ聖に声もかけられずにいるもどかしい気持ち。
精神へのダイブ中に、聖のヴァイタル・モニタがアラートを鳴り響かせはじめたときの、足が震えるような恐怖……。
聖がマリアとエヴァを紹介してきたときの、なんとも複雑な面持ち……。
「聖、おまえとの思い出ばかりだな」
「当然だろ。いとこなんだから」
水底が見えてくる。その深淵の奥底に半透明のドーム状の物質があった。それはクラゲのカサのようで、無機物なのか有機物なのかも見当もつかない質感で底に貼り付いていた。
底にたどりついた聖は、なんの躊躇もなく、そのカサに両手をあてがうと、一気にそのなかに腕を突っ込んだ。
「大丈夫だ。まだ、柔らかい」
「当たり前だ。昏睡病の発症からまだ数時間も経ってない。これで固まられてたら、オレたちの『任務』はあがったりだ」
マリアがあきれ返ったように聖に言った。
「まぁまぁ、あっという間に重症化した例もありますから、まずは潜れそうでよかったと安心しましょ」
エヴァが聖の心中を慮って、マリアをいさめる。
「ありがとう、エヴァ。でも安心するのは、かがりを引き揚げてからだ」
聖がカサに突っ込んだ腕をおおきく広げると、おおきな穴が開いた。なかから眩い光が漏れ出し、聖の顔をぎらぎらと照らしだす。
「さぁ、いくよ!」
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