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ダイブ1 化天の夢幻の巻 〜 織田信長編 〜
第9話 ぼくらが歴史を変えに行く
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「あなたの娘さんは、昏睡病にかかっています」
聖が輝男を前に静かにそう言った。
「聖、なんの真似だ。そんなことはわかってる。わたしは昏睡病の権威なんだぞ」
「輝男おじさん、わかってる。今、あなたは当事者なんだ。肩書きは忘れて」
「そんなことできるか!」
聖は輝男の横でうなだれている女性、かがりの母、祐子に目をむけた。
「それに、祐子おばさんの方はどうしていいのかわかっていないよ」
かがりの母、祐子が顔をあげて聖のほうをみた。
「聖ちゃん。かがり、どうなっちゃうの?」
聖はかがりの母親に会うのは久しぶりだった。
数年前に父親が失踪して聖と妹の冴は、この叔父夫婦に引き取られた。一人娘のかがりとは兄弟同然にして育てられたが、つい二年前にふたりは離婚した。
聖は叔父に引き取られて『夢見』姓を名乗り、かがりは母方の『広瀬』の姓になった。それでも、かがりは父親のラボに頻繁に顔を出していた。だが聖のほうはダイブに時間をとられて、叔母と会う機会にはなかなか恵まれなかった。
この『昏睡病』の研究が離婚の遠因にもなったときけば、なおさら顔をあわせづらい。
叔母には冴ともども、とても良くしてもらったという思いがあったが、正直、聖は苦手だった。あまりにも叔父の研究に理解がない、という気持ちがどうしても先にたつ。
聖はこんな形で、叔母と対面することになったのが残念でならなかった。
「祐子おばさん、大丈夫です。ぼくたちに任せてください」
そのことばに急に気づいたように、叔母が聖のうしろに控えているマリアとエヴァのほうに目をむけた。幼い女の子と今どきの女子高生、しかも外国人というのに、返って不安を覚えたのか、思わず輝男のほうに目をやった。
その目は険しかった。
この子たちをどう信じろというのだ……、と顔に書いてあった。
その無言の圧力に、輝男が煩わしげに言った。
「わかってる。わたしがなんとかする……」
「輝男おじさん!」
聖が語気をつよめて輝男を制した。その場しのぎに適当にあしらわれては、その後の結果次第では返って溝を深める。たまったものではない。
「おじさん。もう一度言うよ。おじさんたちは、今は、娘が難病にかかって、それを心配している家族、当事者なんだ。それにおばさんはこの病気のことをよく知らない……」
「聖、バカを言わないでくれ。専門家がそんなことでは……」
「夢見博士、バカはあんただろうが!」
マリアがたまらず口を狭んだ。日頃から、オレは現実世界のやっかいごとには口を挟まない主義を公言していたが、どうにも我慢がきかなかったらしい。
「博士、専門家だからどうした?。いまのあんたは『患者の家族』なんだよ」
「そうですわ、夢見博士。こんな時だからこそ、平常時とおなじ手順で物事を進めさせてください。わたしたち、専門家に」
エヴァの提言に、輝男が力なく頷いた。
「あぁ……、あぁ、そうだな、エヴァ、マリア。君たちの言うとおりだ。続けてくれ」
聖はもう一度、最初から手順を繰り返すことにした。
「あなたたちの娘のかがりさんは昏睡病にかかっています。娘さんの意識はDNAのなかに受け継がれた前世の記憶のなかに取り込まれそうになっています」
「取り込まれる?。どういうこと?」
「かがりの意識は、今、前世の記憶を追体験してるんです。何度も、何度も……。それが繰り返されると、それが自分の記憶だと錯覚に陥って、それを肯定してしまうんです」
「そうなったら、どうなるの?」
「一生戻ってこれなくなる」とマリアがしゃしゃりでてくる。
「ちょっと、マリア!」
不安を煽るような言い方を、あわててエヴァがたしなめた。
聖もマリアを怒鳴りつけたい気持ちだったが、叔母の顔色がさっと変わったのを見て取ってすぐにことばを繋いだ。
「安心して。戻ってこれるから。心配ない」
だがそのひと言では心がおさまらなかったのか、叔母がたまらず、輝男に声を荒げた。
「あなたが、こんな研究をしているから、かがりが巻き込まれたのよ!」
「何を言っている?」
「わたしは、この研究室にかがりが顔を出すのは、ずっと反対していたの!。この研究に没頭して家庭を顧みないから、離婚したっていうのに。今度は、かがりまで奪うつもり!」
ヒステリックに声をはりあげる祐子に、聖が堂々とした声で宣言した。
「おばさん、ぼくが必ず助ける。だから安心して」
「どうやって!。前世の記憶に取り込まれるんでしょ」
「ぼくらがその記憶を変えに行く」
その力強いことばに、祐子が涙で濡れた目を聖にむけた、
「心配しないで、おばさん。ぼくがかがりを『過去』から引き揚げてきます」
「聖ちゃん、本当に、本当にかがりを救えるの?」
「それができるのが、ここにいるぼくら『サイコ・ダイバーズ』なんだよ」
聖が輝男を前に静かにそう言った。
「聖、なんの真似だ。そんなことはわかってる。わたしは昏睡病の権威なんだぞ」
「輝男おじさん、わかってる。今、あなたは当事者なんだ。肩書きは忘れて」
「そんなことできるか!」
聖は輝男の横でうなだれている女性、かがりの母、祐子に目をむけた。
「それに、祐子おばさんの方はどうしていいのかわかっていないよ」
かがりの母、祐子が顔をあげて聖のほうをみた。
「聖ちゃん。かがり、どうなっちゃうの?」
聖はかがりの母親に会うのは久しぶりだった。
数年前に父親が失踪して聖と妹の冴は、この叔父夫婦に引き取られた。一人娘のかがりとは兄弟同然にして育てられたが、つい二年前にふたりは離婚した。
聖は叔父に引き取られて『夢見』姓を名乗り、かがりは母方の『広瀬』の姓になった。それでも、かがりは父親のラボに頻繁に顔を出していた。だが聖のほうはダイブに時間をとられて、叔母と会う機会にはなかなか恵まれなかった。
この『昏睡病』の研究が離婚の遠因にもなったときけば、なおさら顔をあわせづらい。
叔母には冴ともども、とても良くしてもらったという思いがあったが、正直、聖は苦手だった。あまりにも叔父の研究に理解がない、という気持ちがどうしても先にたつ。
聖はこんな形で、叔母と対面することになったのが残念でならなかった。
「祐子おばさん、大丈夫です。ぼくたちに任せてください」
そのことばに急に気づいたように、叔母が聖のうしろに控えているマリアとエヴァのほうに目をむけた。幼い女の子と今どきの女子高生、しかも外国人というのに、返って不安を覚えたのか、思わず輝男のほうに目をやった。
その目は険しかった。
この子たちをどう信じろというのだ……、と顔に書いてあった。
その無言の圧力に、輝男が煩わしげに言った。
「わかってる。わたしがなんとかする……」
「輝男おじさん!」
聖が語気をつよめて輝男を制した。その場しのぎに適当にあしらわれては、その後の結果次第では返って溝を深める。たまったものではない。
「おじさん。もう一度言うよ。おじさんたちは、今は、娘が難病にかかって、それを心配している家族、当事者なんだ。それにおばさんはこの病気のことをよく知らない……」
「聖、バカを言わないでくれ。専門家がそんなことでは……」
「夢見博士、バカはあんただろうが!」
マリアがたまらず口を狭んだ。日頃から、オレは現実世界のやっかいごとには口を挟まない主義を公言していたが、どうにも我慢がきかなかったらしい。
「博士、専門家だからどうした?。いまのあんたは『患者の家族』なんだよ」
「そうですわ、夢見博士。こんな時だからこそ、平常時とおなじ手順で物事を進めさせてください。わたしたち、専門家に」
エヴァの提言に、輝男が力なく頷いた。
「あぁ……、あぁ、そうだな、エヴァ、マリア。君たちの言うとおりだ。続けてくれ」
聖はもう一度、最初から手順を繰り返すことにした。
「あなたたちの娘のかがりさんは昏睡病にかかっています。娘さんの意識はDNAのなかに受け継がれた前世の記憶のなかに取り込まれそうになっています」
「取り込まれる?。どういうこと?」
「かがりの意識は、今、前世の記憶を追体験してるんです。何度も、何度も……。それが繰り返されると、それが自分の記憶だと錯覚に陥って、それを肯定してしまうんです」
「そうなったら、どうなるの?」
「一生戻ってこれなくなる」とマリアがしゃしゃりでてくる。
「ちょっと、マリア!」
不安を煽るような言い方を、あわててエヴァがたしなめた。
聖もマリアを怒鳴りつけたい気持ちだったが、叔母の顔色がさっと変わったのを見て取ってすぐにことばを繋いだ。
「安心して。戻ってこれるから。心配ない」
だがそのひと言では心がおさまらなかったのか、叔母がたまらず、輝男に声を荒げた。
「あなたが、こんな研究をしているから、かがりが巻き込まれたのよ!」
「何を言っている?」
「わたしは、この研究室にかがりが顔を出すのは、ずっと反対していたの!。この研究に没頭して家庭を顧みないから、離婚したっていうのに。今度は、かがりまで奪うつもり!」
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「おばさん、ぼくが必ず助ける。だから安心して」
「どうやって!。前世の記憶に取り込まれるんでしょ」
「ぼくらがその記憶を変えに行く」
その力強いことばに、祐子が涙で濡れた目を聖にむけた、
「心配しないで、おばさん。ぼくがかがりを『過去』から引き揚げてきます」
「聖ちゃん、本当に、本当にかがりを救えるの?」
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