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第四章 第五節 ヤマトの絶望

第1016話 ブライト・一条憤る

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 ブライト・一条は春日リンの突然の訪問にとまどっていた。しかもゴーストか素体を使ってのコンタクトだと思っていただけに、本人みずからが玄関口に現われたので、なにか大事がおきたと察することができた。
「リン、なにがあった?」

 部屋に招き入れるなり、ブライトはリンに尋ねた。
「タケルくんが撃たれた」
「撃たれた? 容体は?」
 リンは一瞬口ごもったが、我慢できずに吐きだすように言った。
「片腕を消失したわ」
「消失! 切断とかじゃなくてか」
「ええ、粒子銃で分子レベルで消失されたの」

「なんてことだ」
 ブライトはおもわず拳で机を叩いていた。
「取り返しがつかない」
「ええ、その通りよ。渋谷でアスカたちと休暇を楽しんでいるときに、犯罪組織グランディスに襲われたの。タケルくんは妹のヤマト・キラを助けようとして撃たれた」
「警護は? 草薙大佐がついていたのではないのか?」
「ついてたわ。草薙さんだけでなく、バットー、トグサ、イシカワ、サイトー、それにスージーまでもね」
「なんてことだ。それだけの面子が揃っていながら……」
「ええ。草薙大佐は今回の大失態で相当にまいっているらしいわ。上という上から呼び出しをくらって、ことの経緯の説明を求められてる。謝ったところで、なにかが変わるわけじゃないのだけどね」
 ブライトはリンの疲れ果てたような口調が気になった。

「きみは? リン、きみはどうしてる?」
「こっちも大変よ。お偉いさんたちがエラそうに聞いてくるの。いえ、聞いてくるっていうより、ずけずけと遠慮のない意見を浴びせてくるって感じ。
 ヤマト・タケルはデミリアンに乗って戦えるのか?
 腕をうしなったことで、共命率がどれほど変わってくるのか?
 ヤマト・タケルなしで残り6体を駆逐できるのか?
 旗艦のマンゲツはだれが受け継ぐのか——って」
 リンはため息をついて言った。

「ーったく、わたしが知りたいくらいよ」
「だが仕方あるまい。人類滅亡の可能性がでてきたのだから……」
 ブライトはリンに同情をよせつつも、お偉方の焦る気持ちも理解できるような気がした。それだけに自分が今、現場の司令官でないことにホッとする思いだった。ブライトはあまり親密に聞こえないように、ことばを選びながらリンに尋ねた。
「司令官……カツライ・ミサト司令はどうしてる?」

「てーんてこまいよ。人類滅亡したら、おまえのせいだ、と言わんばかりに責立てられてる。まったく勝手ったらない。さすがに同情するわ」
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